33話
「嫌! 放して!」
三人の騎士達にテントのひとつに連れて行かれそうになる。
何か、ただ呑もうという雰囲気じゃなくなってる気がして凄く嫌なんだけど!
鍛えてあるからなのだろうか、体をよじっても上手く躱されて、逆に動きを封じられてしまう。
しかも力が強い。頑張って抵抗しているのに拘束は解けず、逆に疲れてきて力が入らなくなってきた。
ちょっと! 体力差ありすぎ! ヤバイ!
「さ~楽し~事しよ~ね~」
「はいはい入って入って」
「いや~~~~」
「ん~ちょっと静かにしよっか?」
大きな手で口を塞がれた時、真剣に怖くなった。
怖い!怖い!助けて!
その時。
目の前が真っ暗になった。
「ぎゃ~~~~~~なにぃぃぃ~~~~?!」
「おい」
「どうした」
「どうなった」
「なんだ」
酔っ払い達の声がどこか遠くで聞こえる。
「マーヤさん!」
「マーヤ!」
ヒューゴさんの声だ…。
どうやら私は、何かに包まれてて視界が真っ暗だ。…という事は分かった。
とっさに体を丸めた状態より、少し空間に余裕がある。
「何をしていた?」
「何も」
「突然」
「お~いマーヤ~?」
「分からないんです」
「マーヤさん大丈夫ですか?」
外の騒がしい様子からすると、これをしたのは此処にいる人ではなさそう。
「ま、いいから君たちは戻りなさい」
「師匠?!」
「はい」
「すみませんでした」
「すみませんでした」
「さてと。お~いマーヤ?」
どうやら酔っ払いはジェリックさんが返したみたい。
「どうしたんですか?マーヤさん」
「もう大丈夫だぞ?」
そうなの?
でも、この包まれているものからどうやって出たらいいの?
「あの…出られません」
「大丈夫。危険は去った。安全だと思いなさい。強く思うんだよ?」
「はい」
すると、何かで包まれていたのが、頭上で開き、解ける感触がした。
そして視界も広がる。
そこには心配そうな顔をしたヒューゴさんと、微笑みを受がべるジェリックさんがいた。
足元を見て思わず悲鳴を上げかけたが、飲み込んだ。
だって、黒い糸が私の周りに広がっているのだ。
もしかして、さっき、これに包まれていた? 思わず手を伸ばしてみる。
優しい感触。量からして毛布で包まれていた様な感じがした。
しかしそれは段々と消えて行ってしまい、跡形もなくなってしまった。
「…何が起こったんですか?」
「それを聞きたいのはこちらなんだけどねぇ…マーヤ?」
「取り敢えず、お茶でも飲みましょう。私たちのテントへ」
ヒューゴさんに手を引かれ立ち上がると、そのまま促されてテントへ行った。
テントの中で。
折り畳みのテーブルセットがあり、ベンチ式の椅子が二つ向かい合わせに置いてあった。
私はジェリックさんの反対側に座る。
お茶を用意したヒューゴさんは私の隣に腰掛けた。
それを笑ってからジェリックさんが質問をしてきた。
「トイレに行って戻って来るときに酔っ払いに捕まったんです」
「マーヤさん…」
「分かった。あまり一人で出歩かないようにね」
「そうです。余り心配させないで下さい」
ヒューゴさんが優しく背中を撫でてくれている。
「ごめんなさい」
私は素直に謝った。
「怖い思いをさせてしまいましたね、私の方こそすみません」
「そんな。ヒューゴさんが悪い訳ではないですよ」
「いえ、貴方を一人にした。私が悪いのです」
「いえ、私が勝手に!」
「いえ貴方を守れなかった私が悪いのです」
「お~い。いちゃつくのは後からにしてくれ~」
「………」
「あのね」
「いいからいいから。あのね、気になってる事があるんだけど」
「はい?」
「ねぇマーヤ。私達が着いたときに君は、何を見たの?」
「え?」
「何か見たよね。顔が強張っていたよ?」
流石鋭い。
黙っていても仕方がない。私は気になっていた事を聞くことにした。
あの、黒い糸について。
「その前に私も聞きたいことがあります」
「何?」
「このブローチって何ですか?」
「お守りでしょ」
「それ以外に何かありませんか?」
「ないよ」
「でも、これって貴力石ですよね?増幅石も入ってる。ただのお守りとは思えないんですけど」
「その通り。ただのお守りって訳ではないね」
「どんなお守りなんですか?」
「これはね恋人を守るお守りなんだよ」
「は? こ…いびと?」
私も、背中を撫でていたヒューゴさんの手も固まる。
「どういう事ですか?!」
「中央学舎に行ってない君等が知らないのは仕方ないけど、これはね、そこの中の貴族共の中で流行ったお守りなのだよ」
「そう…なんですか」
そのお守りというものは。
3つ石が入れられる(どんなモチーフでも可)ブローチを用意する。
その1つに、透明な貴力石を用意し、防御の魔法が出来るよう施し、自分の瞳の色に染める。
(これが結構大変で、これが出来るのはある程度魔力が必要らしい)
そしてこれが、恋人募集中! の表示なんだとか。(………貴族って暇ね)
好きな人が出来たら、そこに増幅石を追加。モテるから、意中の人以外はお断り! という事になるのね。
恋人が出来たら、そこにもう一つ。とある魔法を施して、ブローチを交換。もしくは渡す。
自分の瞳の色と違う3つの石が入ったブローチをしているという事は、その瞳の色の恋人が居るという事を表しているという事らしい。
そして、何かしら危機があると一回だけ防御してくれるというお守りなんですって。
どうして一回かというと、それで魔力を使い切って無くなってしまうから。
私のブローチも石が全部無くなってしまっていた。
やっぱりこれが守ってくれたんだ。
「なんですかそれ。有名なんですか?」
「貴族や騎士の間では有名かな? でも魔術師で知ってる人は少ないかも」
あぁ、魔術師は中央学舎行かない人多いんでしたっけ。ヒューゴさんも知らなかったみたいだし。
え、じゃあ、あの冒険者さん達は、貴族だったんですか?
「お守りの事分かったね」
「あ、はい」
「じゃあ、教えて。君が何を見たのか」
「あの、さっき、多分、このお守りが私の事を守ってくれたんだと思うんですけど」
「うん、多分そうだね。それが魔力を出しているのは感じたからね」
「それが、黒い糸だったんです」
そう。多分あの私を繭の様に包んだ大量の黒い糸はこのお守りから出ていた。
サイラスさん達はお守りを持っていたのだろうか?
でも、私の時の糸は、あの後すぐに全て消えてしまったので、何故残っているのか不思議だ。
この黒い糸って何なんだろう?




