29話
少々訂正。
「とうッ!」
私は自分に巻き付いてきた黄色い糸を気合で切る。
「あ!くっそ、本当に厄介なお嬢さんだな」
相手の言い分なんか聞かない。
とにかくここから逃げないと!
現在私は呪いを解くイベントから逃げようと、魔術師棟の廊下を爆走中なのです!
とにかく外に出なくては!
しかし、ジェリックさんが面白がって、躊躇いもなく攻撃魔法を掛けてくるので堪りません。
あの人オカシイって!だって、下手したら死ぬって!
やっと、外に出れそうなドアを発見して、飛び込む。
だがしかし!
ドアの前に立っていた騎士に捕まってしまった…。
魔法攻撃には強いけれど、物理攻撃には敵いません。
なんですかその二の腕。運動で細くなった私の太腿くらいないですか?
こっちは細くなったとはいえ殆ど脂肪だと思うんだけど、あなた100%赤身でしょ。
「いや~ありがとう」
ジェリックさんが怪しい笑みでこっちにやってくる。
私は小脇に抱えられた状態で、足がプラ~ンとしているので、逃げられない。ナニこの荷物扱い。
そして、ジェリックさんに無言で差し出されてしまった。
そして、ジェリックさんも私を小脇に抱える…。
思わず顔を見上げると
「私だって男ですからね。これくらいの力くらいあります。魔法が効かないなら仕方ありません。武力行使はあんまり好きじゃなんですけどね…」
ちょ、散々攻撃魔法ぶっ放しといてどの口が!と、文句を言いたかったのですが、
笑顔が怖い…。
「お嬢さんに教えておきたい事があります」
そう言ってジェリックさんはすこし屈んで、私に顔を近づけてくる。
「私たちはね、元々は狩猟民族なんです。逃げられたら追いたくなるのは本能なんですよ?」
ニヤリと笑ったその顔と、迫力に固まった。
いや、でもお腹が苦しいので開放してください。子供じゃないんで自重に耐えられません…。
私の涙の訴えで、荷物的扱いはなくなったのですが。
こ、腰に手を回すの勘弁して下さい! 恥ずかしい上にくすぐったい!
これにも逃げようとしたら
「マーヤ、君往生際が悪いねぇ」
なんて嫌な笑みで言われる。怖いよ!この人ホント怖いよ~!
「だってくすぐったいんです!ダメなんです!」
言い訳したら、ふうん。なんて笑って手を繋いできた。しかも指を絡ませる恋人繋ぎ。
いじめっ子だ。エリーナさんよくこの人と結婚してたよ。尊敬致します…。
そんな羞恥プレイの上連れて行かれたのは、騎士団棟の第二騎士団団長室。
半分くらい魂の抜けかけた私をヒューゴさんは「大変でしたね」と癒してくれた。
ありがとうございます~。さすがあの人の弟子!分かってらっしゃる!少し救われた。
さて、大きなテーブルのお誕生日席には団長さん。両脇に元夫婦。私はエリーナさんの隣。その隣はヒューゴさん。
私の向かいはサイラスさん(ユーグドイル男爵。名前呼びを強要された)そのとなりはイザークさんが(名前呼…以下省略)席に着いた。
テーブルに並んでいる美味しそうなランチ。だけどきっと味わえないんだろう。
消化もきっと悪いはず。トホホ。
「で、二人が呪われてるんだって?」
団長さんがニコニコ笑う。
「はぁ…」
「さぁマーヤ、その黒い糸から情報が引き出せるか試してみてよ」
………。なんでジェリックさんが命令すんの。
というか、ここに来てからジェリックさんが仕切る事多いですよ!
でも、さっきの捕まった時の事が怖かったので渋々従う事に。
ずっと触っているのが嫌なので、何かに巻きつけようと、目についたフォークをそのままに立ち上がったらサイラスさんが、ちょっと脅えた顔をした。……ちょっと不味いか。スプーンに変更。
サイラスさんにも立ってもらって、右手首に巻き付いている黒い糸をそろっと掴んだ。
ぞわっと何かが手から背中を通って頭から抜ける。
「ウヒィィィ!! と、鳥肌が!!」
思わず声を上げたら、サイラスさんが悲しそうな顔をした。マズイ傷つけてしまったかしら?
「大丈夫ですよ~?」
と、何とも言えないフォローをしつつ、糸をスプーンに巻き付けた。
肘の所のも掴む。鳥肌が立つのは一緒。だけど、何かが違う。ほんの少しだけだけど。
それから、胴体の所を掴んでみた。
「うわ!」
「どうしたの?」
「胴の所はちょっと強い感じがします」
「へ~。場所によって違うんだ。それにどんな感じがするの?」
「えっとですね、鳥肌が立つのはどれも一緒で、傷を付けたりしようとする感じがないのも一緒です。
でも、何かほんの少しづつ違うんですよ。よくわかんないんですが。ごめんなさい」
私の言葉で皆が考え込む。
取り敢えず、気持ち悪いけど危険は無さそうなので、全部取り払うことにした。
胴体も割と沢山巻き付いているので、「失礼します」と断りを入れて、私はサイラスさんにあまり接触しないよう気を付けて糸を解いた。
でも、ひとつ嫌な感じがするのがあるんだ。それを残して全てを取り除いたらサイラスさんが
「体が軽くなった気がします!」
そう喜んでいた。
だって、ソフトボール程の大きさの毛糸玉が巻きついた様な不気味なスプーン。重いのよ。
この重量分確実に軽くはなってると思うのね。
「よかったですね」
ちょっと皮肉を込めたつもりだったけど、サイラスさんはとても嬉しそうに
「ありがとう」
と言ってくれた。申し訳ない気持ちになったので、嫌な感じのする首の所も取ってあげることにする。
でも、ちょっとフォローをお願いしたい。
仕切ってるジェリックさん、こんな時こそ助けて下さいよね!
「ジェリックさん」
「ん?なんだい?マーヤ」
「後は首の所だけ残ってるんですが、これだけ嫌な感じがするんですよ」
「ほう」
「取ろうと思うんですけど、一応何かフォローとかしてくれません?」
「いいよ、マーヤちゃんの為だからね。頑張りますよ?」
「私もお助けします!」
ヒューゴさんまで!
「ありがとうございます。じゃあお願いします」
「う~ん。呪いだからガードでも掛けとこっか」
お二方の手から黄色い糸が延び、私の周りを虹色の幕が包む。
「よっし!頑張ります」
意気込んで糸を掴むとバチッと火花が散った。
「ワッ!」
「痛ッ!」
「お!」
「え」
「へ~」
どうやら第三者にも目視出来たみたいですね。サイラスさんはちょっと痛かったみたい。
多分私も痛かったんだろうけどガードがあったから助かったのかな?
それだったらサイラスさんにちょっと申し訳ないな。アハハ。
首の所は、流石に顔が近いので、私が周りを回るようにして取る。
サイラスさんも気を使って回ってくれたので早く回収できた。
「完了です」
「お疲れ様、最後のは大変だったみたいだね」
「はい。首のはかなり強い力だったみたいですね。あとちょっと他と違って、傷を付けようとする様な感じも含まれてました」
「そうか…。やはり呪いだったね」
そう言って考え込むジェリックさん。
「ねぇ、そのスプーンに巻き付いてるの?」
「ええ、そうです。エリーナさん。全部スプーンに巻き付けました」
「残念見えないわぁ」
「見えないですね」
「見えないな」
「どれくらいの大きさになってるの?」
「えっと、手で作った輪っかくらいですね」
「意外と大きい」
「すごいですね」
なんだか盛り上がる皆さん。
不気味なコレが見えなくて残念そう。
それよりこれ、どう始末したらいいんだ…。誰も何も言ってくれないのは見えてないから危機感ないの?
結構重いし、気持ち悪いから持っていたくないんだけど。
というか、ジェリックさんに押し付けたい!
この気持ち悪いのが見えたらいいのに…なんて意地悪な事を考えてスプーンをじっと見つめていたら、
私の掌から銀色の糸が出てくる。
あ、マズイ。
やっちゃいますか?
私の意思とは関係ないけど、どうにかなったら面白そうなので行っけ~!と、調子にのった。
黒い毛玉に巻き付いて、凝縮させる感じ。
相変わらず掌熱いです。
そして、ピカッツと銀色に光ったら、コロリと真っ黒のビー玉がスプーンの上に転がった。
よっし!
自信満々に顔を上げたら、皆の視線が……。
漫画的荷物扱い。面白いけど、鍛えていない主人公は腹が痛くて耐えられないと思い、少々訂正しました。




