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幼馴染の勘違いオタクを無害なモブにしたかっただけなのに、冷徹に教育していた私が絆されました  作者: remia
第2章:絶望的コミュ障のバグ修正

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第7話:孤高じゃなくてただの孤立

 廊下から覗き込む教室の光景は、控えめに言って『ヤバい』の領域に達していた。



 週明けの月曜日。

 先日のボウリングで、拓実のコミュニケーション能力が想像以上に壊滅的であることを思い知らされた私たちは、こっそりと隣のクラスの廊下に潜伏していた。


 目的はただ一つ。

 あのラノベ勘違い野郎が、手加減なしの普通のクラスで一体どんな悲惨なぼっち生活を送っているのかという現状確認だ。

 


 昼休みも終わりに近づき、午後の授業に向けた移動教室の準備が始まっている。



「次、理科室だぞー!」

「一緒に行こうぜ」



 楽しげに連れ立って教室を出ていく生徒たち。

 そんな中、自分の席に座ったまま、まるでスローモーションのようにゆっくりと筆箱をいじる拓実。


 ちょっと、筆箱のチャックを閉めるのに、一体何秒かけてるのよ。

 周囲をチラチラうかがっては、誰かと目が合いそうになった瞬間に音速で視線を地面に叩きつけるって、天敵の影に怯えるミーアキャット並みに挙動不審よ。

 

 だいたい、ただの筆箱相手に、いつまで決着のつかないプロレスを演じるつもりなのよ。


 そうやって「まだ準備が終わってないフリ」をして、誰かが声をかけてくれるのを待ってるんでしょ。

 『一緒に行こうぜって声をかけてくれないかな』っていう心の声が、太字テロップで見えるくらいダダ漏れなのよ。


 ただでさえ話しかけづらい陰キャが、そんな「構ってちゃんオーラ」をフルスロットルで噴射してたら、誰だって本能的に避けるに決まってるじゃない。




 そして、私の予想通り、誰一人として『構ってちゃん』に声をかけることはなかった。

 現実は残酷なのよ。そろそろ学びなさい。



 やがて教室に自分一人しかいなくなったことを悟ると、拓実は大げさにため息をつき、ひどく落ち込んだ様子で重い腰を上げた。



「……うわぁ」



 隣で美咲が、ドン引きしたような声を漏らした。

 その横で結城も須藤も、気まずそうに顔を引きつらせて沈黙している。



 あんな誰も見ない素人プロレスを毎日クラスメイトの前で開催してたのかしら。

 本気で見ていられないくらい痛々しいわね……。



 私は頭を抱えるしかなかった。



 ***




 放課後、いつもの空き教室。

 私たちは拓実を呼び出し、ぐるりと陽キャ包囲陣を敷いていた。



「ねえ、佐藤。今日の昼休み、あんたのクラス覗いてたんだけどね」



 美咲が、粗悪な不良品でも見るような冷ややかな目で口火を切った。


「あんた、移動教室の準備さ、すっごいゆっくりしてたっしょ。チラチラ周り見ながら」


「なっ……!?」



 拓実がビクッと肩を震わせた。

 


「『一緒に行こうぜ』って誰かに誘われるの、ずっと待ってたよね? 超わかりやすかったんだけど」



 鋭く図星を突かれ、拓実の顔が一瞬で沸騰したように真っ赤に染まった。



「あー、まあ、気持ちはわかるけどさ。声かけてほしいなら、自分から輪に入っていかないとな」


 結城が苦笑しながらマイルドなフォローを入れた。



「そうだな。アピールしないやつにパスは来ないんだから、ただ待ってるだけじゃ何も始まらないぞ」


 須藤も真面目な顔で頷いた。

 


「い、いや! 俺は別に待っていたわけじゃない! 孤高の存在である俺に、群れることしかできない一般人たちが恐れをなして声をかけられなかっただけで――」



 出たわね。自分の惨めな現実から目を逸らすための、痛すぎるラノベ言い訳。

 呆れを通り越して、もはや寒気がするわ。



「孤高じゃなくてただの孤立でしょ! ぼっちをかっこよく脳内変換するな!」



「っ……!」



 私のド直球な指摘に、言葉を失う拓実。



「あのね、その『誰か俺に声かけて』っていう構ってちゃんオーラ、廊下まで漏れすぎてて本気で鬱陶しいのよ。誰も、自分から殻に閉じこもって拗ねてるやつの機嫌を取ってやるほど暇じゃないんだから」


「うっ……!」



 手加減なしのメッタ刺しに、拓実は何も言い返せずに崩れ落ちた。



「じゃあ、どうすればいいんだよ! 髪を切ったって誰も見向きもしてくれなかった……どうせ、話しかけたって無視されるだけなんだ……」



 孤高がダメなら、次は被害者モード?

 自分はなにも動かないくせに他人のせいにして、図々しいにも程があるでしょ。



「あんた――」

「なあ、佐藤。お前、声をかけるのが怖いのか?」


 私が再び正論の刃を突きつける前に、結城が寄り添うように問いかけた。

 拓実は悔しそうに唇を噛みながら、力なく小さく頷いた。



「じゃあ、挨拶からだな。まずはクラスメイトに自分の存在を認知してもらおう。それならできるだろ?」


 須藤からは現実的で具体的な提案。

 しかし、それを受けても拓実の表情は暗いままだ。


「挨拶なんて……どうせ、誰も俺になんてしてくれないから……」



 こいつ、ここまで言われても「自分からする」っていう発想には1ミリもならないわけ!?

 あんたは、周りが寄ってたかって幸せにしてくれるラノベ主人公じゃない。

 いつまで世界の中心に自分を置いてるのよ。



「佐藤さぁ、してくれるのを待ったらダメだよー。挨拶は自分からするものっしょ。誰だって挨拶してもらえたら嬉しいんだから、そこは頑張ろ? ね?」



 美咲の明るくポジティブな言葉を受けて、拓実はハッとしたように顔を上げた。



「……自分から」




……さすがね。

 私だけじゃ、感情的になって正論で叩き潰すところだったわ。


 結城の自然な気配り、須藤の無理のない提案、美咲の明るいフォローが、このひねくれた陰キャの顔を前へ向かせてくれた。

 彼らが学内カーストの頂点にいる理由がよくわかる。



「じゃあ、明日の朝から早速実践な。俺たちも廊下からこっそり見守っててやるからさ」


 結城がニッと爽やかに笑って肩を叩くと、拓実は緊張した面持ちで深く頷いた。



 外見のマイナスがようやくゼロになった今、いよいよ内面の巨大なバグ修正が始まる。

 明日、この筋金入りのコミュ障が「自分から声をかける」という第一関門を突破できるのか。



 まあ、明日あいつがキョドって自爆する未来しか見えないけれど。



 私は小さくため息をつきながら、明日への盛大な不安を抱えつつ、空き教室を後にした。


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