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幼馴染の勘違いオタクを無害なモブにしたかっただけなのに、冷徹に教育していた私が絆されました  作者: remia
第8章:計画が終わる春

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第46話:二人の初デート

 週末。私は駅前の広場で、何度も鏡の前で悩んだ春物の私服の裾をそっと直した。


 家の前なんかで待ち合わせたら、ニヤニヤコンビから何を言われるかわからないから、駅で待ち合わせることにしたのだけど……。

 あいつよりも先に着いちゃうなんて、ほんとチョロいわね、私。



 やがて、人混みの中から拓実が小走りでやってきた。

 美咲の教えをベースにした、清潔感のある無難な私服姿だ。



「悪い、待たせたか?」


「ううん、今来たところよ」



 拓実は私の姿を上から下までマジマジと見つめると、真っ直ぐな瞳で口を開いた。


「今日の服……すごく似合ってるな。可愛いと思う」


「っ……あ、ありがとう。拓実も……まあ、無難にまとめたわね」


 顔に熱が集まるのを感じて、思わず視線を逸らしてしまう。


 もう……っ! 毎度さらっとそういうこと言わないでよね。

 教育したのは私だけど、最初からこの調子だと心臓が持たないわよ。


 このままじゃ一日中、胸の高鳴りが収まらない……そう思っていたのだけれど。



「さあ、行こうかお姫様。今日は俺が完璧なエスコートを約束しよう」


 拓実は突然スッと斜に構え、大げさな身振りで私に向かって手を差し伸べてきたのだ。



「……は?」



 お姫様!? さてはこいつ、初デートでポンコツCPUがバグったわね。

 マントルの底に封印したラノベ主人公のモノマネが噴き出してるじゃないの。


 胸の高鳴りなんて、一瞬で吹っ飛んだじゃない。どうしてくれるのよ……。



「……なにその痛いキャラ。普通にキモいんだけど」


「な……っ」


 私の絶対零度の視線を浴びて、拓実は差し出した手をビクッと震わせた。



「いい? 次、変なキャラのモノマネしたらその場で帰るわよ」


「はい……」



 釘を刺したけど、嫌な予感がするわね。

 私は小さく息を吐いて、ポンコツ幼馴染と歩き出した。



 ***



 その後も、拓実の『ラノベ主人公風ポンコツエスコート』は留まることを知らなかった。


 最初に訪れた映画館では、「俺が持つよ」と言って、ジュースやポップコーンどころか、私の小さな鞄まで持とうとして、B級コントみたいに全部ひっくり返しそうになるし……。


 カフェへ移動する間には、「車道側は危ない。俺が外側を歩く」そう言って私の右側を歩き出したかと思えば、道がカーブするたびに慌てて私の背後をクルクルと回り、左へ右へと立ち位置を変える様は、怪しい人工衛星みたいだった。


 そして、カフェに着けば、私が座ろうとするタイミングでガタガタと椅子を引き、あやうく転びそうになる始末だ。


 普段は自然にできてるくせに、ラノベの真似をしようとするとスマートさの欠片もない。

 だいたい、『俺は気配りしてます』ってアピールが透けて見えたらダメでしょ。

 まぁ、『さりげなく』まではインストールできなかったんでしょうけど。



 さらに。



「凛子、喉は渇いていないか?」

「足は痛くないか? 少し休むか?」

「室温は適切か? 寒ければ俺の上着を……」


 数分おきに飛んでくる、過剰な気遣いのフルコース。



 ……いい加減ストレスが溜まるわね。



「……あんたね、さっきから不自然すぎ! 私が介護老人みたいじゃない!」


 つい、カフェのテーブル越しに声を荒らげてしまった。

 公共の場でなにやってるのよ、私。


「っ……。無理してラブコメの真似事なんかしなくていいから」


「……で、でも、ラノベでは主人公の優しいエスコートがヒロインには好印象で――」



「……あのね」


 声を落とし、容赦なく正論のナイフを突きつける。


「私もあんたも、小説のキャラクターじゃなくて人間なの。現実がファンタジーと同じようにいくわけないでしょ。あんた、この一年で何を学んだの?」


「っ……!」


「いい? あんたは元ぼっちのオタクで、女子免疫レベル1の村人なのよ。主人公のフリしたって今みたいにバグるだけよ。無理にキャラを作ったりしなくていいから……普通にしてなさい」


 私がピシャリと言い放つと、拓実は「……ごめん」と肩を落とした。



 まったく……おバカなポンコツが空回りしすぎなのよ。

 私はそんなの求めてないって、いい加減気づきなさいよね。


 だけど、今日のために恋愛の攻略本ラノベを読み込んで、私を楽しませようと必死に予習してきた姿を想像すると……唇が勝手に緩みそうになる。



「……別に、怒ってないわよ。もういいから、普通に映画の感想でも話しましょ」


 私は熱くなった頬を隠したくて、アイスティーのストローをギュッと咥えた。



 ***



 夕暮れの帰り道。

 ポンコツなエスコートに振り回されながらも、初デートを満喫した私たちは、二人の家の前まで帰ってきていた。



「今日は本当に楽しかった。ありがとう、凛子。……付き合ってくれて」


「……こちらこそ。映画もカフェも、全部払ってもらっちゃって悪かったわね」


「いいんだ。俺が誘ったんだから。……それよりも」



 拓実が足を止め、こちらに向き直った。

 夕日に照らされたその表情が、今までになく真剣なものに変わった。



「……あの、お、俺さ……その……」



 ドクンッ、と胸の奥で特大の鐘が鳴った。

 ……もしかして、ここで告白されちゃうの!?



 空気がピンと張り詰め、周囲の音がフッと遠のいていった。

 思わず息を呑み、私はギュッと両手を握りしめた。



 どうしよう、心の準備が……できてない。

 ていうか、家の前で告白なんて、ニヤニヤコンビが覗いてたりしないでしょうね。


 うるさく跳ねる心臓をどうにか落ち着かせながら、私は拓実の次の言葉を待った。



 拓実はゴクリと喉を鳴らし、真っ直ぐに私を見つめて――。



「……頑張って良かった。本当にありがとう!」



「え……?」



「そ、それじゃあ、また月曜日に学校で!」


 拓実はそれだけを言い残し、どこか満足そうな笑顔を浮かべて自分の家の玄関へと消えていった。



「ちょっ、ちょっと待っ――」


 パタン、と閉まった隣の家のドアを見つめたまま、私は動けなくなっていた。



 なんなの!? 『ありがとう』って……どういうこと!?

 今のは告白するところじゃないの!?



 膝から崩れ落ちそうになるのを、私は必死に堪えた。



 なんで……なんで『好き』って言ってくれないのよ。


 ポンコツなエスコートでも、痛いセリフでも構わなかった。

 あんなに一生懸命だったのに。あんなに真剣な顔をしてたのに。



 ……なんでなのよ!!



 奥歯を強く噛み締めても、滲んでくる視界はどうにもならなかった。



 もしかして……今日のお出かけは本当にただのお礼で、デートだと思ってたのは私だけってこと?

 そんなの、一人で浮かれて……バカみたいじゃない。



 私はすっかり冷え切ってしまった手で、自分の家のドアノブをギュッと握りしめた。


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