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幼馴染の勘違いオタクを無害なモブにしたかっただけなのに、冷徹に教育していた私が絆されました  作者: remia
第7章:すれ違う冬

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第40話:漏れだす本音

 三学期が始まって間もない、一月中旬の放課後。

 家に帰ると、キッチンに立っていたお母さんが、待ってましたとばかりにニヤニヤしながらタッパーを差し出してきた。



「おかえり〜凛子。拓実くんね、無理しすぎたみたいで熱出して学校お休みしたんだって」


「え? そうだったの?」


 確かに今日は学校で見なかったわね。

 放課後の集まりにも来なかったから、クラスメイトとの用事かと思ってたけど……。


「だから……はい、これ! 消化にいいお粥とおかず作っておいたから、合鍵で入って様子見てあげてね!」


「……はぁ!? なんで私が!」


「そんなにツンツンしないでいいのよー。心配でしょ? それに、佐藤さんにも頼まれてるし、ね?」


「べ、別に心配なんて……。だったら、自分で持っていけばいいじゃない!」


「私、これからパートなのよ。じゃ、よろしくねー!」


「えっ、ちょっと……」


 有無を言わさぬテンションでタッパーを押し付けて、風のように家を出ていくお母さん。


「はぁ……ほんと、鬱陶しいんだから。拓実のことになるとテンションが高すぎなのよ。それに、あいつは大事な時期になにやってんのかしら。バカは風邪を引かないんじゃなかったの?」


 文句を言いながらも、気づけば私は隣の佐藤家の玄関の前に立っていた。



 まぁ、おばさんにも頼まれたみたいだし、仕方ないから面倒見てあげるわよ。


 私はポケットから合鍵を取り出し、そっと鍵穴に差し込んだ。



 ***



「……入るわよ」



 拓実の部屋のドアをそっと開けると、苦しそうに荒い息を吐きながら、ベットに横たわっている拓実がいた。


 思ったより酷そうね。見事に顔が真っ赤だわ。

 まったく、どれだけ無理したんだか……。



「……あんたね、毎朝のランニングと夜更かしの勉強で限界超えてたんでしょ。やりすぎよ。バカじゃないの」


 腕を組んでベッドのそばに立つと、拓実は熱で潤んだ目で私を見上げて、ふにゃりとだらしない笑顔を浮かべた。



「はは……ごめん。でも……凛子が来てくれて、すごく嬉しいよ」


「なっ……!?」



「凛子の顔が見たいなって思ってたから……なんか、安心した」



 こいつ……熱でストッパー外れて、いつも以上にド直球じゃないの!!

 こんなクサいセリフ投げつけてきて……私を殺す気!?



 熱くなった頬を隠そうと視線を逸らしていると、ベッドがギシッと鳴った。


 見れば、拓実がフラフラと上半身を起こし、机の上に広げっぱなしの参考書に手を伸ばそうとしている。



「……冬休み明けのテストも近いし……少しでも単語を――」


「……寝なさい」



「でも、結城たちに置いていかれるわけには――」


「バカなの?」



 私はベッドの脇に立ちふさがり、絶対零度の視線を突き刺した。


「熱でバグった脳みそに単語詰め込んだって、一文字も定着するわけないでしょ。そんなの非効率の極みだわ」


「う……でも――」


「いい? 今のあんたには『寝て治す』以外のタスクなんか存在しないのよ。素人が自己判断で無理するな!」


 すると、拓実は少し驚いたように目を丸くした後、大人しく手を引っ込めた。

 そのまま、素直にベッドに潜り込んでいく。

 

「……わかった。凛子が言うなら、大人しく寝るよ」



 ふん……。久しぶりに正論の刃を抜き放ったけど、鈍ってなかったわね。

 あんたは、そのままおとなしく寝てなさい。



 ***



 キッチンでお粥の準備などを終え、再び部屋へ様子を見に行くと、拓実は深く眠っていた。



 ベッドサイドの椅子に腰を下ろし、その寝顔をぼんやりと見つめていると、なんだか胸の奥が妙にむず痒くなってくる。



 あーあ、なんでこんなやつに惹かれちゃったのかしら。

 キモくて、ダサくて、痛いだけのオタク幼馴染だったくせに……生意気なのよ。


 最近は、なんだか寝顔まで大人っぽく――。



「……凛子……」


 えっ……なに!?



「……一緒に……」


 い、一緒に? 一緒になによ!?

 『同じ高校に行こう』ってこと!?

 それとも……っ!



「…………」


 ……最後まで言いなさいよっ!

 なんなのよ、この中途半端な寝言は!!



 あぁもう……心臓がうるさい。

 続きが気になって、呼吸すらまともにできなくなってるじゃないの。

 ……ほんと、私の心臓をどうするつもりなのよ。


 でも……まぁ、悪い気はしないから、今日のところはこれで許してあげるわ。



 気がつけば無意識のうちに、眠り続ける拓実の頬へと手が伸びていた。


 触れるか触れないか、そのギリギリの距離まで指先が近づいた――その瞬間。



「……」



 背後から妙な『気配』と『視線』を感じて振り返ると、少しだけ開いたドアの隙間。

 そこにはトーテムポールみたいに縦に並んだ二つの顔。


 いつの間にか帰宅していたニヤニヤコンビが、揃って満面の笑みでこちらを覗き込んでいた。



「あらあら〜、お邪魔だったかしら〜?」


「気にしないでいいのよ〜、凛子ちゃん。ゆっくり看病してあげてね」



 ちょっと!! なんでいるの!?

 二人とも仕事は!?



「ち、違う!! これは熱があるか確認しようとしただけで……っ!!」



 最悪……よりによって、この二人に見られるなんて。過去一番、最悪の中でも最悪だわ。



 ニヤニヤ顔の二人を前に、私は顔を手で覆って声にならない悲鳴を上げるしかなかった。


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