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幼馴染の勘違いオタクを無害なモブにしたかっただけなのに、冷徹に教育していた私が絆されました  作者: remia
第7章:すれ違う冬

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第39話:素直すぎる弊害

 年が明けた一月。息が白くなる正月の朝。

 私はお気に入りのコートとマフラーを身にまとい、玄関のドアを開けた。


「あ……」


 ちょうど同じタイミングで隣の佐藤家のドアが開き、五人での初詣に向かおうとする拓実が姿を現した。


 あのバカみたいな自縛ルールのせいで、拓実から私に声をかけてくることは絶対にない。

 だから、どうしても私から声をかけるしかないのよね。納得いかないけど……。



「……おはよう」


「おはよう、凛子。今年もよろしくな」



 いつの間にか、喋り方まで変わってきたわね。オタク特有のオドオドした感じが無くなったわ。

 ま、調子乗ったり、テンパったりした時は相変わらずポンコツだけど。



「え、ええ。よろしく」


 白のニットに黒のチェスターコート……。冬休みの間に美咲に指導されたのかしら? 冬の装いも問題なし……ね。


 密かにプロデューサーとして及第点を出していると、拓実が真っ直ぐに私を見据えてきた。



「あ、そうだ。凛子、今日のコートとマフラー、すごく似合ってるな。大人っぽくていいと思う」


「なっ……!?」


 顔が一気に熱くなって、心臓が暴れ始める。



 こいつ、なんで毎回毎回ド直球に真顔で言うのよ……っ!

 教育したのは私だけど、毎日揺さぶられる身にもなりなさいよね。



「あ、当たり前でしょ! そういうことはもっと……こう、サラッと言いなさいよ!」


「えっ? サラッと言ったつもりだったんだけど……」


 きょとんとする拓実の顔に、もう返す言葉すら見つからない。



 だめだ……新年早々、私の情緒が追いつかないわ。



***



 でも、これで終わりじゃなかった。


「おーす。お待たせー」

「あけおめー」

「みんな元気そうだな」


 駅前の待ち合わせ場所で美咲たちと合流して、新年の挨拶を交わした直後。

 拓実はごく自然な動作で美咲の方を向き、真剣な顔で口を開いた。



「五十嵐、今日のその服、いい感じだな。すごく似合ってるぞ」



 ――は?



「え、さ、佐藤……あんた急にどうしたの!?」


 美咲が素っ頓狂な声を上げ、目を丸くした。



 ちょっと待って、なんで美咲のことも褒めてるのよ。私が特別扱いだったんじゃないの?



 ギリッと奥歯を噛み締めている私に気づきもしないで、拓実は悪びれる様子もなく答えた。



「え? だって前に、凛子が『女子の変化には気づいて褒めるのが最低限のマナー』だって教えてくれたから……」


「っ! 佐藤、あんたねぇ!」



 美咲が顔を真っ赤にして、拓実を指差した。


「そういうのは凛子にだけすればいいの! 他の女の子には絶対にやったらダメだからね!! わかった?」



「どうしてだ? 女子に対するマナーなんだろ?」



 変なところでクソ真面目になって反論するな!

 あんた、学校中の女子全員を褒めて回るつもり? おとなしく的を絞りなさいよ!!



 首を傾げる馬鹿正直な男に、後ろから結城がニヤニヤしながら肩を組んでフォローを入れた。


「あー……佐藤。お前はまだそういうの練習中だから、とりあえず対象は一人に絞ろうってことだな。そうだろ、氷室?」



「それにさ、佐藤は受験が最優先だろ? 色々やり過ぎてキャパオーバーになるな、ってことだ」


 口元を緩ませた須藤まで、真面目なトーンで便乗してきた。



「……そ、そうよ! あんたがバグってキモいポエムを撒き散らしたりしたら大変なのよ。だから、私……だけにしておきなさい」



 あぁもう、なんで最悪な展開ばっかり続くのよ。

 あのニヤニヤした顔! 結城も須藤も、絶対にわかっててからかってるでしょ!!

 恥ずかしくて死にそう……。



 顔に集まった熱を誤魔化せる気がしなくて、私は逃げるように神社の方へと歩き出した。



 ***



「よーし。これで全員で志望校に合格できるっしょ!」


 賑わう神社の境内で、参拝を終えた美咲の明るい声に、みんなが力強く頷いた。



 参拝所から少し離れたところで、結城が隣を歩いていた拓実に向かって尋ねた。


「そういえば、佐藤は何をお願いしたんだ?」


「俺か?」


 拓実は少しだけ空を見上げ、なんの迷いもなく答えた。



「俺は、絶対合格させてくださいってことと……お前らに出会えたことへの感謝だな」



「……は?」


 結城がマヌケな声を出した。



「お前らが見捨てずに鍛えてくれたおかげで、今の俺がある。お前らは俺にとって掛け替えのない存在だ。だから、これからもお前らとはずっと友達でいたい……って、神様に伝えておいた」



 冬の澄んだ空気の中に、拓実の真っ直ぐな声が響いた。

 それは、嘘偽りのない本心からの言葉だった……のだけど。



「お、おう……お前、そういうこと真顔で言うなよ、なんか照れるだろ」


「……そ、そうだな。俺も、出会えてよかったと思ってるぞ」


 ……ちょっとクサすぎるわね。


 いつもは余裕のある結城が分かりやすく目を逸らしてるし、須藤まで顔を赤くしてるじゃないの。


 ……もしかして。



 思えば、秋の進路希望調査の時あたりから、様子がおかしかったのよ。

 いきなり『凛子の隣に立てるように』なんて、恥ずかしげもなく言い切ったりして……。


 痛いラノベの真似事が抜けて、捻くれた思考が直ったのはいいけど……。


 その結果、思っていることを1ミリも隠さずにストレートに口に出す『素直すぎるバカ』が錬成されちゃったってこと!?



 こんな、感謝も褒め言葉も、一切の照れ隠しなしに真顔で連発するような男と、毎日何時間も一緒に過ごすなんて……私の身が持たないわよ……っ!



 笑顔でみんなに感謝を伝えている拓実……。

 素直で真面目なのはいいことなのよ。でも……限度ってものがあるでしょ!?


 私は、自分が生み出してしまった『ナチュラルにクサい発言をする男』を前に、ただ密かに頭を抱えるしかなかった。



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