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幼馴染の勘違いオタクを無害なモブにしたかっただけなのに、冷徹に教育していた私が絆されました  作者: remia
第7章:すれ違う冬

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第38話:そうじゃない

 受験も最終コーナーにさしかかった年末。

 クリスマス会で親たちにさんざん揶揄われた代償に、私は拓実の部屋で一緒に勉強する『大義名分』を手に入れた。

 その翌日から、私は何かと理由をつけては、毎日のように隣の佐藤家を訪れていた。


『あら、今日も拓実くんのお部屋でお勉強? これ、夜食のサンドイッチだから持っていってあげてね』


 今日もお母さんから渡されたタッパーを手に、ため息をつく。


 毎日ニヤニヤしながら見送ってくるのは、なんとかならないのかしら……。

 毎回毎回、顔を冷ますのは大変なんだから。


 でも、無理ね。あのニヤニヤコンビには、私の気持ちが完全にバレちゃってるし、今さら否定するだけ労力の無駄よ。


 最高に鬱陶しいけど、弄られるくらい拓実と毎日一緒に過ごすための必要経費と思って我慢するしかないわね。

 

 せっかくの権利なんだから、存分に使わせてもらうわ。



 そう思っていたのだけど。



「……入るわよ」


「おう。凛子、今日もありがとう」


 いつものように拓実の部屋のドアを開けると、あいつは机に向かって一心不乱にシャーペンを動かしていた。



 バカ拓実のやつ……ちっとも、こっち見ないじゃない。


 少しでも意識させてやろうと、わざわざお気に入りの可愛い部屋着を着てきたのに。

 昨日だって髪型をポニーテールにしてみたし、一昨日は気合を入れた私服だったのよ。


 それなのに、この『クソ真面目男』は参考書とノートに釘付けで、私の変化に気づきもしないって、どういうこと!?



「ここ、どうやって解くんだっけ?」


「……貸しなさい。ここはこうやって補助線を引いて……」



 わざと拓実の顔のすぐ近くまで身を乗り出して教えてみる。

 肩と肩が触れ合いそうな距離。きっとシャンプーのいい香りだってするはずよ。

 普通の男子なら、ここで赤面してマゴマゴするところ………なんだけど。



「おおっ! なるほど、そうか! サンキュー凛子、めっちゃ分かりやすい!」



 ……っ、またダメだわ。


 こいつ、脳内のリソースを100%『勉強』に全振りしてやがる。



 だいたい、優良見本たちの弊害が多すぎるのよ! あちこちで私の邪魔ばっかりして!

 ストイックに集中するのは良いことなんだけど、今は良くないのよ!



 あぁもう、我慢の限界だわ。

 教え終わったペンを机に叩きつけた。



「……あんたねぇ」


「えっ? ど、どうかしたか?」



「『どうかしたか?』じゃないわよ! 今日の私を見て何か気づかない?」


「ど、どういうこと?」


 私はわざとらしく、特大のため息をついた。


「あのね、女子が昨日と違う髪型をしてきたり、可愛い服を着てきたりしたら、それに気づいて褒めるのが『普通の男』の最低限のマナーじゃないの!?」


「あっ……」


「わかってる? 女の子の努力を無視するなんて、コミュ力以前の問題よ!」



 ハッとしたように目を見開く拓実。


 ふん。やっと気づいたわね。

 ここまで説明してあげれば、あんたでも『あっ、ごめん。今日の服、すごく似合ってるよ』くらいは言えるでしょ。



 しかし、ポンコツ幼馴染は慌てて手元のノートの端に何かを猛スピードで書き込み始めた。


「え? ちょっと、何書いてるの?」


「いや、すごい大事なことだと思って! 『女子の変化(髪型や服)には必ず気づいて褒める。それが最低限のマナー』……よし!」



 ――は?



「いやぁ、さすが凛子だ。勉強に集中しすぎて、一番大事な『気配り』を忘れていたよ。ありがとう!」


 拓実は目を輝かせて、私に向かって深々と頭を下げた。



 違う! そうじゃない!!

 今必要なのは、目の前の私に対する感想でしょ!? 可愛い部屋着なのよ!?

 なのに……なんで『コミュ力向上の実践的アドバイス』として自己完結して回収しちゃうのよ!



 私は手元の参考書に顔を伏せ、わざと声がくぐもるように呟いた。


「……拓実のバカ」


「え? なんか言ったか?」


「何でもないっ! ほら、次の問題解くわよ!」



 ダメね。一人で空回ってバカみたい……。


 こいつが私の方を向いてくれるようになるのは、私と同じ場所にたどり着くまで、待つしかないってことね。


 ……仕方ない。それまでは、私が精一杯サポートしてあげるわ。

 私にここまでさせておいて、落ちるなんて許されないんだから、死ぬ気で頑張りなさいよね。バカ拓実。



 ***



 次の日。


 懲りずにお洒落をした私が部屋へ入ると、拓実はちゃんと服を褒めてくれた。


 適当なものではなく、真っ直ぐで誠実な言葉で。


 たったそれだけのことで、うるさいくらいに心臓が暴れ回ってしまう私は、案外チョロいのかもしれない。



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