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幼馴染の勘違いオタクを無害なモブにしたかっただけなのに、冷徹に教育していた私が絆されました  作者: remia
第7章:すれ違う冬

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第37話:両家のクリスマス会

 十二月。街がイルミネーションで彩られ、吐く息も白くなる季節。

 結局、制裁解除を拒否されたあの日から、何もできないまま一ヶ月が過ぎてしまった。



 美咲の報告によれば、相変わらず拓実には女子たちからのアプローチが続いているみたいだけど、私や美咲が一緒のグループにいることが『強力な防壁』として機能しているらしく、サクッと横取りされるような最悪の事態にはならなかった。


 とはいえ……私たちの関係も1ミリも変わっていないのよね。八方塞がりのままだわ。

 せっかく認めてあげたっていうのに、あのバカは頑なすぎるのよ。



***



 二学期の終業式を終えた十二月二十五日。

 今日は昔から恒例となっている、佐藤家と氷室家の合同クリスマス会だ。


 今年は佐藤家のリビングに両家の家族六人が集まり、テーブルには豪華なチキンやケーキが並んでいる。

 食事も一段落し、リビングのソファでは男たち三人がお酒やジュースを片手に談笑していた。



「いやぁ、それにしても驚いたよ。拓実くん、本当に見違えるように立派になったな」


 うちのお父さんが、感心したように拓実の顔をしげしげと見つめた。



「ええ、本当に。二年生の頃なんて、だらしない格好で、ずっと部屋に引きこもってゲームをしてるか、変な小説をニヤニヤしながら読んでるだけでしたからね」


「ちょ……父さん!」


「親としても、あの卑屈な性格はどうしたものかと頭を抱えていたんですが……最近は毎朝走りに行って、勉強も真面目にやっているし、本当に良くなりましたよ」


 おじさんが、嬉しそうに頷きながら拓実の過去の痛い姿を容赦なく掘り返した。


「……もう昔の話はいいだろ……あと、ラノベは変な小説じゃない芸術作品アートだ」


 過去の黒歴史を掘り返されつつも、拓実は褒められたことに少し照れたように頭をかいた。


 ラノベに対する拘りは変わってないわね。ま、家で読む分には好きにしたらいいわ。

 万が一、学校でエロ本テロを起こしたりしたら容赦はしないけど。



「しかし、急にどうしたんだ? 何かきっかけでもあったのか?」


 お父さんが不思議そうに尋ねると、拓実が一瞬だけ私のほうをチラリと見てから、真剣な顔で答えた。



「ちょっとね……色々あって、今のままじゃダメだから、変わろうと思ってさ。でも、俺なんて『まだまだ』だよ」



『まだまだ』か。相変わらずバグった普通ラインを目指してるってわけね。ほんと強情なんだから。

 でも、あいつの表情、大人二人と並んでいても見劣りしない頼もしさが……って、なに考えてるの!? 別に……格好いいとか、そういうのじゃないでしょ。

 相変わらず私もバグりすぎだわ。いつになったら私のOSは復旧するのかしら。



「ねぇ凛子ちゃん。さっきの拓実の言いっぷりだと『普通の人間になるまで話しかけるな』っていう命令は、まだ有効なの?」


 少し離れたキッチンで、男たちの会話を聞いていたおばさんが、私に小声で尋ねてきた。


「え……あ、はい。……拓実が勝手に意地を張ってるだけなんですけど……」



 ほら、おばさんにまで心配させちゃったじゃない。

 せっかく私から許可を出してあげたっていうのに、あんたがクソ真面目に拒絶したせいよ。

 まったく、こっちの気も知らないで……。『まだまだ』とか見栄を張らなくていいんだから、さっさと――



「ん?」

「あらあら?」


 おばさんとお母さんが、揃って私の顔を覗き込み、ニヤニヤと笑みを浮かべた。



「っ! な,なんですか……!」


 二人のからかうような視線にハッとして、私は慌てて視線を逸らした。



「ふふふ。凛子ちゃん、拓実が話しかけてこなくて、寂しいのね」


「凛子ったら、昔はあんなに拓実くんのこと邪険にしてたのに。どうせ自分が設定したハードルを拓実くんが軽々と越えちゃったから――」


「ち、違いますっ! 私はただ、あいつがいつまでも引きずっているのが鬱陶しいだけで――」


 熱くなった自分の頬を隠そうと視線を逸らしても、二人は嬉しそうに肩を揺らしている。


 しまった……顔に出るって美咲に注意されてたのに。

 てか、この母親コンビも、勘が鋭すぎでしょ!! 完全に面白がってるじゃない……っ!


***


 やがてキッチンでの片付けが終わり、私たちもリビングのテーブルに戻って六人での会話に加わった。

 話題は自然と、目前に迫った受験の話になった。



「拓実くんは志望校、もう決めたのかい?」


 お父さんの問いかけに、拓実は背筋を伸ばしてハッキリと答えた。


「はい。秀瑛高を目指しています」


「おっ、秀瑛高か! あそこはかなりの進学校だぞ。今の成績で届きそうなのか?」


「期末試験では、なんとか学年上位二十%に入ることができました。模試の判定も、DからCまで上がってきています。……でも、まだ安全圏じゃないので。冬休みが勝負です」



 そうね。中一レベル以下だった春先からは考えられないほどに、学力は伸びたわ。

 ファンタジーへ逃げずに現実もちゃんと理解してるし……だけど、厳しい状況には変わりないわね。



「でも、なんでまたあんな難関校を? お前ならもう少し安全なところでも……」


 おじさんが尋ねると、拓実は一切の躊躇なく、真っ直ぐに私を見た。


「……凛子と同じ場所に立って、胸を張って隣を歩けるようになりたいんです」


 ちょっと待てっ!! いや、もう言っちゃったけど!!

 親たちの前で、そういうナチュラルにクサいことを言うんじゃないわよ!


 こんな……ストレートで破壊力のある言葉を投げつけてきやがって、あんたには羞恥心ってものはないの!? 

 バカバカバカ! バカ拓実!!!


 私は顔から火が出そうなほど熱くなるのを感じて、たまらず俯いた。



「あら〜〜〜〜」


 お母さんが、わざとらしく両手を頬に当てて歓声を上げた。



「志望校も一緒だし〜、冬休みは拓実くんのお部屋で、二人でお勉強かしら?」


「ちょ……ちょっと、お母さん!」



「うふふ。凛子ちゃん、いつ来てもいいからね。おばさん、お夜食いっぱい作ってあげるから」


 おばさんまで便乗して、ニコニコと私に提案してきた。



「えぇっ? いや………はい」


 完全に逃げ場を失い、蚊の鳴くような声で頷くことしかできなかった。



 すると、当の拓実が真面目な顔で口を開いた。


「結城たちに出てきてもらうのも悪いと思ってたし、凛子に教えてもらえるなら本当に助かります。……いいか、凛子?」



 …………少しは意識しろ――――っ!!



 周りの大人がニヤニヤと『そういう雰囲気』でからかっているのに、こいつは本当に、1ミリも下心なく『特訓イベント発生!!』だと喜んでやがる。

 

 私と部屋で二人っきりなのよ? なのに全然意識しないってどういうこと!?

 あんたなら『部屋で勉強会! ヒロインイベント発生!!』って鼻の下を伸ばすとこでしょ!?



「凛子ったら、可愛くなっちゃって。お母さん嬉しいわ」


 お母さんが、熱を持って俯く私の背中をポンポンと叩いた。



 あの日、あいつのせいで溶かされてしまった私の心は、今では完全に沸騰して心臓をうるさく暴れさせている。

 この厄介な熱は暖房が効きすぎているせいだと自分に言い聞かせても、このバグった心拍数は、ちっとも収まってくれそうになかった。



 でも、これはチャンス……じゃなくて、親から言われたんだから仕方なくだけど、あんたの部屋でミッチリ鍛えてあげるわ。覚悟しなさい、バカ拓実。


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