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幼馴染の勘違いオタクを無害なモブにしたかっただけなのに、冷徹に教育していた私が絆されました  作者: remia
第6章:形勢逆転の秋

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第35話:予想外の逆襲

 その日の放課後。

 旧校舎の裏は、グラウンドから部活の掛け声が遠くに聞こえるだけで、人通りは全くなかった。

 結城たちとの勉強会を終えて帰ろうとしていた拓実を、私はわざわざ旧校舎の裏へと呼び出していた。



「どうかしたか、凛子? わざわざこんな所に呼び出して」


 カバンを肩にかけ直しながら、拓実が不思議そうに首を傾げる。



「『どうかしたか?』じゃないでしょ。なんなの? あの昼休みのドヤ顔は?」


「へっ?」


「『俺って結構モテるだろ?』とでも自慢したかったのかしら?」


 絶対零度の視線を突き刺すと、拓実はあからさまにビクッと肩を震わせた。



「え!? いやっ、そんなつもりは……!」


「へぇ……ずいぶん女子と楽しそうにしてたし、どうせ『フラグが立った』って鼻の下を伸ばして喜んでたんじゃないの?」


 私がさらに冷え込んだ視線を向けると、拓実は慌てて両手を振って後ずさりした。



「ほ、ほんとに違うんだ!! す、少しは『女子とも喋れるようになった』って伝えたかっただけで……っ」


 ……え? 私に成長をアピールしたかっただけってこと!?

 そんなの……疑ってイラついてた私が、馬鹿みたいじゃない。

 でもね。そもそも、あんたがドヤ顔なんてかましてくるのが悪いのよ。



「……まったく。すぐに調子に乗るんだから。反省しなさいよね」


 拓実のくせに……なんでこんなにイライラさせてくるのよ。

 でも、今日の本題はこれじゃないわ。



「まぁいいわ。本題は別よ」



 クールな仮面を強引に貼りつけながら話を進めた。


「最近、クラスでも結構馴染んでるじゃない。《《女子とも》》よく話してるみたいだしね」


「あ、ああ、結城たちに散々しごかれたおかげで、なんとか会話のパス回しはできるようになってきたよ」


「……そう。まあ、春先のキモかった頃に比べれば、外見も含めて少しはマシになったわね」


 わざとらしくコホンと咳払いをして、本題を切り出した。



「だから……その、なんというか……。あれよ。もう、拓実は十分に基準はクリアしてると思うの」



「え?」


「だから! 私が春に言った『普通の人間になるまで話しかけるな』っていう命令は、もう解除してあげるって言ってるの! 明日からは、普通に私に話しかけてきても……いいわよ」


 一気に言い切り、少しだけ顔を背けた。



 ふん。言ってやったわ。

 あんたが言い出さないから譲歩してあげたのよ。感謝しなさい。

 これで拓実は「本当か!? ありがとう凛子!」と尻尾を振って喜ぶはずだわ。



 チラリと視線を戻すと、案の定、拓実の肩がピクリと跳ねていた。

 その口元が、嬉しさを隠しきれないように僅かに綻んでいるのが見える。



 ほらね、やっぱり喜んでるじゃない。ま、私から折れてあげたんだから当然よね。

 さぁ、あとはあんたが感謝を述べて、私に――



「……いや、ダメだ」



 …………は?



 綻んでいたはずの拓実の口元が、スッと引き締まる。


「え……? な、なんで?」


「凛子が俺の成長を認めてくれようとしたのは嬉しいけど、俺はまだ、結城にも、須藤にも、五十嵐にも追いついてない」



 ちょっと……なに言ってるの? あいつらは学年トップの超絶ハイスペック集団よ!?

 あれが『普通』だったら、全校生徒の九割以上が底辺になっちゃうでしょ!? 



「ちょ、ちょっと待っ――」

「あいつらを見て、俺は自分がどれだけ底辺だったか理解したよ。頑張ってみたけど、まだまだ凄い差があるのがわかる」



 拓実は真っ直ぐに私の目を見た。


「だから、あいつらと対等に肩を並べるようになるまで、俺はまだ『普通』になれてない」



 えぇぇぇぇぇぇぇっ!? なんでここでそんなクソ真面目さ発揮するのよ!?

 見本が良すぎた弊害が、こんな形でも爆発するなんて!

 紹介したのは私だけど! こんな展開を予想できるわけないでしょ!!




「だから、凛子。お前の隣を堂々と歩けるようになるまで、俺からは話しかけない。約束は、ちゃんと守るから」


 拓実は、清々しいほどの笑顔を浮かべた。

 そして、軽い足取りで旧校舎の裏から去っていく。



 ……待ちなさい……まだ行かないでよ。


 伸ばしかけた手は宙を掻き、私はその場に縫い付けられたように動けない。



 バカ! 拓実のバカ!

 私が話しかけていいって言ってるんだから、素直に従いなさいよ!

 折れたのに! 譲ったのに! なんでこうなるのよ……。



 自ら掘った深すぎる墓穴の底で、私はただ一人、夕焼け空を見上げて声なき絶叫を上げるしかなかった。


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