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幼馴染の勘違いオタクを無害なモブにしたかっただけなのに、冷徹に教育していた私が絆されました  作者: remia
第6章:形勢逆転の秋

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第34話:止まらぬ優良物件の噂

 球技大会の翌日の昼休み。

 私と美咲、それに結城と須藤の四人は、隣のクラスの廊下の壁際から、こっそりと教室の中を覗き込んでいた。


 昨日のあれが偶然じゃないなら、とんでもなくマズいことになるわ。

 あいつが本当に注目され始めてるのか、確認しておかないと。



「佐藤の様子を見に来るのも久しぶりだよな」


 結城が不思議そうに首を傾げた。



「もう大丈夫だろ? 今日は何の確認なんだ?」


 須藤も同意するように隣で頷く。



 二人からの疑問に、美咲がニヤニヤと悪戯っぽい笑みを浮かべた。


「ふふふ、今日はねぇ。佐藤のモテ具合調査だよー。いい感じに仕上がってきたのが、周りの女子にもバレ始めてるんじゃないかって思ってね」



「なるほどな。どれどれ……」


 結城たちが興味津々な様子で教室の中を覗き込んだ。



「おっ。ちょうど女子が話しかけるっぽいぞ」


 須藤の声に、私も慌てて視線を戻すと、自分の席に座っている拓実に、クラスの女子が近づいていくところだった。



「ねえ佐藤くん、今日の社会のノート、みせてくれない?」


 女子の問いかけに、拓実は振り返って頷いた。



「ああ、いいよ。ここ、先生がテストに出すって言ってたから、マーカー引いといた方がいいぞ」


「そうなんだ! さすが佐藤くん、ありがとう!」


「お、おう。わからないことがあったら聞いてくれ」


 ちょっと……注目されるどころか、普通に女子の方から話しかけてるじゃないの。

 しかも、あいつ女子に頼られてデレデレしちゃってるし。



 隣で美咲が腕を組んで、小さく吹き出した。


「あーあー、典型的なパターンに照れちゃって。『ノート見せて?』って、親しくない男子にわざわざ言わないっしょ? これは話しかけるきっかけが欲しいだけだね」



「そうなのか!? 俺も結構頼まれるけど」


 結城が目を丸くすると、美咲は呆れたように肩をすくめた。


「……結城もいい奴すぎてアレだね。普通は自分の友達に頼むっしょ」



 少し経つと、今度は別の女子が拓実の席の横を通りかかった。


「あ、佐藤くん、この荷物、あっちに動かすの手伝ってもらっていい?」


「え? あ、うん。いいよ」


 拓実は素直に立ち上がり、段ボールを持ち上げて運んでいった。


「ありがとう! 佐藤くんって、結構筋肉あるよねー」


 ポン、と。女子の手が、拓実の腕に軽く触れたのが見えた。


「お、おう。そうか? まぁトレーニングしてるからな。ははは」



 ――は? なに触ってんの? 

 だいたい、そんな小さい荷物、わざわざ拓実に頼む必要ないでしょ!? 

 それに……触られて鼻の下伸ばしてるんじゃないわよ、バカ拓実!!



 私がギリッと奥歯を噛み締めている横で、須藤が感心したように顎を撫でた。


「ヘぇ……触れるってことは、少なからず好印象ってことだよな。あいつ、結構人気出てるんじゃないか?」


「そうだねー。どうでもいい人なら絶対に触らないし。ま、これもさっきと同じで、大したことない作業をお願いする手口っしょ。佐藤には効果バツグンっぽいけど」


 美咲も深く頷きながら分析している。



 さらに別の女子の声が飛び込んできた。


「ねえねぇ、佐藤くんって、いつも結城くんたちと一緒だよね? 何してるの?」


「い、いや、別に大したことはしてないよ」


「えー、だって結城くん、須藤くん、氷室さん、五十嵐さんって学年でもぶっちぎりのトップグループだよ。レベル高すぎて簡単には入れないでしょ? 気になるじゃん」


「ほんとに、普通だよ。勉強したり遊んだり……」



 廊下で聞いていた結城が、ポンと手を打って納得したような顔をした。


「そうか。俺たちと一緒にいるってのも、プラス要素になってるのか」


「あー、アタシたちって目立つからねぇ。『カースト上位のブランド』みたいな感じ? 佐藤の株を底上げしてるんだね」


「二学期からは空き教室以外でも一緒にいたから、それがみんなには『俺たちのお墨付き』に見えたってのもあるかもな」


 美咲と須藤も深々と頷いている。



 そういうこと!? いくら改善したとはいえ、なんでこんなに女子が寄ってくるのか不思議だったけど……最後のピースがそれなの!?


 結城たちの言葉に、私は思わず頭を抱えた。



 冷静に状況を分析したら、その通りだわ。

 総じてスペックが平均以上の良品に『学年トップグループの看板』が掲げられてるんだから……。

 結城や須藤みたいな手が届かない超絶ハイスペック品よりも、程よい優良物件として目をつけられるに決まっているじゃないの。



 ……どうしよう、このままじゃ本当に他の子に持っていかれちゃうかも……!



 その瞬間、ふと、教室の中にいる拓実と目が合った。


 廊下にいる私たちに気づいた拓実は、フッと存在しない前髪を払うような仕草をして、ウザすぎるドヤ顔を向けてきた。



「あ、また調子に乗ったな……あいつ」


 須藤が呆れたように呟いた。



 ……なによ、今の顔。『俺だって結構モテるだろ?』とでも言いたいつもり!?


 私は廊下から、調子に乗ったラノベ勘違い野郎を、『あとで覚悟してろよ』という絶対零度の視線で真っ直ぐに突き刺した。



「ひぃ……っ」


 窓越しに殺気を受け取った拓実が、ビクッと肩を震わせて怯えた。



「はは、この辺は変わらないな、佐藤も」


 笑い合う結城と須藤の横で、美咲が私に身を寄せ、小声で囁いてきた。



「で、どうする? 凛子? やっぱりバレ始めてるよ」


「……ムカつくけど、私の方から折れるしかないわね」



 そうよ。あいつはもう普通になったんだから、ルールを解除してあげたって何もおかしくないわ。

 普通になったくせに、あのバカが言い出さないのがバグってるだけよ。

 ……だから、仕方がなく私から解除してあげるだけなんだから。



「あとで、ちょっと呼び出すわ」


「ふふっ、がんばってねー。……ちなみに、凛子」


「な、なによ」



 美咲はニヤリと笑って私を指差した。


「今日の凛子、驚いたり怒ったり、顔芸が半端なかったよ。もう少しクールにしてないと、他の人にもバレちゃうよ?」


「へっ!? 嘘っ!? そんなに!?」



 感情が顔に出まくってたなんて……恥ずかしすぎでしょ。

 結城たちに気付かれてないといいけど。


 私は廊下の冷たい壁に額を押し当てて、どうしようもない熱と羞恥をやり過ごすことしかできなかった。


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