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幼馴染の勘違いオタクを無害なモブにしたかっただけなのに、冷徹に教育していた私が絆されました  作者: remia
第6章:形勢逆転の秋

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第31話:元・勘違い野郎が目指す場所

 十一月。少し肌寒くなってきた放課後。

 いつもの空き教室には、私、結城、須藤、美咲、そして拓実の五人が集まっていた。



 話題は当然、明日が提出期限となっている『進路希望調査』についてだ。


「俺はスポーツ推薦で獅凰高だな。とりあえず面接と小論文の対策だ」


 須藤がノートを広げながら、あっさりと自分の進路を告げた。



「ウチは秀瑛高かなー。結城もそこっしょ?」


「おう。俺と五十嵐の成績なら、まあ順当にいけば届く範囲だしな」


 結城と美咲が頷き合う。

 秀瑛高は、この学区はもちろん県内でもトップクラスの進学校だけど、二人の成績なら確かに問題ないわね。


「氷室も、第一志望は秀瑛高だよな?」


 結城に話を振られ、私は短く「ええ」と頷いた。今の私の成績なら、当然安全圏だわ。



「で、佐藤はどうすんの? 夏休みから成績爆上がりしてるけどさ」


 結城が尋ねると、拓実は手にしていたペンを置き、真っ直ぐに顔を上げた。


「俺も、秀瑛高にする」



 ……は?



 思わず、口から間抜けな声が漏れそうになった。私だけでなく、結城も須藤も目を丸くしている。



「おいおい佐藤、マジか? 確かに、お前最近すげえ伸びて平均点超えたけどさ……秀瑛高は今の成績からだと、まだD判定とかだろ?」


 結城が心配そうに眉をひそめる。



「そうだよー。いくらなんでも無謀すぎない? もうちょっと確実なとこ狙ったほうが……」


 美咲も呆れたように言葉を添えた。


 二人の言う通りね。ちょっと成績がマシになったからって、いくらなんでも無謀すぎるでしょ。

 ママチャリがスポーツカーに挑んで勝てると思ってるのかしら。



「ああ、今のままじゃかなり厳しいのはわかっている」


 拓実は結城たちの言葉を素直に肯定しながら、ゆっくりと私の方を見た。



「でも、俺は凛子と同じ高校にいくって決めてるから」


 ちょっ……!? こいつ、いきなり何を言い出すのよ。

 心臓が急に熱をもって暴れ始める。


「なっ……な、なんで……! なんで私の名前がここで出てくるのよ!」



「……俺さ、お前らのおかげで、少しはマシにはなれたと思うんだ」


 ……なんなのよ。この真っすぐな眼差し。

 キモい勘違いオタクはどこへ行ったの!?



「でも……今のままじゃ、ただのお情けで最強パーティーに入れてもらっている村人のままだ。凛子に認めてもらうには、同じ場所に立たないとダメなんだ」


 クサいこと言ってるくせに、『自分に酔ったラノベ主人公』みたいな痛さが感じられないのも、どうしてなの!?



「だから、絶対に諦めない。凛子の隣に立てるように、必死に追い上げるよ」



 このバカっ! そういう恥ずかしいセリフをみんなの前で堂々と言わないでよ……っ!


 顔全体が沸騰したように熱くなるのを感じて、慌てて視線を逸らした。


 いつもならバカげた空想に正論を叩きつけるところなのに、簡単なツッコミすら1ミリも出てきやしない。いったい、なんなのよ。



「ひゅー! 佐藤、かっけー!」

「おいおい、当てられちまうな。こりゃ俺たちも負けてらんねえぞ」


 美咲がニヤニヤと囃し立て、結城と須藤が楽しそうに笑い声を上げた。



 ……ああもうっ、最悪だわ。ニヤニヤしながらこっち見ないでよ。


 私は限界まで熱くなった頬を隠すように、ただ深く俯くことしかできない。


 私、どうしちゃったの!?

 あんな奴に動揺させられるなんて……ムカつくどころの話じゃないわ。

 心臓もうるさすぎよ。いい加減収まりなさい。



「ま、まぁ俺は……か、隠されし才能ギフテッド……だからな?」


 ふいに、拓実が顔を真っ赤にしながら、唐突に存在しない前髪をかき上げるフリをした。


「し、真の力を解放すれば、D判定くらい一瞬でひっくり返せるって。はは、ははは……」



 ……こいつ、なに言ってんの?  


 スッと、顔に集まっていた熱が、一瞬にして急激に冷えていくのがわかる。



 キレの欠片もない、絶望的に痛いセリフが響き渡り、空き教室の空気も一瞬にしてシベリアの永久凍土並みに凍りついた。



「「「…………」」」



 結城、須藤、美咲の三人が、一斉に乾いた目で拓実を見る。



「いや、佐藤……今のはダサいぞ」

「うん、せっかくカッコよかったのに、台無しっしょ」

「ああ……そういう痛い設定、まだ捨ててなかったんだな」



 容赦ない三人の総ツッコミに、拓実が「うっ……!?」と分かりやすくショックを受けている。



 ……ほんっとに、バカ拓実!! さっきまでのは何だったのよ!!



 私は立ち上がると、無言で手元のノートを丸め、拓実の頭にペシッと振り下ろした。


「ぎゃあっ! り、凛子!?」


「バカじゃないの!? まだそんな中二病みたいな痛い設定引きずってるの!?」


「ひぃっ!? なんでそこまでキレるんだよ! 俺はただ、場を和ませようと――」

「言い訳しない! 寝言は模試でA判定とってから言いなさい! 大体、ちょっと成績がマシになったくらいで調子に乗って……ギフテッド(笑)なんて、あんたには一生解放されないわよ!!」


「HPが! 俺のHPが削られるぅ!」


 私がペシペシと容赦なくノートで叩き続けると、拓実は情けない悲鳴を上げて逃げ回った。



「まぁまぁ、氷室。その辺にしといてやれって」

「そーそー。佐藤の自業自得だけどねー」


 結城と美咲が苦笑しながら仲裁に入ったので、ノートを振り回す手を止めて席に座り直した。



 ほんっと、バカな幼馴染だわ。

 未だにギフテッド(笑)とか勘違いして、奇跡を信じてるんだから。


 でも……。


『絶対に諦めない。隣に立てるように、必死に追い上げるよ』


 ふと、さっきの拓実の言葉が、脳裏でリフレインする。


 あれだけは、本物の決意に思えたのよね。

 バカ拓実のくせに。どうしてあんな真っ直ぐなこと言えるのよ。


 引いたはずの顔の熱が、時間差で再び上昇してくるのを感じた。

 大人しくなったはずの心臓も、また暴れ始める。



 ああもう、最悪。

 なんなのよ、ほんとに……。



 結局、バカな幼馴染の言葉に振り回されている自分の顔を、みんなに見られないように隠し続けるしかなかった。



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