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幼馴染の勘違いオタクを無害なモブにしたかっただけなのに、冷徹に教育していた私が絆されました  作者: remia
第5章:中間決算と大誤算

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第30話:処刑人の陥落

 放課後の教室で、一人窓の外を眺めながら小さく息を吐いた。


 空は焦がしたような深い茜色に染まり、校舎の長い影がグラウンドを半分ほど飲み込んでいる。

 開け放たれた窓から忍び込む風は、いつの間にか湿り気を失って肌寒く、薄汚れた白いカーテンを不規則に波立たせていた。


 ……なんだか、見慣れた放課後の景色まで、やけに感傷的に見えて気持ち悪いわね。


 グラウンドから聞こえる野球部のバットがボールを弾く金属音や、陸上部のホイッスルの音が、夕暮れの冷ややかな空気の中でどこか現実味を欠いているように響いていた。 



 あれからずっとモヤモヤが消えない。

 認めたくない感情が、ふとした瞬間に喉の奥までせり上がってくる。

 だめだめ。考えるな。今の私はちょっとバグってるんだから。



 ……そうだわ。計画の現状分析でもして、頭を整理しましょう。



 まず外見。私服でも制服でも不快なバグはほとんど見なくなったわ。合格ね。

 次に体力。須藤とのトレーニングは今でも毎日続いてるし、問題なさそうね。

 そして学力。中間テストで目標の平均を超えて、学年上位三十パーセントにまで食い込んだんだったわね。勉強会も継続してるし、これも大丈夫。

 最後にコミュ力。卑屈なキモオタの面影もなくなって、隣のクラス内でも『地味ないいやつ』ポジションを確保してるし、順調にランクアップしてるわね。


 うん……どれを取っても、『普通』を超えつつあるのは間違いないわ。

 これなら、計画は大成功って言ってもいいわね。



 ……ちょっと待って。



 だったら……なんで話しかけてこないのよ。あのバカは。



 机の上で、ギュッと無意識に拳を握りしめた。


 みんながいるグループの輪の中では、普通に会話に参加するくせに、それ以外では私に話しかけてくる気配すらないなんて、どういうことなの?

 いつまで『普通の人間になるまで話しかけるな』ってルールを律儀に守るつもりかしら。



 あんたから『そろそろ話しかけてもいいか?』って聞いてくるなら、許可してあげてもいいのに。



 もしかして……あいつの中ではまだ『普通』に達していないとか、思ってたりするわけ?

 それとも、私にこっぴどくフラれたから、もう話しかける気すら失せたとか?



 だとしたら、私から『合格よ』って伝えて、歩み寄るべきかしら。


 ……それはないわね。

 そんなことしたら、まるで私の方が声をかけて欲しいみたいじゃない。

 そんなの負けたみたいで、絶対に嫌。




「あ……」



 無意識に行き着いてしまった自分の思考に、ハッと息を呑んだ。

 意識した途端、それまで遠くに感じていた喧騒がふっつりと途切れ、無人の教室を冷たい静寂が支配する。



 等間隔で時を刻む壁時計の秒針の音が、耳障りなほど大きく響き始めた。


 カチ、カチ、カチ……。


 その規則正しい音の合間に、自覚してしまった心臓の音が強引に割り込んでくる。

 ドクン、と熱を帯びた衝撃が喉の奥までせり上がってくる。



 また……あいつのこと考えちゃってる。考えないようにしたはずなのに。



 家にいても、学校にいても。気がつけば、あいつのことで頭がいっぱいじゃない。


 『普通の人間になるまで話しかけるな』と突き放したのは、黒歴史にならない無害なモブになってほしかったから。見守っていたのは、監視のため。それは間違いないわ。



 でも、今は……。



 『普通』になっても努力を続けている幼馴染が、気になって仕方ないのはどうして?

 あいつが私に話しかけてこないことが、なんでこんなに焦れったいの?



 窓ガラスに映る自分……。

 そこにあったのは、ひどく揺れる瞳で、思い詰めた表情を浮かべる一人の少女にしか見えなかった。



 ああ、この表情が……そうなのね……。



 もう、誤魔化しきれない。


「無理だ……否定できない。私、拓実のこと……」


 誰にも聞こえない小さなつぶやきは、秋の涼しい教室の空気に溶けて、静かに消えていった。


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