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幼馴染の勘違いオタクを無害なモブにしたかっただけなのに、冷徹に教育していた私が絆されました  作者: remia
第5章:中間決算と大誤算

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第29話:見本が良すぎた弊害

 ……はぁ、今日はなんだか無性に疲れたわね。


 文化祭が終了し、祭りのあとの静寂に包まれた自分の部屋。

 私はベッドに仰向けに倒れ込み、ぼんやりと天井を見上げた。


 目をつむると、廊下で自然にチラシを拾っていた幼馴染の姿と、頬を染めて彼を見つめていた女子の顔がフラッシュバックする。



 あいつ、調子に乗りすぎなのよ。

 せっかく私たちがまともな人間にしてやったのに……何様のつもりかしら。


 近くにあったぬいぐるみを力任せに締め上げ、ベッドの上をのたうち回る。

 だけど、ちっともモヤモヤが晴れやしない。



 ……何か違う気がするわね。

 だって、今日あいつが調子に乗った姿を見てないもの。

 だったら、なんで? どうしてイライラするの?


 シーツに顔を押し付けながら、ぐるぐると思考を巡らせる。



 わかった。あのスマートすぎる対応が気に入らないんだわ。

 キモい陰キャぼっちだったくせに、ラノベ主人公みたいなムーブをするもんだから、生意気に思えたのね。

 そうよ。これに違いないわ。



 だけど。どうして、こんなことになったのかしら。


 冷静に考えなさい、私。



 私はあいつを『無害な普通』にするために、結城たちに頼み込んで計画を始めたのよね。

 そして、みんなを見本にして、今では清潔に整えられた外見、ストイックに続けている努力、誰にでも自然な気配り……。



 ……あ。



 ちょっと待って!? これって……結城たちそのものじゃないの!?



 私は勢いよくベッドから跳ね起きた。



 あのバカ、もしかして……結城たちが『普通』だと勘違いしてる!?

 あんな『超優良物件』たちをお手本にしたせいで、スマートに対応する『ちょっといい男子』になっちゃったってこと!?



 全身から一気に力が抜け、ドサリと再びベッドに倒れ込んだ。

 そのまま、横にあった枕を両手で掴み、自分の顔に思い切り押し当てる。


「……あああああもう! そんなハイスペックさは求めてないわよ!!」


 枕越しにこもった叫びを上げながら、足に絡みつくシーツも構わず、思い切り両足をバタつかせた。



 そもそも、あいつがポンコツだから強制的にやらせてたはずなのに、いつの間にか自分の意志でやるようになってるのが異常事態なのよ。

 夏休みが終わってもトレーニングや勉強を毎日続けてるし、外見やコミュ力だって普通を超え始めて……そこまでやれだなんて誰も言ってないわよ。



 じゃあ、なんで? あいつは何を目指してるの?



『凛子ちゃんにふさわしい男になろうとして――』


 おばさんの、あの言葉が何度も脳裏を過る。



「私の……ため?」

 

 だから、あいつは必死に続けてるってこと!?



 ドクン、と。

 静かな部屋の中で、今まで感じたことのない、けれど無視できないほど主張の激しい音が鳴った。



 ……え? ちょっと待って。今のは何? どうして私、心臓が鳴ったの!?



 私はただ、キモくて面倒な幼馴染に、さっさと無害なモブになってほしかっただけでしょ。あいつのことなんて、これまで1ミリだって意識したことなんかないわ。


 最近、あいつの姿をずっと目で追ってた気がするのも、行動が気になってたのも、成長が少し誇らしく思えたのだって、全部プロデューサーとしての執着でしかないんだから。



 でも……だったら、この反応はなんなのよ。



「私、もしかして……あいつのこと」



 いやいやいや! ありえない! 絶対にありえないから!


 思考を強制終了させるように勢いよく首を振り、熱を持った自分の両頬をバシッと両手で強く叩いた。



 あんなラノベ勘違い野郎を、私がそんな風に意識するなんて絶対に認めたくない。ただのバグよ。気の迷いよ。



 適当な理由をつけて無理やり蓋をしようとしても、心臓の鼓動は早まるばかりで、ちっとも大人しくならない。


 どれだけ顔を両手で覆い隠しても、指の隙間から溢れる熱量までは誤魔化せなかった。



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