第26話:不器用な走りと確かなスタミナ
九月中旬になり、秋の気配が漂い始めていた。
今日の体育は、私たちと隣のクラスの合同授業だ。女子は体育館でバレーボール、男子は外でサッカーというお決まりの割り当て。
「ふーっ、アタシたち強すぎっしょ。凛子のアタック、えげつなかったねー」
「相手チームのブロックが甘かっただけよ。それに美咲のトスも完璧だったしね」
自分たちのチームの試合を圧勝で早々に終わらせた私と美咲は、次の出番まで涼むため、体育館を出てグラウンドのフェンス際にもたれかかっていた。
「あ、ちょうど男子も試合やってるね。須藤と佐藤が出てるみたいだよ」
美咲の言葉にグラウンドへ目を向けると、砂埃を上げてボールを追いかける男子たちの中に、緑色のビブスを着た拓実の姿があった。
以前の拓実なら、端っこのポジションをキープして無気力にやり過ごし、ボールが飛んでくれば「ふひっ」と気味の悪い声を出して避け、クラスメイトから舌打ちされると、「俺はこんな低俗な球遊びで本気を出すわけにはいかないからな」などと、誰にも聞こえない声で痛い言い訳を呟く……そんな、オタク特有のムーブをしていたはずだけど。
さて、特訓を経てどう変わったのか、見せてもらうわね。
「ああっ、また佐藤が空振りしてる!」
「はぁ……どんだけボールの軌道読めないのよ……」
長年クーラーの効いた部屋でラノベを読んでただけのオタクキノコなんだから当然だけど、ラノベ主人公も真っ青の覚醒(笑)っぷりね。
「あちゃー、今度はフェイントに引っ掛かって転んでんじゃん」
「……相手が須藤じゃ、勝負にもならないわね」
その後も、ボールをトラップできずに明後日の方向へ弾いてしまったりと、良いとこなしの拓実。
技術的には素人以下、いやスライムレベルね。
とはいえ、転んでもすぐに立ち上がるし、サボらずにピッチを走り回っているのは評価してもいいわ。
二学期になっても毎日走ってるくせに、操り人形みたいなヘンテコフォームなのは謎だけど。
ま、走っただけで運動センスが良くなるわけないんだから、現状はこんなもんかしらね。
「へぇ……佐藤、もっとすぐバテるかと思ってたけど。須藤のトレーニングに押しかけた成果、ちゃんと出てるじゃん。」
美咲がフェンス越しに、感心したように何度も頷いた。
「……そうね。運動神経の悪さと絶望的なセンスの無さはどうしようもないけど、体力だけはそれなりについたおかげで、少なくともチームの足手まといにはなっていないわね。まあ、それも須藤が鍛えたおかげだけど」
私が腕を組みながら評価を下した直後、ピーッ! と試合終了のホイッスルが秋空に鳴り響いた。
「ふー、暑っ。水飲もーぜ」
試合を終えた男子たちが、休憩のために私たちが立っているフェンス脇の水道のほうへと連れ立って引き上げてきた。
「お疲れ、佐藤。お前、意外と体力あるんだな。前はボールから逃げてたよな?」
「おう。ボールの扱いはアレだけど、ディフェンスめっちゃ戻ってくれて助かったぞ。サンキューな」
へぇ、一学期は不純物として扱われてたのに、末端とはいえ普通に戦力として認められてるじゃないの。
二学期の当初よりも少しクラスに馴染んだのかもしれないわね。
「あ、ああ……まあ、最強パーティーに鍛えられてるからな」
――ん?
「え? 最強パーティー?? なんだそれ?」
「あっ! い、いや、なんでもない。気にしないでくれ」
拓実は首に巻いたタオルで汗を拭いながら、少し照れくさそうに笑って誤魔化した。
……またあのアホな妄想設定を垂れ流しているわね。
油断するとラノベ野郎が顔を出すのが難点だけど、スタミナと協調性に関しては、ひとまず及第点をあげてもいいわね。
「おーい、氷室さーん、五十嵐さーん! 次ウチらの試合だよー! 早く来てー!」
体育館の入り口から、クラスの女子が私たちを呼ぶ声がした。
「いくわよ、美咲。……また私たちの完璧なコンビネーションで、サクッと終わらせてやりましょ」
「はーい! アタシのトスにちゃんと合わせてよね、凛子!」
ダサい走り方に情けないプレーだったけど、不思議と悪い気はしないわね。
ま、あいつには私たちみたいな大活躍は期待してないから、『村人』に転職しただけで満足ってことかしら。
ちょっといい気分だし、美咲と一緒に暴れてやろうじゃないの。
私は気合いを入れ直してコートへと足を踏み入れた。




