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幼馴染の勘違いオタクを無害なモブにしたかっただけなのに、冷徹に教育していた私が絆されました  作者: remia
第1章:痛い幼馴染の普通化計画

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第3話:見ないようにされてるだけ

 いきなり詰んだかもしれない……。



 放課後の空き教室。

 お互いの簡単な自己紹介を終えた直後、結城が爽やかな笑顔で口を開く。



「これからよろしくな、佐藤。あ、俺らのこと『くん』付けするのはいらないから。気を遣わずに呼び捨てでいいぞ。俺たちも佐藤って呼ぶし、同級生なんだから気楽にいこうぜ」


「え、あ……うん。わかったよ、結城……」



 さすが陽キャの神。初対面なのに心のファイアウォールを音速でぶち抜いてきたわね。

 回避不能の初見殺しをゼロ距離で受けて、拓実の方は生返事を絞り出すのが精一杯だわ。



 ここまでは良かったのだけど……開始五分。

 黒板の前に立たせた『ポエム陰キャ』の絶望的な有様を前に、ハイスペック集団が揃って頭を抱えていた。



「うーん……直すところが多すぎて、どこから手を付けていいか、わからないな……」


 あのコミュ力お化けの結城に、ここまで困惑した苦笑いを浮かべさせるとは。ある意味、拓実の負のオーラは才能の域に達しているわね。



「とりあえず、姿勢が悪すぎる。極端な猫背だ。それにこのヒョロガリな体つき……絶対に体力もないだろうな」


 須藤のアスリート目線も、秒速でこいつの体力がミジンコ以下なことを見抜いている。



「でしょ? だから言ったじゃない。ヤバいって」



 私がため息をつく隣で、美咲が拓実を指さし、追い打ちをかける。


「てかさ、体力とか以前に、この外見が一番ネックっしょ。こんな髪型の人と一緒に出かけるなんて、アタシは恥ずかしくて絶対無理」



「い、五十嵐、さん……そこまで言わなくても」


 美咲の素直な言葉のナイフが、深々と突き刺さっている。

 すっかり瀕死状態になった拓実は、大げさに胸を押さえていた。



「まずは、髪の毛からいこーよ。ウチ、美容室だしさ。お母さんかお姉ちゃんに頼んであげるから」


 美咲の家は人気の美容室。

 プロの手、それも身内の協力が得られるなら、この泥沼みたいな状況にも一筋の光が見えてくるわね。



「そうか、五十嵐の家は美容室だったな。いいじゃないか!」


 結城と須藤も即座に深く頷き、美容室への強制連行が全会一致で可決された。



「ま、待てよ! 髪なんて自分で適当に切れば十分だろ!」


 だがここで、勘違いラノベ主人公が慌てて痛い抵抗を始めた。

 いつもの如く無駄に長くてボサボサの前髪をファサッと払いのけ、斜に構えたウザいキメ顔を作る。



「それに……外見ごときで態度を変えるような薄っぺらい人間たちへのアンチテーゼとして、俺はこのままで――」

「あんたね、中身を見る前に『不潔』っていうフィルターで弾かれていることに気づきなさい」



「なっ……不潔って……俺は毎日お風呂には入ってるぞ!」



「お風呂に入るのは、人間としての『最低限の呼吸』みたいなものよ。外見のキモさまで洗い流せるわけないでしょ!?」


「うっ……」


「いい? 洗ってあろうがボロボロでひび割れたお皿を出されたら、上にどんなに美味しい三ツ星レストランの料理が乗っていても、誰も食べようとしないでしょ? まずは最低限、きれいなお皿を用意しなさいって言ってるの」


 もっとも、あんたの中身なんて伸びきってふやけたカップ麺程度だけど。



「……し、しかしだな……別に誰も俺のことなんて見てないんだから、どうでも――」

「ちがうよー。誰も見てないんじゃなくて、見ないようにしてるの」


 美咲の無慈悲な宣告が、ネガティブオタクの言い訳を強制終了させた。


「佐藤のその『事故に遭いました』みたいなガタガタの髪形とボサボサの前髪はね、みんな『見ちゃいけないヤバいもの』として、本能的に視界から外してるだけだよ」



「……っ!」



 拓実は口をパクパクさせて完全に絶句した。

 まるで陸に打ち上げられた深海魚アゲインだ。



「ほら、結城も須藤もそう思うっしょ?」


 美咲が同意を求めると、男子二人は気まずそうに目を逸らした。



「あー……まあ、正直に言うと、ちょっと話しかけづらいオーラは出てるよな」


「男から見ても、その前髪の長さは邪魔くさいと思うぞ。スポーツする時とか前見えないだろ」


 結城はマイルドに言ってるけどフォローになってないし、須藤に至っては実用性の問題にすり替えてるだけじゃない。ま、それだけ救いようがないってことね。



「結城も……須藤まで……」



 男子二人からのオブラートに包めていないダメ出しを受け、がっくりと肩を落とす拓実。



「少しは自分の外見レベルが理解できたかしら? だから、まずは最低限『視界に入っていい生き物』になりなさい」


 私が冷たく引導を渡すと、拓実は力なく「……はい」と俯いた。



「それにね、切るだけで少しは印象変わるんだから、何もしないより絶対いいっしょ! さ、問答はこれくらいにして、ウチに行くよー」


「えっ、ちょ、ちょっと待て! 心の準備が……!」


 逃亡を図った勘違い野郎は、「いいから、いいから」と全く聞く耳を持たない美咲に襟首を掴まれ、容赦なくドナドナされていく。



「ほら、氷室たちも行くぞ」


 結城が笑いながら私と須藤を促した。



 まったく……前途多難ね。


 小さくため息をつきながらも、彼らの後を追って歩き出す。

 まずは、あの伸び切った雑草のような前髪をなんとかしなければ、この果てしない人間矯正計画は一歩も前に進まないのだから。

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