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幼馴染の勘違いオタクを無害なモブにしたかっただけなのに、冷徹に教育していた私が絆されました  作者: remia
第4章:オタクの夏休み大改造

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第22話:処刑人への事情聴取

 夏休みも中盤を過ぎた、ある日の夕方。


 私はいつものように隣の佐藤家のキッチンに立ち、簡単な準備をしていた。

 バカ息子本人は、結城たちとの勉強会か、美咲のファッション特訓か、まだ帰ってきていない。


 いくらお母さんからの命令とはいえ、合鍵を使ってまで隣の家の夕食を作っているなんて、おかしいでしょ。

 というか、佐藤家は私のこと信用しすぎじゃないかしら。

 私、ただの隣人なんですけど。



 誰かが帰宅したのか、『ガチャリ』と玄関が開く音が聞こえる。



「あら、凛子ちゃん。いつもありがとうねぇ」


 リビングの入口から顔を出した佐藤のおばさんがふんわりと微笑んだ。


「いえ、うちの母に言われてるんで。おばさん、お茶淹れますね」



 ダイニングの椅子に腰を下ろし、湯呑みを受け取ったおばさんは、少し心配そうな顔で私を見上げた。


「……ねえ、凛子ちゃん。ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいかしら」


「どうしたんですか?」


「最近、拓実の様子が少しおかしいのよ」


 おばさんは言葉を選ぶように、ゆっくりと話し始めた。


「髪の毛や服装に気を遣うようになったし、出かけることも増えたわ。前みたいに部屋で一日中ゲームしているよりは、ずっといい変化だとは思うんだけど……」


「……そうですね」


 それは私が普通の人間にしようとしてるから――とは言えないわね。



「あの子、急に『服代を出してほしい。お小遣いも増やしてほしい』って、すごく真剣な顔で頭を下げて頼み込んできたの」


「そうなんですか?」


 なるほどね。この前、腹を括ったのは、親に資金援助を頼み込むことだったってわけか。


 あいつの百均メッキのプライドを考えれば、理由なんて言えるわけないだろうし、頭を下げて無心するしかなかったのね。

 そりゃ覚悟も必要だわ。



「この前は美容室代も欲しいって言われたし、もしかして、何か不良グループみたいな人たちに巻き込まれて、カツアゲでもされてないかしらって……」



「えっ?」


 ちょっと待って、なんで不良グループにカツアゲって発想になるのよ。


 違うわよおばさん。あいつを囲んでるのは不良じゃなくてハイスペックな陽キャ集団よ。要求してるのも金じゃなくて『人間としてのまともな生活態度』なんだから。


 あいつが求めてるのも、私たちにしがみつくための『交際費』と自分への『投資費用』よ。



 とはいえ、このままおばさんに無用な心配をかけ続けるわけにはいかないわね。



「……おばさん。違います。拓実はカツアゲなんてされてませんし、不良とも付き合ってません」


「そうなの? じゃあ、どうして急に……」


 ……困ったわね。


 納得してもらうには正直に言うしかないのかしら。

 いやでも、さすがに『ポエム告白』や私の暴言までは説明したら、両家の関係が壊れるかもしれない。



「……全部、私のせいなんです。私が、拓実に対して、とってもキツいことを言って……無理やり、私の友達の輪に放り込んだんです。だから、あいつは今、彼らについていこうとしていて……そのためのお金が必要だったんだと思います」



 おばさんは目を丸くし、そして、全てを悟ったような優しい声で尋ねてきた。


「……拓実、凛子ちゃんに何か変なことしたの?」


 ちょっと、おばさん、勘が鋭すぎない!?

 せっかく濁したのに、なんで一発で核心を突いてくるのよ。

 これじゃあ隠し通すのなんて無理でしょ。



 結局、春先に勘違いした拓実から告白を受けたこと、それを容赦なく切り捨てて、普通の人間になれと突き放したことを説明し、頭を下げるしかなかった。



「本当に、すみません。いくらなんでも、あんな言い方は……」


 頭を下げ続けていると、頭上から「ふふっ」と穏やかな笑い声が聞こえた。


「なんだ、そういうこと。あの子、凛子ちゃんのこと好きだったのねぇ」


「へっ? い、いや! あれはただの勘違いで、本の真似事というか、ただの痛い気の迷いだと……!」


 なんでそうなるのよ!

 なんて、目上の人にツッコむわけにもいかず、私は引きつった笑いを浮かべるしかなかった。

 一方、おばさんはクスクスと笑いながらお茶をすすっている。


「凛子ちゃんに『ふさわしい男』になろうとして、あの子なりに必死に頑張っているんでしょ?」


「ふ、ふさわしいというか、私はただ『普通』になれと言っただけで……!」


「うふふ、そんなに焦らなくてもいいのよ」


「っ……違います。これは勘違いされたくないだけで……!」



 もうっ、少しは私の話を聞いてよ。

 息子はラノベ脳で、母親は昭和の少女漫画脳なの!?


 ふさわしい男になれだなんて頼んでないわよ。

 ただ『無害な普通』になってほしかっただけなのに……親から直接そんなこと言われると、調子狂うじゃないっ。



 おばさんは私の困惑などお構いなしに、嬉しそうに目を細めた。


「いい機会じゃない。親の私が見ても、あの子はいい方向に変わってきているもの。安心したわ。私、あの子のスポンサーとして、ちゃんとお金を出してあげることにするわね」



 こうして、佐藤母という強力な資金源パトロンを獲得した拓実は、さらなる外見の自立へ向けて本格的に動き出した。



***



 数日後。


「ちょっと佐藤! ワックスつけすぎ! 何日もお風呂入ってない人みたいにギトギトになってる!」


「その服の色の組み合わせはナイ! 変な柄のインナー合わせるなって言ったでしょ!」


 待ち合わせた駅前の広場で、美咲の容赦ないダメ出しが炸裂した。



「うっ……ファッション誌のモデルはこんな感じに重ね着して、無造作ヘアを作っていたんだが……」


「あんたはモデル体型じゃないの! 背伸びすんな! まずは基本の型からって言ったでしょ!」


 出た出た、初心者がやりがちな『モデルの真似して大火傷』パターン。

 予想通りの展開ね。

 まだまだ『普通』は遠そうだわ。


 まぁでも、ボロクソに怒られても、拗ねることなく素直に耳を傾けてるのは評価できるわね。



「じゃあ、これとこれの組み合わせはどうだ?」


 今も真剣な顔で美咲に食い下がろうとしているし、その姿勢は悪くないわ。



 だけど。



「……真っ黒じゃん。ありえないっしょ」

「……ないわね」


「なっ……」


「あんたね。黒に頼りすぎなのよ。また『暗黒騎士(笑)』に戻るつもりなの?」



 相変わらずポンコツで、ツッコミどころ満載ね。


 せいぜいそうやって試行錯誤を繰り返して、現実の階段を這い上がりなさい。


 調子に乗るから期待なんて口にしないけど、佐藤家のお金を使わせちゃったからには、あんたが『普通』になるまで見届けさせてもらうわ。




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