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幼馴染の勘違いオタクを無害なモブにしたかっただけなのに、冷徹に教育していた私が絆されました  作者: remia
第4章:オタクの夏休み大改造

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第21話:再発する『あの問題』

 八月半ば。


「新商品のトリートメントを試してみない?」という誘いを受け、美咲の実家である美容室にやってきた。


 ここ最近、ポンコツ幼馴染へのスパルタ教育が続いていたので、丁度いい息抜きになる。

 そう思ってドアを開けると、カットチェアには見慣れた男が座っていた。



 なんで、美容室でもあんたとエンカウントしないといけないのよ……。



 隣でタオルを畳んでいた美咲が、ニヤニヤしながら教えてくれた。


「佐藤ね、自分で予約入れて一人で来たんだよー。偉いっしょ?」


「は? 拓実が? 一人で?」


「うん。私も、そろそろ切らせようとは思ってたんだけど、自分でも『切らなきゃ』って思ったみたい」


「嘘でしょ……」


 あの結界にビビってた陰キャが、私たちから指摘される前に、自分で予約したなんて。

 調子に乗るから褒めたりはしないけど、ちょっと予想外だわ。


 明日は台風が三つくらい上陸するんじゃないかしら。



***



「はい、お疲れ様ー。今日はワックスで軽くセットしとくね」


 美咲のお姉さんが手際よく拓実の髪にワックスを揉み込み、毛先を遊ばせていく。


 さすがはお姉さんだわ。

 今回も視界に入れても大丈夫な仕上がりね。


 ちゃんと整えれば、元暗黒騎士(笑)が、それなりの男子に見えるようになるんだから不思議なものよね。



 拓実は、鏡に映る自分の姿を食い入るように見つめ、やがて少し迷いながら口を開いた。


「……あの、お姉さん。俺も自分でセットしてみたいんですけど、やり方を教えてくれませんか?」


 ちょっと、あんた丁寧語なんて、いつの間にそんな人間らしい言葉を……じゃなくて、自分でヘアセットするって、正気なの?

 明日は台風どころか、特撮映画の巨大生物でも上陸するかもしれないわね。気象庁じゃなくて防衛省の出番かしら。


「お、いいじゃん! お姉ちゃん教えてあげてー。んで、次から会う時は自分でセットしてみてよ。失敗していいからさ!」


 美咲が明るく背中を押すと、お姉さんもふんわりと微笑んで頷いた。


「うふふ、それなら、基本的なやり方を教えるね。まずは後ろから……」


 お姉さんの手の動きを鏡越しに見つめながら、「なるほど……」と真剣な顔で頷く拓実。


 ま、どうせ最初は寝癖爆発ヘアーになるか、ワックスの量を間違えてギトギトの唐揚げみたいになるんでしょうけど。

 学ぼうとする姿勢は悪くないわ。



「五十嵐、もう一つ相談があるんだ」


 髪のセットが終わり、席を立った拓実が美咲に切り出した。


「ん? どうしたの?」


「服のことなんだけど……俺もそろそろ、自分でコーディネートを考えられるようになりたいんだ」



 数カ月ぶりに出たわね。

 オタク特有のオリジナリティ病。


 春先、ドクロのネックレスやウォレットチェーンで『生ゴミ錬成』して、私たちにタコ殴りにされたことを忘れたとは言わせないわよ。



 美咲もあの忌まわしい大惨事を思い出したようで、あからさまに渋い顔をしている。



「えっと……悪いけど、佐藤の絶望的なセンス、まだちょっと1ミリも信用できないんだけど」


「あれから、結城たちに借りたファッション誌を読んで、俺なりに服の『属性』や『相性』を勉強しているんだ。ずっとパターン通りのマネキン装備じゃなくて、自分で選べるようになりたいんだ」



 とりあえず、服の合わせ方を『属性』とか『装備』とかゲームの魔法みたいに言うのはやめなさい。

 現実の服屋でそんな単語を使ったら、裏で『痛い客』としてネタにされるだけよ。


 とは言え、以前のような思い込みで言っているのではなさそうね。

 美咲は、どう判断するのかしら。



「うーん……まあ、ここまでちゃんとアタシの決めた無難パターンを文句言わずに守っていたし……」

 

 美咲は真っ直ぐに見つめてくる拓実に少し悩んだ後、妥協するように息を吐いた。


「……いいよ、自分で考えてみて。でも、少しでも変だったら容赦なく全着替えさせるからね! 凛子もそれでいい?」


「……いいわ。やってみなさい。でも、私たちの採点は甘くないわよ」


「ありがとう!」



 美咲から許可をもらい、拓実はパッと表情を明るくした。

 しかし、その無邪気な喜びは、たった数秒しか続かなかった。



「…………うーん。手持ちの服だけじゃ限界があるし、それにワックスも買わないと。でも……」


 自分の財布を取り出し、中身を確認した瞬間、拓実の顔がセーブデータが全消去されたかのような絶望に染まった。


「今日の美容室代は母さんが出してくれたけど……俺の軍資金が、完全に尽きている……っ!」



 そりゃそうでしょうね。

 服も髪も遊びも、普通の人間仕様に急速アップデートしてるんだから、お小遣いなんて、とっくに底を突いてるはずだわ。


 さぁ、どうするの?

 お金の問題には口出ししないわよ。


 手元の雑誌をパラパラとめくりながら黙って観察していると、拓実は空っぽの財布をしまい、ギュッと拳を握りしめた。


「……やるしかないか」



 何か思いついたのかしら。

 いいわ、あがいてみなさい。


 ここ数週間、私たちのスパルタに耐えてきたんだから、資金不足の壁くらい自分の力でなんとかしなさいよね。 

 そのポンコツな頭で何を考えたか知らないけど、お手並みを拝見させてもらうわ。

 雑誌のページをめくりながら、私は再び髪が短くなった幼馴染の背中を、静かに目で追っていた。


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