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幼馴染の勘違いオタクを無害なモブにしたかっただけなのに、冷徹に教育していた私が絆されました  作者: remia
第4章:オタクの夏休み大改造

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第20話:夏休みを削る覚悟

 夏休みに入って数日が過ぎたある日。

 連日の猛暑を避けつつ、拓実の学力を鍛えるために、市民図書館の学習室を訪れていた。


 須藤と美咲は不在。ここにいるのは、学年トップ10常連の結城と私、そして赤点常連の幼馴染の三人だけだ。



「……う、うーん……っ」



 向かいの席で、拓実がシャーペンを握りしめたまま、頭を抱えて唸っている。


 結城が用意した中学生向けの総復習プリント。


 制限時間を設けて解かせているのだけど、あいつのポンコツCPUは開始たった十分で完全にショートし、沈黙していた。



 まだ名前を書いて最初の数問しか進んでないのに、もうフリーズかしら。

 どんだけ低スペックなのよ。


「はい、そこまで。時間終了」


 結城が容赦なくプリントを回収し、赤ペンを走らせていくのを、隣から覗き込む。


 真っ赤……じゃなくて空欄だらけじゃないの。マイナス計算も基本スペルも全滅って、これ、義務教育の完全なる敗北だわ。



「よし、現状の実力はだいたい分かった」


 結城がペンを置き、図書館の静かな空気に合わせて声を潜めた。


「二学期の中間テスト、目標は『全教科で平均点以上』って決めたよな?」



 そう、次の目標は平均点。明確な『普通』のラインなんだけど……。



「現実的に考えてかなり厳しいぞ。期末試験は、赤点回避だけを考えて狙い目を絞ったから何とかなったけど、平均狙いならこの手は使えないからな」


「結城、何か作戦はあるの?」



 私の問いかけに、結城がプリントをトントンと机で揃えながら、残酷な事実を突きつけた。


「基礎だな。期末の時にも思ったけど、基礎が相当ヤバい……中一の内容からやり直すべきだ」



 ド正論だけど、『さんすう』と『こくご』から出直す方がお似合いじゃないかしら。



「中一から!? そこまでヤバかったのか……俺の頭」


「さすがに、嫌か?」


 結城の問いかけに、自分の惨憺たるプリントを見つめ、唇を噛む拓実。



 中一からやり直すなんて、屈辱でしょうね。

 さあ、どうするのよ。変わったところを見せなさい。



「……それでいい。基礎から頼む」


 拓実は真っ直ぐに結城の目を見て頷いた。



「でも、ごめん。中一の内容からやり直すとなると、結城たちにも無駄な時間を使わせちゃうな……」



 嘘でしょ!? バカさを素直に認めるだけじゃなく、私たちの時間にまで気を遣うって……まともな人間みたいじゃないの。

 さっきの勉強で脳がバグった結果、奇跡的にパズルがはまったのかしら。



「俺らはいいよ。全員で毎日教えるのは無理だけど、ローテーション組めば誰かは付き合えるだろうからさ」


 結城は全く気にした様子もなく、あっさりと爽やかに笑った。


「それよりも、佐藤は大丈夫か? この遅れを取り戻すには、毎日数時間は必要になるぞ」



 結城の言う通りね。

 毎朝の筋トレ、基礎からの勉強、さらに外見指導やコミュ力特訓も必要なんだから、自分の時間なんてほとんど無くなるはずだわ。

 これまでみたいな『オタクの黄金の夏休み』は消滅する。その覚悟が、こいつにあるかしら。



「いいんだ」


 拓実は迷うことなく言い切った。


「これは俺の覚醒に必要なイベントだから。俺の趣味の時間を削るくらい、どうってことないよ」



 覚醒って……未だに自分は主人公だと勘違いしてるのかしら。

 ま、その心意気だけは買ってあげてもいいわね。

 計画立案者として、村人としての覚醒に協力してあげようじゃないの。



「それなら、明日は私が見てあげるわ」



「えっ?」



 驚いたようにこちらを見る拓実に、私はあえて冷酷な笑みを浮かべた。


「私は結城みたいに優しくないわよ。あんたの空っぽの脳みそに、基礎の基礎から完ッ璧に叩き込んであげるわ」



「ひぃっ……!!」


 拓実の情けない悲鳴が静かな図書館に小さく響き、隣で結城が声を殺して笑っている。



 明日からはスパルタカリキュラムを組ませてもらうわよ。

 徹底的にしごいてやるんだから、覚悟してなさい。


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