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幼馴染の勘違いオタクを無害なモブにしたかっただけなのに、冷徹に教育していた私が絆されました  作者: remia
第3章:立ちはだかる他責思考の闇

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第15話:才能じゃなくて見えない努力

 翌日の早朝。

 日直の仕事でいつもより三十分ほど早く登校させられた私は、静まり返った廊下を歩いていた。


 ついでに、啖呵を切ったバカ幼馴染が、本当に登校しているのかを確認しようと教室へ向かっていると、私のクラスのドアの前に、見慣れた人影が立ち止まっているのを発見した。

 あのラノベ勘違い野郎――佐藤拓実だ。



 なぜか、あいつは自分の教室に行くわけでもなく、ドアの窓からうちの教室を食い入るように見つめて、微動だにしない。

 傍から見れば、朝練で着替え中の女子を覗いている不審者そのものだわ。


 そんなことで摘発されでもしたら、私の社会的尊厳にまで危害が及ぶ。通報される前に対処しなくては……。



「ちょっと。あんた何して――」



 言いかけて、私はハッと口をつぐんだ。

 拓実の視線の先。

 誰もいない静かな教室の中に、須藤大地の姿があったからだ。



 須藤は自分の席に座り、一人黙々と期末テストに向けたノートに向かっている。

 ふと手を止めたかと思うと、今度は立ち上がり、教室のゴミ箱の袋をまとめ、黒板のチョークの粉を丁寧に拭き取り始めた。



 相変わらず、ストイックな男ね。


 サッカー部のエースストライカーで、スポーツ万能のフィジカルモンスター。

 クラスでも目立つハイスペック陽キャの彼が、こんな朝早くから登校して、誰に見られることもなく淡々と雑用と勉強をこなしているんだもの。



「……」



 拓実は、その光景をただただ呆然と見つめていた。

 許容量を超えた現実データを受信して、脳内CPUが完全にフリーズしてのかしら。



 『才能に恵まれただけの陽キャ』だと思っていた人間が、自分なんかより遥かに地道な努力をしていたという現実に。



 いい機会だわ。身の程をわからせてあげる。

 

 そして……あんたにとって、これが最後のチャンスよ。

 


 私は足音を殺して拓実の隣に並び、静かに口を開いた。



「……才能だけじゃないのよ」



「ひっ!? ……り、凛子」



 驚く拓実を無視して、私はあえて須藤の背中を見つめたまま言葉を紡いだ。


「須藤はね、部活が忙しくて放課後の掃除や委員会に出られないからって、毎朝誰よりも早く来て、ああやって一人で教室の掃除をしてるの」


「毎朝……」


「それに、部活を理由に勉強をサボったりしないわ。部活の後、毎日夜の十時まで塾で勉強して、さらにこうやって朝早く来て、自分の足りない部分を必死にカバーしてるのよ」



「……っ」


「結城だって、美咲だって同じ。見えないところで努力してるからこそ、彼らはクラスの中心人物なの」



 絶句する拓実に、私はさらに冷酷な現実のナイフを突きつけた。



「どうせ陽キャは才能だけでいい思いをしてる、恵まれたやつらはズルいって、勝手に被害者ぶってたんでしょ?」


「なっ……」



 顔に最大フォントの太字で表示しておきながら、バレてないとでも思ってたのかしら?

 相変わらず、おめでたい思考回路ね。



「自分の無能さを隠すために、『自分は本気を出してない』だの『悪いのは環境』だの……そんな痛すぎる言い訳で現実逃避してるあんたを、結城たちはもう見限る寸前よ」



「え……?」



「昨日、あんたが私たちを論破したつもりで帰った後、結城たちは言ってたわ。『環境のせいにして逃げる奴に何を教えても無駄だ』ってね。今日、あんたがその腐った態度を改めないなら、私たちは完全にあんたを見捨てるつもりだったのよ」



「……!!」



 拓実は目を大きく見開き、再び須藤の背中へと視線を戻した。


 自分が底辺どころかマントルの中まで転落していたのは、才能がないからでも環境のせいでもなく、ただ『傷つくことから逃げて言い訳をしていたから』なのだと、ようやく理解したのだと、そう思いたいところだけれど。



 きっと頭の中では、ご両親や私たちに言われたことがフラッシュバックしているはず。


 これでも痛い発言をするなら、お母さんに叱られようが、一切の関係を絶たせてもらうわ。



 やがて、拓実は大きく、けれど深く息を吐き出し、ギュッと拳を握りしめた。


「……俺が、間違ってた。父さんにも、結城たちにも、ちゃんと謝らないと」



 よし、ようやく他責思考という最悪のバグを自覚したみたいね。



 しばらく自分の拳をじっと見つめていたかと思うと、次の瞬間、拓実は突然バッと顔を上げ、謎の熱い炎を目に宿して一人で勝手に深く頷いた。



「よし……! ならば俺も今日から徹夜でレベル上げだ。己を極限まで追い込み、経験値を稼いで隠れし才能ギフテッドを強制覚醒させ――」



『バコォッ!!』



 私は手に持っていた日誌で、ブツブツと痛すぎる主人公モードに入り込んだ勘違い野郎の頭をフルスイングで引っぱたいた。



「痛っ!?」


「バカなの? 睡眠不足で逆効果よ!」



 須藤の邪魔にならないように声を潜めながら、ポンコツ幼馴染に正論ナイフを突きつけた。


「極端から極端に走るんじゃないわよ! どうせ三日ももたないくせに、最初から徹夜なんて出来もしない目標を立てるな!!」


「だ、だって努力しないといけないんだろ!? だったら一気に徹夜でレベル上げした方が手っ取り早いだろ!」



「……」



 この期に及んで、いまだに自分に隠された才能がある主人公だと思ってるわけ……?

 どこまでファンタジー脳なのよ、こいつ。



 私はズキズキと痛むこめかみを押さえ、特大のため息をついた。


「いい加減、自分の平凡さを認めなさい。あんたに必要なのは徹夜じゃなくて、当たり前の地道なことよ」



 少しはマシになったかと思えば、相変わらず極端なバグを息をするように炸裂させる勘違い幼馴染。


 この前途多難すぎるスパルタ教育は、終わる気配はなさそうだわ。……まったく、先が思いやられるわね。

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