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幼馴染の勘違いオタクを無害なモブにしたかっただけなのに、冷徹に教育していた私が絆されました  作者: remia
第2章:絶望的コミュ障のバグ修正

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第12話:親切神とエロテロリスト

 ファストフード店で、二次元の聖域ラノベを我慢して現実リアルのポテト代を払うという究極の選択をしてから数日後の昼休み。

 私と美咲は、いつものように廊下に潜伏し、痛い幼馴染の生態調査を行っていた。


 視線の先には、自分の席でぼんやりと窓の外を眺めている拓実の姿がある。



「佐藤さ、最近、休み時間に本を読んでないよね」


「言われてみれば、確かにそうね」



 以前のあいつなら、休み時間になれば周囲に『俺に話しかけるな』という痛い絶対防壁を張ったつもりで、ラノベの世界にトリップしていたはずだ。

 でも、あの日以来、お小遣いが完全に底をついたのだろう。

 新しい本を買えず、全イベントが終了した町のNPC並みに虚無感を醸し出している。



「相変わらず、休み時間はぼっちかー。挨拶は続いてるけど、そう簡単には馴染まないね」


「ゲームじゃないのよ。人の印象は簡単には変わらないわ。ま、それでもニヤニヤしながらラノベのページめくってるよりはマシよ」



 そこへ、結城がふらりと拓実の席に近づいていった。



「佐藤、お前最近、本を読んでないな」


「えっ? ああ……うん。ちょっと、今は活字の気分じゃないというか、現実に目を向ける時期かなって」



 また見栄を張ってるわね。

 どうして、素直に『金欠で新刊が買えないんだ』って言えないのかしら。



 すると結城は、自分の鞄から一冊のライトノベルを取り出し、拓実の机の上にポンと置いた。


「これ、俺読み終わったから貸してやるよ」



 置かれた表紙を見た瞬間、拓実がガタッと大きな音を立てて椅子から立ち上がった。


「え……!? これって……!」



 それは間違いなく、あの日、拓実がファストフード店で買うのを血の涙を流して諦めた、あの推しヒロインの人気シリーズ最新刊だった。



「ゆ、結城、お前こういうの読むのか!?」


「おう。結構面白くてさ。でも俺、あんまり詳しくないから次に何読んでいいかわかんなくて。佐藤、お前こういうの詳しいだろ? これ読み終わったら、今度お前のオススメ貸してくれよな」


 結城はそう言って、ニッと爽やかに笑った。



 隣の教室に神が降臨した。



 私は踊り場の陰から、思わず拝みそうになった。


 オタク趣味を馬鹿にするわけでもなく、「金がないから買ってやった」と同情して惨めな思いをさせるわけでもない。

 ただ自然に「趣味の共有」という形で、拓実の百均メッキのプライドを一切傷つけずに手を差し伸べてくれたのだ。

 コミュ力と気遣いのステータスがカンストした現人神だ。


 

「いやー、結城の気遣い半端ないねー。ラノベなんか読んだことないっしょ」


「そうね。完全に守備範囲外のはずよ。あいつも、これで少しは『気遣い』というものを学んだんじゃないかしら」



 机の上に置かれた文庫本を震える手で見つめる拓実。

 そして、顔をバッと上げて、勢いよく頷いた。


「……ああ、任せろ! 俺の至高のコレクションの中から、とびきり面白い神作を厳選して貸してやるよ!」



 顔を上げて無邪気に笑う拓実を見て、私の背筋にゾクリと嫌な予感が走った。

 あいつの部屋の本棚を埋め尽くすラインナップを思い出す。

 あいつの言う『至高』って、まさか……。



 ***



 翌日の昼休み。

 私の嫌な予感は、これ以上ない最悪の形で的中することになった。



「結城! 約束の『至高のコレクション』を持ってきたぞ!!」



 私たちのクラスの教室に、無駄にデカい声が響き渡った。

 入り口を見れば、自信満々のドヤ顔で立つ拓実の姿があった。

 自分の得意分野ラノベに関わることだからか、オタクエンジンがフルスロットルだ。

 「早口・大声・謎のテンション」という最悪のコンボを発動している。

 

 当然、クラス中の視線が一斉に拓実と、名指しされた結城へと集中した。



「お、おう、佐藤。わざわざ持ってきてくれたの……って、ちょっ、おまっ……!?」


 笑顔で歩み寄った結城の顔が、拓実がカバンから取り出した『至高のコレクション』を見た瞬間、劇的に引きつった。



「……あのバカ、やりやがったわね」


「え? ちょっ、凛子!? どこいくの?」



 拓実がこれ見よがしに天高く掲げ、あろうことか結城の机にバンッと叩きつけたそのライトノベル。

 それは――布面積が奇跡のようなバランスで消失している美少女が描かれた、とんでもなく卑猥なパッケージだったのだ。



「フッ、俺が徹夜で厳選した至極のハーレムファンタジーだ! 主人公がヒロインたちと織りなす極限のスキンシップがたまらなくてだな――」


「ばっ、お前、声デカい! ていうか表紙! 表紙ヤバいって!!」



 普段はどんな時でも余裕を崩さないカースト頂点の結城が、滝のような冷や汗を流し、必死で本を隠そうとしている。


 しかし、時すでに遅し。



「……ねえ、結城くんが借りてる本、なんかヤバくない?」


「え、結城ってああいう趣味なの……?」



 クラスの女子たちから、ヒソヒソと冷ややかな疑惑の視線が向けられ始めていた。



 この、空気の読めないド変態オタクが……っ!


 せっかく結城が神みたいな気配りで手を差し伸べてくれたのに、その完璧な優しさを木端微塵にぶち壊しやがって。



 足音を殺して拓実の背後に迫った。



「……おい」


「ひぃっ!?」



 絶対零度の声に、拓実の肩がビクッと跳ねた。


 恐る恐る振り返る拓実の顔面を、片手でガシッと鷲掴みにした。

 そのまま指の関節が白くなるほどの力で、必殺のアイアンクローをキメた。



「い、痛っ! 頭蓋骨メリメリいってる! なんでいきなりそうなるんだよ!?」


「あんた……結城の社会的な息の根を止める気なの?」



「は……?」


「昨日、結城があんたの無駄に高いプライドを守るためにどれだけ気を使ってくれたか。その恩を、白昼堂々の『エロ本テロ』で返すなんて控えめに言って人間の屑ね」



「なっ、違う! これは至高のファンタジーを描いた由緒正しきラノベで――」

「黙りなさい。一般の女子目線から見ればただのエロ本よ。あんたのせいで、あのパーフェクト陽キャの結城が『ヤバい奴』扱いされてるのがわからないの!?」



 ギリッ、とさらに指の力を強めた。



「あぎぃっ!? 待って、俺はただ素晴らしい作品の布教を……痛い痛い痛いっ!! 何度でも言うがこれはエロ本じゃない! 芸術アートだ!!」


「そのオタクの自分勝手な理屈が一般社会で通用しないことすら理解できないなんて、最低のポンコツね」


「解せぬぅぅぅっ!?」



 顔面を締め上げられながらも、最後まで「これはエロ本ではない」という一点だけは絶対に譲らない拓実。

 情けない叫び声が、教室に虚しく響き渡った。



 まったく……恩を仇で返すとはこのことね。



 ほんの少しだけあいつを見直しかけていたけど、やはりあいつの評価は底辺……いや、マントルまでめり込んでるわね。


 バグだらけの幼馴染のコミュ力修正特訓は、前途多難なまま続いていく。

 いつになったら『普通の人間』になるのやら……これこそ『やれやれ』だわ。


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