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幼馴染の勘違いオタクを無害なモブにしたかっただけなのに、冷徹に教育していた私が絆されました  作者: remia
第2章:絶望的コミュ障のバグ修正

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第11話:オタク、究極の選択

 コミュ力特訓の開始から、数週間が過ぎた5月下旬。


 会話のパス回しやSNS特訓の甲斐もあってか、最近の拓実は痛い台本棒読みや長文スパムを投下する頻度が減ってきた。

 結城たちに無理やり呼び出されなくても、放課後は自然と私たちの輪に混ざるようにもなっている。


 順調といえば、順調だ。



 だが、結城たちみたいなカースト上位の陽キャグループに張り付いてコミュニケーションを学ぶには、一つ現実的で致命的な壁があった。


 『お金』だ。



 放課後のファストフード、休日のボウリングやカラオケ。

 それに加えて、美咲の容赦ない外見指導による定期的な美容院代に、無難な私服を買うための出費。



 私たち中学生の限られたおこづかいじゃ、毎月新刊のラノベやアニメグッズに全額突っ込んできた金欠オタクには、放課後の寄り道も死活問題になってしまうのよね。



***



 放課後の駅前にあるファストフード店。

 店内は同世代の学生たちで賑わい、あちこちから楽しげな笑い声が聞こえてくる。



 結城、須藤、美咲がそれぞれハンバーガーや山盛りのポテトを頼んでワイワイと盛り上がるテーブル席。

 しかし、その端っこにちょこんと座る拓実の目の前には、百円のドリンクが一杯だけ、ポツンと寂しく置かれていた。



「佐藤、お前それだけで足りるの? 腹減ってない? 俺のちょっと食べるか?」


 ハンバーガーをかじりながら、結城が気遣うように尋ねた。



「い、いや、大丈夫だ。俺、今日はあんまり食欲なくて……」


 引きつった笑いを浮かべて誤魔化す拓実。



 ダウト。


 さっきから、他人の獲物を狙う飢えたハイエナの目で、結城のポテトを見てたくせに、よくもまぁ言えたものね。



 その直後だった。



『きゅるるるるぅ……』



 賑やかな店内にあってもはっきりと聞こえる情けない音が、拓実の腹から大音量で響き渡った。



「あははっ! 佐藤、めっちゃお腹鳴ってんじゃん!」



「ち、違う! これはその、胃腸が活発に動いている証拠というか……!」



 こいつの見栄張るクセはなかなか抜けないわね。

 素直に金欠だって言えばいいものを……百均のメッキみたいなプライドが邪魔するのかしら。



 ……ふと、拓実の手元に目をやると、テーブルの陰でこっそりと財布を開き、そこに入っているなけなしの千円札と睨めっこをしていた。


 そして、その横に置かれたスマホの画面には、『本日発売! 人気ライトノベル最新刊』の広告が表示されている。



 なるほど。あいつ、今日発売の推しヒロインの新刊を買うためにお金を残してたってわけね。



 オタクにとって、趣味の資金は命の次に重い絶対的な聖域だ。

 帰りの本屋で新刊を買って、早く家に帰って読みたいに決まってる。


 だけど、そのお金をこの居心地の悪い陽キャたちの輪にしがみつくための『交際費』として使ってしまえば、当然本は買えなくなる。



 バカ拓実はどうするのか。

 ストローを咥えながら、二次元と三次元の狭間を迷走するオタクの観察を続けることにした。



 結城たちは、ポテトをつまみながら今日のテレビ番組やクラスの話題で盛り上がっている。


 拓実は空っぽになりかけのドリンクのストローを噛みながら、会話のパス回しに加わろうと下手くそな相槌を打っているが、やはり目の前に食べ物がないとどうしても手持ち無沙汰で浮いてしまう。


 その視線が、チラチラと財布の中の千円札へ向かった。

 そして、目の前で楽しそうに笑う結城たちの顔を交互に見つめた。



 今あいつの脳内で、『二次元の推しヒロインの最新刊』と『現実(リアル)のポテト』が、血で血を洗う熾烈な最終戦争(ラグナロク)を繰り広げているに違いない。



 数秒の、オタクにとっての究極の選択。



 やがて、拓実はギュッと唇を噛み締めると、パタンと財布を閉じ、勢いよく席を立った。



「……やっぱり、俺も頼んでくる」


「お? なんだ、食欲出たのか?」


「ああ。ポテトの匂い嗅いでたら、腹減ってきた」



 拓実は結城にそう言うと、この世の終わりみたいな顔をしてレジへ向かっていった。

 そして、新刊を買うためのなけなしの千円札を崩し、皆と同じようにハンバーガーとポテトを買って戻ってきたのだ。



「おっし、じゃあポテト交換しよーぜ!」


「いいぞ。俺、ナゲットも一個やるよ」



 戻ってきた拓実は、結城や美咲たちと食べ物をシェアしながら、先ほどよりもずっと自然に会話の輪に溶け込んでいた。



「……」


 あのキモい二次元至上主義のオタクが、自分の聖域である趣味を我慢するなんてね。

 現実リアルの人間関係を優先するとは思わなかったわ。



『会話の輪に入りたいなら、まずは相槌という参加費を払え』



 結城に教えられた言葉通り、あいつは今日、身銭を切って『参加費』を支払い、彼らと同じ土俵に立つことを選んだ。



 本当に参加費を払えとは言ってないのに……バカね。



 だけど、傷つくことから逃げて、痛いラノベのセリフで言い訳ばかりしていた頃に比べれば、その涙ぐましいあがきは、ほんの少しだけ評価してあげなくもないわ。



 ま、勘違いされたら腹立つから、絶対に口に出して褒めたりしないけどね。


 更生計画はまだまだ道半ばなのよ。


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