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エイラクマルを追いかけて行かなかった残り40%の天使軍は、月へ向けてジャンプしていた。
月の都は、今は隠されておらず、その姿を晒している。
小規模ではあるが、星間連盟宇宙軍の基地があり、その施設には宇宙港も含まれている。
港から、戦闘仕様に装備をしたシャトルが次々に飛び立った。
天使達とシャトルはたちまち交戦。
シャトルは奮戦したが、数で勝る天使達は隙間をぬって突破し、月の地表へと降下してゆく。
「撃てー!」
月の都軍が一斉射撃をした。
銃弾の形をした弾幕が雨のように天使達へ撃ち込まれ、爆発四散してゆく。
それでも、かなりの数が生き残りさらに肉薄してゆく。
戦は数だ。
「消えなさい!」
傘が突き出された。
大砲とも思えるような極太ビームが放出され、天使達を焼き払っていった。
元祖マスタースパーク。
風見幽香だ。
「それー、もっと弾幕を叩き込めー!」
幻想郷の有志達が一斉に弾幕を撃ち込む。
天使達は次々にやられてゆくが、次々とおかわりがやってくる。
文字通りの殺到だ。
弾幕でも撃ち漏らした天使達は、近接戦闘に長けた者が迎え撃つ。
魂魄妖夢、紅美鈴、アリス・マーガトロイド、上白沢慧音、藤原妹紅、ナズーリン、雲居一輪、寅丸星、聖白蓮など。
「突喊!」
綿月依姫は叫んだ。
玉兎で構成される月の軍隊が銃剣突撃を敢行した。
自らも天使達の中へ飛び込み、白刃を振るう。
神降ろしの業を使っている。
刀の威力が桁違いであった。
「皆、下がって!」
綿月豊姫が前に出た。
手には扇が握られている。
豊姫が扇を振ると、
さーっ
天使達が塵になって崩れた。
月の科学力の粋を集めた恐るべき兵器だ。
しかし、天使達はまだまだいる。
どんどん補充される敵兵。
月の都軍と幻想郷義勇兵は最初こそ奮戦したが、徐々に消耗してゆく。
魔法や特殊能力は精神集中をしなけれぱならない。
精神集中をすれば疲労する。
肉体も動き続ければ疲労してゆく。
疲労が重なれば動きが鈍くなる。
疲れが見え始めた。
「くっ…もうダメだ」
「これ以上、持ちこたえられない」
「皆、ここは任せて引けー!」
弱音を吐き始めた幻想郷の有志達に、依姫が叫んだ。
玉兎達が依姫の周囲に集まり、天使達を阻む。
「ごめん」
「す、すまない」
幻想郷の有志達は後退を始めた。
*
『すごい兵器を持ってるようだが、どこまで持つかな?』
ワラキエルはスクリーンを見ながら、笑った。
天使軍の母船、スクエアシップの中である。
四角い箱のような外見からそう呼ばれる。
軍勢を統制するCPUのような役割をしていた。
どんな兵器も無限に使えるなどということはない。
豊姫の扇も何度目かの使用で打ち止めになったらしかった。
想定外の数であるらしい。
『すぐにバテるようでは勝てんぞ』
ワラキエルは笑いながらつぶやく。
『さて、宇宙船の方を見るか』
スクリーンが切り替わり、エイラクマルが映し出される。
天使達がエイラクマルに取り付いて、ビームを当て続けており、装甲を破ろうとしている。
『諸君らに最後の機会をやろう』
ワラキエルは通信を送った。
『そんなものは要らない!』
エイラクマルの乗組員、白い帽子と白い服の女が拒否してきた。
『それは残念、ではせいぜい奮戦するがいい』
ワラキエルがそう言って通信を切ろうとした時だ。
ブリッジの奥の方に、見覚えのある顔があった。
『おや、こんなところにいたのか、アヤリエル』
「…私は射命丸文です」
相手は、きっとワラキエルを睨んだ。
『まあ、いい。今からでも私達に協力すれば見逃してやってもいいぞ?』
ワラキエルは上から目線で言う。
『お断りします!』
相手は即座に断った。
『ふん、堕天使風情が、昔のよしみで助けてやろうとしたのに』
『私達は天狗です!堕天使などと呼ばないでもらいたいですね!』
相手は激昂しだした。
『なんと呼ぼうがお前らは逃げた。神の意向に逆らってな』
『うっく、この、ムカつく!お前らなんかに負けてたまるか!このボケ、カス!』
『なんとも見苦しいな』
ワラキエルは鼻で笑って、
『ならばそいつらと一緒に死ね』
通信を切る。
『堕天使など、助ける気はさらさらないがな』
ワラキエルはニヤリとした。
*
「くっそー、なんなのアイツゥッ!」
射命丸は頭をかきむしっていた。
普段からは想像もできないほど取り乱している。
「お、落ち着け、射命丸」
ムラサが心配して声を掛けた。
「……」
その途端、射命丸はさっきまでの取り乱しようがウソのように静まった。
「演技です」
「はあっ?!」
ムラサはすっとんきょうな声を上げる。
「アレを騙すのが目的です」
「そういや、知り合いみたいだったな」
「それは……また後で。そろそろ天使どもが装甲を破る頃合いかと思われます」
「チッ…そうだった!」
ムラサが舌打ちする。
『報告、装甲が抜かれました!』
『Dブロックに侵入者!船壁に穴が開いています、直ちに封鎖します』
乗組員から報告。
ほぼ同時にコンピューターの警告が放送される。
「くるぞ!全クルーに告ぐ、戦闘に備えろ!」
ムラサがコミュニケーターで船内へ放送した。
*
「退却ぅー!」
依姫は玉兎達へ指示した。
強固な統率力で食い止めていたのも限界が来ていた。
弾薬が尽きかけ、体力も気力も限界だ。
豊姫の扇もエネルギーがなくなっている。
迷いの竹林を灰塵に帰す超兵器も、40万の天使達すべてを壊滅させる事はできなかったらしい。
耐性でもあるのかもしれなかった。
しかも、天使達は後方で、魔方陣を生み出し、新たな天使達を呼び出していた。
増援が来るのである。
「この!」
豊姫は、フェムトファイバーを使って天使達を絡めとってゆく。
一時的に動けなくして時間を稼ぐつもりだ。
月と幻想郷の軍勢は後退をし続けていて、このままでは都への侵入を許してしまう。
都の中でゲリラ戦となりかねない。
(もう、ダメか…)
依姫が覚悟した時、
「パチェ、準備はいい?」
「うん、オーケー」
突如、会話が聞こえてきた。
レミリアとパチュリーだ。
しかし、二人の姿は見えない。
(なんだ?どういうこと?)
依姫が困惑していると、
「ふふ…」
豊姫が目の前に立った。
「姉さん、なにを?」
「奥の手というヤツよ」
豊姫は能力を使った。
元々は月の都を隠していた空間制御能力だ。
空気のない月の姿に入れ換える。
そこには見たことのない大きな門のような何かがあった。
無数の人が捻れて断末魔をあげているかのような材質でできた禍々しい外見。
漆黒の闇がぽっかりと空いている。
ゲートだった。
レミリアとパチュリーがゲートの前に佇んでいる。
「戦は数だったわね」
レミリアは言った。
その表情は、狂暴な吸血鬼のもので、いつになくカリスマに溢れている。
「だから、数を揃えてみたわ」
「なっ…!?」
依姫は驚いた。
「隠しててごめんなさい、土壇場まで使いたくなかった手なの」
豊姫が申し訳なさそうに謝る。
「私は紅い悪魔と呼ばれているわ」
レミリアは言った。
「悪魔が悪魔呼んでも当然よね!!」
その顔はとびっきり邪悪だった。
(ヘルズゲート!)
依姫が思ったと同時に、ゲートの中から気配がした。
何かが出てくる。
ヤギの頭をした悪魔。
羊の頭をした悪魔。
牛の頭をした悪魔。
異形の者どもがどんどん現れてくる。
そのうちに見覚えのある者が、ゲートからひょっこり出てきた。
紅魔館で使用人として仕えている小悪魔だった。
「お前らー!」
小悪魔が叫ぶ。
「憎っくき天使どもに借りを返す良い機会だぞーっ!」
『おおおっ!』
ざわめきが沸き起こり、悪魔達は黒い翼をはためかせて天使達へ迫っていった。
「100万はムリでしたが、20万くらいは借りれましたよ」
小悪魔がニッコリと笑う。
「うん、よくやったわ、こあ」
レミリアもニッコリしている。
「無償じゃありませんけど」
「うん、それは分かってる」
レミリアはうなずいた。
「パチュリー様は?」
「そこでのびてるわよ」
ゲートを作り出す術の疲れからか、パチュリーは泡を吹いて倒れ込んでいた。
「わー、パチュリー様ァッ!?」
小悪魔は慌てて駆け出した。
*
地獄から来た悪魔達が天使達を押し止めた。
戦線は好転したのである。
悪魔達が出切ったのをみて、豊姫と依姫は反撃を開始した。
回復した幻想郷の有志達も反撃に加わると、天使達は徐々に後退を始めた。
一進一退である。
しかし、これは地上部隊の戦況に過ぎない。
宇宙空間では、シャトルが頑張っていたが、天使達の数は相変わらず多く、押し返すなど不可能であった。
シャトルも燃料や弾薬が尽きれば無力になる。
そうなれば、すべての天使達が月に殺到して、折角押し戻した戦線がまた後退するだろう。
その時、奇跡が起きた。
地球から飛来したのは、連盟の宇宙船である。
『遅くなりました! ニュージャージー船長、アサツキ・カーネギーです!』
『ティンタジェル船長、アーサー・ペンドラゴンです』
『ナーガラージャ船長、タージ・マハールです』
『イズモ船長、セーギ・ヨシダです』
4隻の宇宙船が到着した。
「おお、よく来てくれました」
月の都基地司令のセドミックは、ちょっとだけ嬉しそうな表情を見せた。
『直ちに敵との交戦に入ります』
アサツキが言うと、4隻の宇宙船はパルス砲や核魚雷を発射して天使達を攻撃していった。
*
宇宙軍の増援が遅れたのは、以下のような経緯がある。
アサツキら船長達は増援に志願していたのだが、宇宙軍本部はGOサインを出さなかった。
セドミックとパープルの予測通り、援軍を送る気がなかったのだ。
敵は不可思議な世界の未知の大軍。
軍本部は、敵がこちら側へ押し寄せてこないかと危惧していた。
援軍を送ることで敵の注目を集めてしまい、こちらの世界へ呼び込んでしまうのでは、と考えたのだった。
「なぜ、ダメなんですか!?」
『あちらに過度に干渉するのは危険だ』
「エイラクマルは見殺しですか!? 月の都基地も!」
『我々も心苦しいが、こちら側へ未知の敵を呼び込む危険は犯せない』
「クソッタレ!!!」
アサツキは激怒して通信を切った。
もう、命令無視で行ってしまおうか…?とアサツキが思い詰めた時だ。
「船長、見てください!」
通信士のオニオンが叫んだ。
「なに、これ…??」
モニターに映し出されたものを見て、アサツキは一瞬、怒りを忘れてしまった。
連盟政府の建物上空に、突如として巨大な物体が現れた。
木製の、六角形の、長いもの。
それから、宇宙軍本部の建物上空に巨大な石。
草で編んだ縄のようなものが巻いてあり、白い紙が垂れ下がっている。
連盟政府と宇宙軍は騒然となった。
緊急会議が開かれ、色々と検討した末、連盟は『G』の仕業だと結論付けた。
G意識体。
過去にこのような現象を引き起こした事例が何件かある。
連盟は、すぐにGとコンタクトを取った。
交渉役は元ニュージャージー船長のアール・グレイだった。
こちらの世界でいう神に相当する存在のGは、神出鬼没だ。
呼び掛けを行ってすぐに、Gは現れた。
見た目は宇宙軍の制服姿の男である。
「呼んだか?」
「Gよ、今度はなんの悪戯なんだ?」
「いや、今回はそういうものじゃない」
Gは頭を振った。
「我々にもまあ、一種の付き合いみたいなものがある。君らでいうお友達付き合い、みたいなものがな」
「どういう意味かわからない」
「説明はするよ。でないと君らにアンフェアだからな」
Gはなにやらモゴモゴと言って、
「要するに、我々は仲介役だ」
「なんだと?」
「仲介役。ある人がある人になにか頼みたい。例えば商売でもなんでもいいさ、売る方は高くしたい、買う方は安くしたい、そう思うのが自然だろ? で、我々は両方の意見をうまく調整して円満解決」
「つまり、お前達みたいなのがもっと他にいて、連盟に何か頼み事があるということか?」
グレイは驚きを隠せない。
「ひらったく言うと、そう」
Gはうなずく。
「驚いた?」
「まあな」
「ま、あれだ、我々は今回は悪戯をしてるんじゃなくて、君らとの意志疎通に努めるよう指名されたんだ。…まあ、そのなんだ、今までの悪戯は謝るよ」
「それは、結構」
グレイはうなずく。
「それで、そいつらは連盟に何をやらせたいんだ?」
「うん、それだ」
Gはようやく本題に入れたという表情。
自分が回りくどいのは棚に上げている。
「最近、君らは別世界へ進出し始めただろ?」
「ニュージャージーが偶然迷い込んだ別の世界の地球というやつか」
「うん、あっちの世界にも我々みたいな存在がいる。一般的には神様と言われるヤツだな。あっちの世界の神様が増援を送ってくれないかと言っている」
「脅迫にしか聞こえないな」
「手荒な事をする気なら、もうやってるさ。これは交渉の域を出ていない。かなり高圧的だがね」
「うーむ」
グレイは唸った。
Gの話はそれなりに信用できそうだ。
グレイは思った。
付き合いが長いのもあるが、これまでGが連盟にしてきた仕打ちを考えると、今回の件はやり方が違う。
Gならもっと手の込んだ冗談めいた事をする。
「分かった、少し時間をくれ」
「先方は急いでるんだ、あまり待たせるなよ?」
「うるさい」
軽口を叩きあってから、グレイは連盟と宇宙軍の面々と話し合った。
「連盟は増援を送る」
グレイは言った。
「先方はちゃんとあのデカい木の柱と石を退けてくれるんだろうな?」
「大丈夫、我々も仲介はキチンと果たす。それが後々、我々の利益に繋がるからな」
Gは自信たっぷりに請け負った。
「では、先方にそう伝えてくるよ」
「しっかりやれよ」
「余計なお世話だよ」
Gは毒づいて、そして消えた。
すぐに連盟政府の上空にあった柱と、宇宙軍本部の上空にあった石は消えてなくなった。
「では、志願していたニュージャージー、ティンタジェル、ナーガラージャ、イズモを増援として送るようにお願いしますよ」
「…増援を出さないとダメかね」
「こんなのは脅迫だろう?」
「ミノス王の二の舞になりたくなければ送った方が賢明ですな」
グレイは幹部連中を見た。
判断したのはお前らだ。
約束を守れ。
と、言外に言っていた。




