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08 鍛冶屋の親方(兄)

「助かった!!ありがとう!!あんたが居てくれて本当に良かった!!!」

「「「ありがとうございました!!!」」」





今、私の目の前には体格の良い男性4人が頭を地面にこすり付けるように土下座している。



何故こうなった・・・。

いや、原因はわかっているんだけれども。




ゴミをゴミ袋に入れたら土下座して感謝された。


・・・うん。言葉にするとなかなかヒドイなぁ。


結局あの後、私が持っていたゴミ袋に瓦礫は全て収まった。

袋よりも大きなものが瞬時に消えていく様は、ちょっと異常だったけど。


でも、次々に山が無くなっていくのはそれはそれで快感だった。

なんか、こう、あるべき姿に戻っていくような、うーん、ある程度散らかした部屋を片付けた時のような、そんな高揚感。思わず途中から楽しくなった。不謹慎だから顔には出さなかったけど。





「あの・・・頭をあげて下さい。私はたまたま通りかかっただけですし。そこまで感謝されるようなことでは・・・」


「馬鹿言うな!助け出すのが遅れていたらアイツは・・・!」


「お、親方!落ち着いてください!」



私の言葉に親方さんが一気に詰め寄ってくる。

これは私の言い方が悪かったかな・・・。




親方さんは今にも泣きそうな顔をしているし、ここがゲームの世界でもこの人達はちゃんと『生きている』んだろう。


私にとっては大したことでなくとも、親方さん達にとってはとても大きいことで、それを軽んじられたら怒りたくもなるし悲しくもなる。

親方さんの立場を考えれば、お弟子さんの将来の事もあって、自身の不甲斐なさとやるせなさも感じていることだろう。




うん。これはやっぱり私が悪いな。




しばらく人と会話していないと、たまにこうなってしまうんだよなぁ。


相手の感情というか心情とか、その環境の背景だとか、言動によって変わる未来だとかを考えて理解するという事をすっかり忘れてしまう。


それは私の悪い癖のひとつ。


私の言葉なんかで何も変わるはずがない、そうやって軽く考えて安易に発言してしまう。

でも人は『誰に』言われたかではなくて、誰かに『何と』言われたかが重要だ。



だから気をつけなくてはいけないのは

『私が』何と言ったかではなくて、私が『何と』言ったかだ。



そしてそれを理解出来ていても、相手の状況や環境を把握出来ていなければ意味が無い。



だから私は想像力を働かせなければいけないんだ。


そして目的を履き違えてはならない。


あくまで想像するのは『相手がどんな人物でどんな過去で、どんな交友関係で、どんな教育を受けてきたのか、どんな考えの人物か』で、そしてそんな相手が私の言葉をどういう風に受け取るか。


過去に間違えてしまった時は、『私が』相手の立場だったらを想像してしまっていた。




ここを間違えてしまうと例え想像力を働かせていても何の意味も無い。

それを私は学んでいたハズなのに・・・。






「親方さん、申し訳ありません。私の発言は撤回させて下さい。安易な発言でした」


「・・・いや、俺も悪かった。助けてくれたってのに・・・詰め寄ったりして、すまん」



今にも飛び掛かってきそうだった親方さんが姿勢を正し、親方さんを抑えていたお弟子さんもほっとした様子で横に並びなおしている。

お弟子さんの手慣れた様子から、おそらく親方さんはよくこうなるのだろう。





「いえ、気にしないで下さい。でも、お弟子さんにひどいケガが無くて、良かったです」


「あぁ、本当にな。時間が掛かっていたら治療院に行っても後遺症が残っていたかもしれん・・・。俺ら職人にとっちゃ死活問題だ、手足が上手く動かないなんてアイツは耐えられんだろうから・・・」



足を挟まれていたお弟子さん(イルデさんと言ったかな?)は、やはり出血していたのですぐさま治療院に連れて行かれた。幸い深手では無かったので、後遺症もなく完治出来るだろうとのこと。

もう一方のお弟子さんも、かすり傷程度だったけど念の為にと一緒に連れて行かれてった。




はたしてゴミ拾いクエストだからこんなイベントが起きたのか、ここを通りかかるだけでイベント発生したのかは分からないけど、私にとっても彼らにとっても幸運だったということだろうか。


親方さんはおそらくかなりお弟子さんを大事にしているんだろうな。

出会ってまだ数十分しか経っていないけど好感がもてる人達だ。この人達が悲しい思いをせずに済んだのなら役に立てて良かった、と心から思う。



なんか、良いな。こういう関係性。

頼って頼られて、心配して心配されて、想って想われて。

羨ましくて、微笑ましい。



そんな私の感情が顔に出ていたのだろう。

親方さんが照れた様子を隠しきれないままお弟子さん達に「おら、とっとと工房に戻れ!」と言って帰りを促していく。





あ、そういえば。




「親方さん、どかした瓦礫のゴミですけど袋に入れた分はどうしましょうか?どこかに移動させますか?」

ゴミ袋に入れっぱなしで忘れていた。



「ん?あぁ、いやあんた〈まんぷく亭〉の女将さんからクエスト受けてたんだろう?そのまま持ってってくれねえか。こっち側に回ってきてくれるヤツはあんま居なくてよ、積りに積もってあんな量になっちまったんだ。ちっとは報酬の足しになると思うぞ」


そういえば女将さんもそんな事言ってたっけ。

でもあんな量になるってことは相当な期間ほったらかしだったってことかな。



「そういう事でしたらこのまま貰っていきます。ちなみに、ここだけであの量って事は他の工房にも同じくらいゴミがあるんですか?」



「いや、木工や裁縫で出るゴミは木くずや布きれで軽いし使い道があるからな、自分たちで処理出来てるハズだ。・・・あぁ、でもこの先の角んところによ、もう一軒鍛冶屋があるんだ。俺の弟がやってるんだが寄ってってくれねぇか?俺と同じくそういうとこズボラだから・・・」




同じくらいゴミが溜まっているかもしれないってことね。

それにしても、お弟子さん思いで弟思いか。見た目に反してかわいい人だなぁ。もう。




「時間も余裕ありますから、是非寄らせて頂きますよ、お任せください」


「頼む。この街じゃ鉄くずなんかは需要も無いからな。出る量だけは大量だから、俺も弟も扱いにゃ困ってんだ、悪いな」


「この街ってことは他の街だと需要があるんですか?」


「まぁな。この街じゃ鍛冶やってんのは俺ら兄弟だけだが、王都とかだったらもっと大きい工房もあるからな。でっけぇ炉もあるし、抱えている弟子も多いとなりゃ、鉄くずを鋳つぶして練習させたりすんのさ」



練習用か。なるほどなぁ。

もったいない精神の塊のような日本人プレイヤー達ならもっと使い道あるかも?

一応チャンスは作っておきたいな。





「ちなみにですけど、今この街には異人が多く訪れているんですが、中には鍛冶仕事をしてみたいという人達がいるかもしれません。その人達用に取っておいたり売り払ってみては如何ですか?」


私もちょっとやってみたいし。

トンテンカンカンしたい。



「うん?そういやあんたも異人さんか。今回はそんなに多く来たのか?・・・それなら確かに需要あるかもな。ちょっとギルドに話しておくか・・・?」


「是非。私も余裕が出来たら初歩くらいは学んでみたいですし、お願いします」


「・・・お前、名前は?」


「申し遅れました、私はカケルと申します」


「カケルだな、俺はブランドン。ブランドン・スミスだ。鍛冶をやりたくなったら俺に言え。武器なら俺が、防具なら弟が面倒みてやる。話は通しておくからよ」



それは願ってもない申し出だが・・・良いのかな?正直興味があるってだけでスキルがあるわけでもなし。時間はいくらでもあるけれど、やりたいことも沢山あるしなぁ。



「それは大変ありがたいのですが・・・私はスキルも持っていませんし、今はこの世界に来たばかりなのであちこち回ってみたいというのもありますから・・・いつになってしまうのか分かりません。それではご迷惑になりませんか?」


「構わねぇよ、お前ひとりくらいだったらいつでも面倒見てやれる。良い暇つぶしだ。武器や防具の在庫はたんまりあるし、オーダーメイドものが必要になる頃にはまだまだ時間が掛かるだろうしな」



そういうことならここは甘えてしまおうか。

正しく知識と技術を身につけられるなら良い事しかない。



「そうおっしゃって頂けるなら是非。いつ頃になるかはまだ分かりませんが楽しみにしています。私は[剣士]なので剣かナイフを作りたいと思っています」


「おう!なら俺だな。任しとけ、しっかり教えてやるからよ」


お手柔らかにお願いします。







親方さん・・・ブランドンさんか。ブランドンさんと約束して別れ、ウキウキしつつやってきたのはもう一つの鍛冶場。


ここにブランドンさんの弟さんがいるらしい。


ちなみに、ここに来るまでにもなんだかんだでゴミがあったのでしっかりゲット。

なんだかんだ先程の鉄くずと合わせて中々の量になっているはずだ。

報酬は微々たるものって言ってたけど、それよりも街をキレイにするこの行為が気持ちが良い。


こころなしか、ゴミを見つけるのと拾うスピードが上がってきた気がする。

もしや私は早くもゴミ拾いマイスター!?





変なテンションのまま重そうな扉をノックする私。



「・・・どちらさん?」


「こんにちは、ブランドンさんから言われてきました。カケルと申します。こちらにゴミがあれば引き取るように仰せつかっています」



出てきたのはどことなくブランドンさんに似ている顔立ちの男性。

だが、圧倒的に愛想が少ない。


ブランドンさんが典型的な欧州の人達のような、顔で感情を語るタイプなのに対し、弟さんは無表情だ。

個人的には親近感。私も表情は動かないタイプだった。昔は常に微笑んでいるか、無表情だったらしい。友人に言わせると。


私から言わせれば、それは友人だったからですよ!と言いたい。

友人の前でまで表情を作るなんてしたくないんです!


今はもうそんな事は無いけれど。表情筋トレーニング頑張ったからね!!





「・・・あんたが、兄貴の男なのか?」


「・・・はい?」




なんだって?




人間観察していたらあらぬ疑い掛けられました。




お読み頂き有難う御座います。

誤字脱字報告受け付けております。是非ご指摘下さい。


感想、評価、レビューお待ちしております。

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