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07 ゴミ拾い

ナンパ・・・じゃなくて声をかけてきたのは、先程資料室で問題を起こしていた2人とそのパーティの人達だ。


聞けば、フォローした事への感謝と改めての謝罪だった。

余計な事をしてしまったかな、と思っていたけれど悪く捉えられなくて良かった。


他のプレイヤーがどう思うのかイマイチよく分からなかったから。

オンラインゲームは難しい。普段の人付き合いの常識とは違う部分があると思うのだけれど、ここまで避けてきてしまった。


今回は相手方もとやかく言う人達ではなかったら良いものの、ちょっとこれは反省かな。

少なくとも他プレイヤーと関わるのはもう少し慣れてからにしよう。今はまだちょっと自信が無い。







謝罪された後、むしろおせっかいをしてしまったから、気にしなくて良い旨を伝え、そそくさとギルドを出た。




地味に周りからの視線に耐えられなくなってしまった。VRでも視線って感じるのね。

もうちょっと場所を選んでほしかった気もするけど、私が無駄に怯えていたのかもしれない。


なんとなく昔から人の視線は苦手だ。





ちょっと落ちた気分をごまかすように速足でクエストの目的地へ向かう。

こういう時の対処法はもう学んでいる。伊達にアラサーやってない。


コツは物事の細かい部分に自分の意識をフォーカスさせること。


例えば今ならただ街並みを眺めながら歩くんではなくて、家の軒先にはどんな花が咲いているとか、歩いている石畳の欠けとか、人々の足音からリズムを作って脳内で音楽にしてしまうとか。



特に最後がオススメ。

リズムを刻むだけで気分は上がる。




人の視線など、もう気にならなくなったところで目的地の飲食店に着いた。

なかなか良い匂いがしていて食欲を誘う。どうやら大衆食堂のようだ。看板には〈まんぷく亭〉とある。



そういえばこのゲーム食事を取らないといけないんだったな。

まだ空腹度には余裕があるから後で試しに食事を取ってみよう。



「はいよー!いらっしゃい!」


中に入ると威勢の良い声が飛んできた。

声の主はおそらくこの店の女将さんであろう40歳前後の恰幅の良い女性だ。



「すみません、冒険者ギルドからゴミ拾いのクエストを受けてきました。こちらの女将さんは今、お手隙でしょうか?」


「何だい、随分品の良いやつが来たねぇ!ここの女将はアタシだ、ちょっとそこの席に座って待っててくれるかい?あっちを片したら説明するからね!」




言われた通り、席に座り女将さんを待つあいだ店内の様子を見るとどうやら客は全員、現地住人のようだ。


意外にプレイヤーの姿は確認出来ない。

屋台の方に流れているのかな?匂いに釣られるとしたらそっちだろう。






「待たせちまったね!ゴメンよ。そんじゃ早速詳しいクエスト内容を説明してもいいかい?」


店内観察していたら女将さんの手が空いたみたい。



「えぇ、お願いします。なにぶん今日こちらに来たばかりで知らないことが多いので・・・」



「あぁ、アンタ異人さんだろう?見りゃわかるよ、心配いらんさ、異人さんだろうと現地人だろうと初めてなら説明はきっちりするさ。なんせ冒険者ってのは基本は荒くれもんだからね、戦う事以外なーんも出来ないし知らないってやつは多いのさ」




まぁ、冒険っていうくらいだもの。

しかし、ノートといい、女将さんといい、どうしてすぐに私が異人だと分かるんだろう?

NPCには見分けられるってことなのかな?ゲームシステム的なもの?



疑問が顔に出ていたのだろう。女将さんが笑って答えを教えてくれた。



「アンタが今着ている服は異人さんがこの世界へ来た時に必ず着ているものなんだよ。有名な話さ。子供たちの『異人さんごっこ』じゃ、その服に似せたものを使うもんさ」




服か、なるほど。

でも確かに。簡素な服だとは思っていたけど、あまり似たようなデザインのものを着ている人は居なかったな。


この世界じゃ普通にボタンが存在しているのに、これは紐で縛るタイプのものだ。

イメージ的には古代中国っぽいのかな?でもあれは紐を輪っかにして引っかけるタイプ。


こちらはひとつひとつしっかり結ばれているから着る時に手間がかかりそう。

ただサイズ調整は容易か。全体的にゆったりしているし。


なんか双剣でも持って剣の舞とかしてみたら様になりそうな感じ。




そしていつの間にか、女将さんの井戸端会議スイッチが始まってしまったみたいで、「ウチの息子が小さい頃なんて・・・」「旦那なんてその時ねぇ・・・」とエンドレスおしゃべりモードになってしまった。



別におしゃべりに付き合うのは構わないけど、今回はクエストもあるし軌道修正しておこう。



ゴミ拾いはいたってシンプル。

渡された袋にゴミを入れて、それをまた女将さんの所へ持ってくる。


ゴミの量によって報酬が変わる歩合制らしい。上限はあるけど。


ちなみにこのゴミ袋、ゲームならではの便利な機能付きで、ゴミと認識されたものしか入らないそう。

さらに魔法袋(マジックバッグ)になっているようで、沢山入れても満杯にならないんだとか。




「ゴミを拾う場所は特に指定していないよ。他のヤツらは大体がゴミの出やすい屋台通りとか噴水広場とかでまとめて取ってくることが多いね。時間制限も無いからね、好きなタイミングで戻ってきな。こっちとしては、それなりにやってくれれば文句は言わないからね。大した報酬をあげられる訳じゃないしね」



「わかりました。でも私はここの街並みが気に入っているので、散歩がてら色々見回ってくるつもりです。なので帰ってくるのは少し遅くなるかと」


「・・・そうかい。散歩も兼ねているならゆっくり回ってきなよ」


「えぇ、行ってきます」



どこか優しい子供を見るような眼で女将さんに見送られて食堂を出る私。

なぜそんな眼で・・・?


散歩か?散歩が子供っぽかったのか?



子供扱いなんて久しぶり過ぎてちょっと恥ずかしくなりながらもトコトコと歩く。




せっかくだからと屋台街とは反対側に進んできたのだが、どうやら住宅街の方に来たようだ。


段々と喧騒から外れ、静かで落ち着いた雰囲気もまた心地よい。

コツっコツっとブーツの底が石畳を叩く音はなんだかテンションが上がる。


個人的には、女性がピンヒールで颯爽と歩く『カッカッ』と鳴る音も好きだ。




あぁ、音に集中し過ぎてゴミ拾いを忘れていた・・・。


とはいえ、住宅街だからかまだゴミを見かけていないけど。





と思っていたらゴミ発見!

これは紙くずか。女将さんから渡されていたトング―火ばさみ状のもの―で拾ってゴミ袋へ。


うん?またゴミだ。

一度目につくと次々と発見してしまう。


これも。それも。あ、あれもだ。





拾っては袋へ、拾っては袋へ。

夢中になってゴミ拾いしていたら、いつの間にか石畳のない小道に入っていたようだ。


マップを確認してみるとだいぶ街の西側まで進んでいたみたい。

住宅街はとっくの昔に通り過ぎてここは・・・工房地区になるのかな?


そこかしこでトンテンカンテン、シャッシャと音がする。

金属音よりかは木を叩くような綺麗に抜ける音の方が多いかな?



先程の静寂とは違い、騒がしいような、それでいてリズミカルな喧騒だ。

どこかマーチングバンドのようで心が躍る。




熱された金属を叩く金槌の奏でる高音と、太い丸太をノコギリで削り出す低音。

トンカチで釘を打ち込むリズミカルなベース音。

カンナで木を削る繊細な装飾音。



様々な場所から奏でられる音楽を壊すような大きな不快音。






・・・不快音?






思わず、脳内で奏でられていた音楽を止められた原因のほうに顔を向けると、そこには瓦礫やら鉄の塊やらの山に下敷きになっている2人の男性がいた。





「う・・・うぁ、た、たすけて・・・助けてくれぇ・・・」

「あし・・・足、挟まっちまったぁ・・・」




「おい、なんだぁ、今の音は?どぉしたぁ?」

「新入りどもー、どこ行ったぁー?・・・っおい!!大丈夫か!?っお前ら!!外来てくれぇ!」


大きな声に釣られて工房から、わらわらと何人か男性達が出てきては慌てて彼らに駆け寄る。




呆気に取られていた私も慌てて駆け寄る。

早く助け出さないと!



「手伝います!」


「!?おぉ、助かる!あんたもこのゴミ山どかしてくれるか?俺がこいつら引っ張り出すからよ!」


「わかりました!」




そういわれて邪魔になっている重そうな瓦礫中心をどかしていく。

が、やはり重い。いくら今の私が男性であっても石やら丸太やら鉄くずを運び出すのはなかなか骨が折れる。


レベル1という事もあって筋力も足りていないか?でも一応剣士だから高めなんだけどな。

周りの男性達もなかなか体格は良い方だが作業は難航。


しかも瓦礫をどかすと、さらにその上の山からまた瓦礫やらゴミやらが落ちてくる。

これじゃ埒が明かない。




「くっそ!これじゃ埒があかねぇ!おい!!お前らしっかりしろよ!今助けてやっかんな」


「親方・・・。俺は大丈夫です、身動きは・・・全く取れないですけど運よく挟まっただけみたいで。それよりイルデのヤツが」

「親方!イルデは足挟まっちまったみたいで!出血してるかも!顔色が!!」


「イルデ!!しっかりしろ!足の感覚あるか!?おい!」

「・・・しびれは・・・感じます。でも・・・なんか、生あったかいような・・・」



ケガをしていたらマズイな。時間が掛かり過ぎたら、助かっても足を切断なんてことになってしまうかも。


なんとか早いとこ、このゴミ山をどうにかしなければ・・・。




何か使えるものは無いか、と辺りを見回す私の視界に入ってきたのは、先程駆け寄った時に私が放っぽりだしたゴミ袋。



・・・試してみる価値はあるか?





「親方さん、この瓦礫山は全部ゴミなんですよね?」


「あぁ!?そうだよ!それがどうしたってんだ!」


怪我しているかもしれない弟子?の人を心配し過ぎて焦りまくっている親方さんは、私の方を見向きもせず答える。





ゴミであるなら効果はあるはずだ。

どこか確信をもって、私はゴミ袋の口を思いっきり広げながら瓦礫山にそれを突っ込んだ。







お読み頂き有難う御座います。

誤字脱字報告受け付けております。是非ご指摘ください。


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