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06 資料室の主


いや、雪国というのは比喩だが・・・


この冷たく鋭いような雰囲気はなんだ?

先ほどまでは本やインクの匂いで温かい雰囲気だったハズなのに。




辺りを見回すと、2人の男性プレイヤーが腰を抜かしたように床にへたり込んでいて、それを囲むように4人の男女も直立不動で固まっている。周りのテーブル席に座っている人達も顔を青くしているようだ。



どうやらこの目に見えない冷気を作り出しているのは、部屋の主であるノートのようだ。

座り込んでいる2人の前で冷たい眼を向けながら仁王立ちしている。



何があったのか・・・。でもこの雰囲気はちょっとどうにかしたいかな。





「ノート。大丈夫ですか?何かあったんですか?」


「・・・カケル。ちょっとね。あまりにも人の話を聞きやしないから無理矢理静かにしてやったとこだよ。まったく・・・。異人さん達は中身と外見が違うことがあるっていうけど、この人達は中身が子供なのかい?」



プレイヤーが騒がしくてノートの堪忍袋の緒が切れたってことか・・・。

しかし・・・。ゲーム開始してテンションが振り切れてしまったのかな?まぁ気持ちは分からなくもない。

私も凄く楽しみにしていたし。

へたり込んでいるプレイヤーはもう心が折れる寸前みたいな顔しているな。少しフォローしようか・・・。




「いえ、中身はこちらでも成人している年齢のハズです。・・・我々、異人はこの世界へ来ることを本当に楽しみにしていましたからね、やっと来ることが出来て感情が振り切れてしまっていたんでしょう。」


いまだ直立不動の人達の間を通り抜け、へたり込んでいる2人へ近寄り視線を合わせるように私もしゃがむ。



「こちらへ来て気が逸るのは分かりますが、人に迷惑を掛けるのは喜ばしい事ではありません。それはこちらでもあちらでも同じことです。最初に受付の方も言っていたでしょう?」


出来るだけこれ以上刺激しないように、優しい声を心がけながら2人へ話かける。



フォローしようとしているのが理解出来たのか、本当に子どもの様に助けを求めるような眼でこちらを向きながら私の言葉にうなずく。


っていうか、銀髪の男のほうは泣いちゃってんじゃんか。

もう一方の金髪も泣く寸前みたい。

本当に心折れるところだったんだな。恐るべしノート。



「幸いにもこちらに居るノートのおかげで頭も冷えた事でしょうし、もうこのような騒ぎは起こさないように行動していけますよね?」


思わず泣いている銀髪のほうの子供相手のように頭をなでながら話しかけるが、これ周りから見たらだいぶおかしい光景じゃないかな?大丈夫かな?




少なくとも当事者2人は気付いておらず、私の言葉に勢いよく頭を縦に振っているので撫でていた手を離す。


「この通り2人も反省しているようなので、ノート。やり直すチャンスを与えてやっては貰えませんか?このまま異人という存在が騒ぎを起こすような輩だという印象になってしまうのは、我々としても本意ではありませんので・・・」



少し大げさかもしれないが、冒険者ギルドというのは情報ネットワークが凄そうだし、ましてやここは魔法が存在する世界だし。

彼らはNPCだけど私にとってはこの世界に生きている人々にしか見えない。


異人と現地住人との衝突フラグは避けて通れるならそうしたい。

あくまで個人的な我が儘でしかないけれど。





「・・・はぁ。まぁ君の様に好ましい人がいるのも事実だしね。異人さんがやたらと害を振り撒くような存在じゃないってことは分かっているよ。僕も少しやり過ぎたみたいだ、今回の事は軽い報告だけにして罰を与えるようなことにはならないようにするよ」


そう言ってノートは2人に向かって放っていた冷たい視線を少し和らげた。


「でも!資料室内で魔法を使って資料をダメにするところだったんだ!もう二度とそんな事しないでよ!?次は無いからね?そしてここでは騒いだりしない事。いいね。」




どうやらノートがキレた原因はそこか。

確かに、それはないな。というか、建物内で魔法は使えるの?剣は抜けないのに。



「・・・っ。はい!二度としません!申し訳ありませんでした!」

「俺も!本当にゴメンなさい!」



2人はノートに直接話しかけられてちょっとまだ怯えていたけれど、なんとか持ち直し姿勢を正してノートに謝罪した。




「うん、君たちの謝罪は受け取るよ。そして今後もマナーを守ってくれるなら、もちろんこの資料室を活用して構わない。街の外へ出るなら知識はあった方が良いしね。勤勉でマナーを守れる人なら僕は歓迎するよ」




先程までの冷笑とは違い、温かく柔らかい笑みにを浮かべるノート。

一気に部屋の温度まで上がったかのようだ。



これは・・・ギャップにキュンとくるやつだ。


そもそも、ノートはなかなかイケメンだ。

好みにもよるかもしれないが、クールなインテリ派が好きな人はドンピシャだろう。


細身で短めの黒髪に、切れ長の眼にシンプルな眼鏡が良く似合っている。

そのくせ微笑んでいると冷たい雰囲気なんて感じさせず、優しいお兄さん的な印象だ。




正直、私にとっては理想の兄って感じだ。

実際の私の兄達は、アウトドア全開の筋肉タイプなので正に対極といえる。





そんな理想の兄像にノートを重ね合わせてい居たら、直立不動だった4人が動きだし2人をそれぞれ手を貸しながら立ち上がらせていた。

どうやら2人は別々のパーティだったようだ。



それぞれのパーティはノートと私に頭を下げながら下へと降りて行った。




私も立ち上がってノートへと向き直る。




「ご迷惑をお掛けして申し訳ありません、ノート」


「ふふ、君は何も迷惑なんて掛けていないよ?むしろ僕も少し頭に血が上っていたみたいだから。君には感謝しないとね、みっともないとこを見せちゃったね」



そういって少し恥ずかしげに、苦笑しながら頬をかくような仕草をするノート。



かわいいな、おい。





「君達にも影響が出てしまったみたいだね。作業を中断させてしまって申し訳ない」


周りのテーブル席に座っていた人達に頭を下げるノートに、プレイヤー達はブンブンと首を横に振る。


何人かはさっきまで顔を青くしていたのに、今は頬をほんのり赤く染めている。

ノートのギャップにやられたか・・・。同志よ。

その気持ち、わかるよ。





「カケルは資料読み終わった?」


場が落ち着いたので資料を棚に戻し、カウンターの所まで行くとノートに話しかけられる。



「えぇ、おおよそ頭に入りました。あとはもう少し冒険者生活に役立つような知識と薬士ジョブに関する資料なんかも見たいのですが、何かおススメはありますか?」


「それなら1番と4番、それと7番、8番の棚にある資料かな。特に1番の棚の生活魔法関連はチェックしておいたほうが便利だよ」


「生活魔法ですか・・・?私は魔法スキルは持っていないんですが使用出来るものなんでしょうか?」


「うん、生活魔法は誰でも使用できるよ。それは異人さんにも当てはまる。実はさっきの人達が使用したのも生活魔法でね、普通はギルド内じゃ魔法スキルは使用出来ないけど生活魔法は別なんだ」


そういうことか。

その場で発動しようとしたってことは、すぐに覚えられるのかな?



「なるほど・・・それで。でも、それなら是非覚えたいですね。元の世界では魔法が存在しませんし、こちらでもスキルを取らなかったのでしばらくは使えないと思っていました。楽しみです」



「へぇ、魔法が無い世界なんだ?ちょっと興味深いね。あぁ、だから皆やたらと魔法関連の資料を求めるんだね?」


「えぇ、そう思います。魔法はあくまで架空の話に出てくるものでしたから」



そう言っておススメの棚へ向かい資料をいくつか取ってくる。


そういえばもう少し詳しい地図も欲しい。ノートに確認しようか。




「地図?あるよ。ただ、詳しい情報が載っているものは取扱いが特殊でね。書き写す事は出来るけど、他人と共有するのはパーティメンバー以外は禁止だよ。捕まっちゃうからね?地図は僕が直接渡すから、また僕に直接返してね」


「はい、わかりました。また個室を使用しても大丈夫ですか?」


「うん、さっきと同じところ使って良いよ」




ノートに許可を貰い、また個室で資料を読みあさる。




地図を書き写すのはなかなか大変だった。詳細な地図ってこんなに情報量多いんだなぁ、そりゃ取扱いが慎重になるはずだ。地形の情報は軍事面から見れば宝に等しかったって歴史の授業で習ったもの。



その後も、周辺モンスターの更に詳しい情報や、植物図鑑と共に地図を照らし合わせたり採取する時の注意点だとか調合の基本、必要な道具などなど書き写したり読み込んだり。





そして待ってました、生活魔法!

これが本当に便利!特に洗浄と清掃、乾燥は現実でも使えるようになりたい・・・。




無事に生活魔法も習得出来たので、個室を出て資料を戻しノートに地図を返す。


ある程度の知識は確保出来たことだし、外へ出る準備をしながら街を散歩でもしてみようか。

なんなら街中クエストを受けてみても良いかもしれないな。



そうして資料室を後にして、ギルドのクエスト掲示板を見てみる。



うーん。ここまで多いと逆に悩むなぁ・・・。





街中のゴミ収集、住人の代わりに留守番、飲食店の皿洗い、孤児院での炊き出しの手伝い、屋敷の大掃除、家を建築中の現場で運搬作業、両親が共働きのとこの子供の子守りなどなど。



これ中には生活魔法があれば簡単にこなせそうなのも沢山あるなぁ。

もしかして魔法禁止とかなのかな?


まぁそれでも問題は無いけれど。




とりあえず、散歩もかねてゴミ収集にしとこうかな?

詳細な地図情報に街中は含まれていなかったもんな。隅々まで回れば一石二鳥だろう。




そうと決まれば早速クエストを受けてっと。


いまだ受付は混雑していて時間がかかりそうなので、今回はメニューからクエスト受注する。


内容を確認すると、まずは依頼主の飲食店の女将さんのところへ行って、詳しく話を聞くように、とあるので早速そちらへ向かいますか!









「あの!すみません!ちょっとお時間良いですか!?」



ギルドを出ようとしたらナンパされました。









お読み頂き有難うございます。

誤字脱字報告受け付けております。是非ご指摘ください。


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