05 ギルド資料室
チュートリアルを終え、通常フィールドに戻り私がやってきたのは冒険者ギルド。
資料室で色々と調べておきたい。
ギルドの中はプレイヤー達でかなり混雑していて、なかなかカオス。
受付嬢の姿も確認出来ないほど人で溢れかえっている。
このぶんだと資料室利用出来るか怪しいな。
少し不安感を覚えながら階段を上ってくと、1階の喧騒とは真逆にとても静かで、インクや本の独特の匂いが感じられる。
こういう空間にいると落ち着くなぁ。
カウンターにいる男性が私に気付き、手にしていた本から目を離し私の方へ視線を向ける。
「こんにちは、資料室を利用したいのですが?」
「いらっしゃい、じゃあギルドカードを出してくれるかい?」
言われた通りカードを提出すると、男性は裏表を軽く確認しただけですぐに返却してきた。
「うん、OK。資料室にあるものは閲覧は自由だけど持ち出しは禁止。食事は禁止で飲み物くらいは良いけど、汚損・破損したら罰金だよ。それからここは休憩所じゃないから、騒がしくしていたら出て行ってもらうからそのつもりで。あとはご自由にどうぞ」
普通にマナーを守っていれば大丈夫ってことね。
「承知しました。ちなみにこの街に来て間もないのですが、最初に見ておくべき資料はありますか?」
「そうだねぇ。君は異人さんだろう?それならこの世界の簡単な成り立ちが描かれている絵本と、簡易的な世界地図、それから初心者用冒険者セット本かな?あとは職業とか、どんなクエストを受けるかによって変わってくるね」
カウンターから出てきて私を連れ、本を取り出しつつ案内してくれる男性。
「ありがとうございます。・・・ちなみにその異人さん?というのは?」
「うん?あぁ、君たちの様に異なる世界から訪れた人々の事だよ。この世界じゃ有名な話でね。数年、もしくは数十年・数百年に一度やってくる良き隣人達で、中には英雄と呼ばれるほどの活躍をする人や逆に世界に混乱をまき散らす人もいるけれど、多くはこの世界を楽しむ旅人のような存在として知られているよ」
お告げ。運営の?
情報収集はあまりしてこなかったのでイマイチこの世界観を把握できていない。
トライ&エラーを繰り返すタイプの人間です。
「それなら我々で間違いないでしょうね。今も下で多くの異人が押しかけていて、既に多少の混乱を撒き散らしてしまっています」
1階のプレイヤーでごった返している様子を思い返し、なんとなく申し訳ない気持ちになり苦笑する私。
「ふふ。大丈夫だよ、そろそろ異人さんが訪れるってお告げがあったからね、受付を増設することになっていたんだ。思っていたより早い来訪だったけど、もう2、3日で増設されるからすぐに混乱は収まると思うよ?」
「それなら良かった。いつまでも今の状況が続いていたら、現地の冒険者の方にも職員の方々にも嫌な思いをされてしまうでしょうから」
「心配してくれてありがとう。・・・でも、そうか。既に大量に押し寄せているのなら、ここへもやってくる可能性はあるかな?どうする?いくつか資料を読むための個室があるからそっちへ案内しようか?防音だから集中して作業出来るよ」
「それは是非。助かります」
本を読むときは出来れば静かな環境のほうが私は望ましい。多少の雑音があっても一度集中出来れば周りは気にならないけど、個室があるのなら断然そちらだ。
「じゃあ、この部屋で。オートロック式で鍵はギルドカードね、ここに差し込んで。アラーム機能も付いてるから必要なら使ってね」
「ご丁寧にありがとうございます。あぁ、そうだ、私はカケルと申します。貴方のお名前を伺っても?」
「どういたしまして。僕はノートリア。皆からはノートって呼ばれているよ、君もそう呼んでくれると嬉しいな。ちょっと女性的な名前なもんだから。それと、そんなに丁寧な言葉遣いじゃなくて良いよ。
冒険者はガサツな人も多いからね、敬語だと逆に肩が凝ってしまいそうだ。もちろん無理にとは言わないけれど」
「では、ノートと呼ばせて貰います。口調に関しては癖みたいなものなので・・・。でも、そうですね。徐々に崩していけるように頑張ります。人付き合いが苦手な故の癖なので」
「ふふ。では君に気を許して貰える日を楽しみにしているよ。僕は基本資料室にいるからね。気軽に声をかけてね」
「えぇ、そうさせてもらいます」
私は別にコミュ障って訳じゃない。たぶん。
人との距離の詰め方に他人よりも時間がかかるだけだ。たぶん。
現に友人とは普通に話せるし。こんな敬語だったり、ですます口調で話すのは仕事関係だったり、出会って間もない人達にだけだと思う。
私に友人と呼べる人は片手で数えられる人数しかいないけど・・・。
いや、ちょーっと自分の世界に入りがちだから、それに耐えられる寛大で辛抱強い人しか友人付き合いが長続きしないってだけで・・・!
あれ?それが世に言うコミュ障なのか?
内心、衝撃の事実に気付きかけて、慌ててその思考を頭から放っぽりだす。
カウンターに戻っていくノートの背中を見送って、鍵を開けて個室へ入る。
中は二畳ほどしかない狭いスペースに一人用の机と椅子があるだけ。
まぁ、資料を読んだり書き写したりするだけの部屋なので十分なのだろう。
資料を書き写したりする為の筆記用具や紙もここに置かれている。
早速読み進めていこうと椅子に座り、持ってきた資料に目を通していく。
この世界の成り立ちを描いた絵本によると、ここは創造神と呼ばれる存在に造られた世界で、創造神が自ら創ったのは精霊と聖獣、モンスターを生み出すシステムの原初の迷宮と、そして最後に人間だという。
そして精霊が妖精を創り、人間の住む土台となる大地や木々、海など自然を富ませ、
聖獣が幻獣を創り、人間の助けとなる動物、血や肉となる生き物を富ませていった。
さらに人間と精霊が交わってエルフ、ドワーフ、ハーフリングが生まれたと書かれている。
・・・?獣人についての記載が無いな。何故だ?
たしか最初に選べる種族に獣人も入っていたハズだけど。
それから長い年月が流れ、あらゆる生き物が存在し、自然も豊かだった世界に大きな変革が起こった。
人間が精霊と聖獣に牙を剥いた時代があったとされている。
精霊や聖獣が世界を創造神の如く色付け、形作っていく様を横目に、その恵みを享受することしか出来なかった人間が嫉妬したという。
同じ創造神に直接創られた存在にも関わらず、人間は多くの人々がほとんど力を持たないままだった。
そして嫉妬と羨望と力への欲望から精霊と聖獣に争いを仕掛けたというのだ。
精霊と聖獣はそんな人間の姿勢に失望して人間の前から姿を消した。
だが、自然を管理していた精霊、生き物を管理していた聖獣が消えたことで世界は緩やかに萎れていくことになる。
それを悲しんだ創造神が自らの存在をこの世界と同和させることにしたのだ。
同和したことで世界の生命力は増し、精霊がいなくとも自然は育つようになり、聖獣がいなくとも生き物は命を繋いでいった。
そして人間達も自ら魔法という力を得たが、代わりに寿命も得たという。
そしてこの世界は今もまだ創造神から加護を受けていて、世界に生まれた事、自然の恵みを頂く事、生き物の命を頂く事に感謝して生きていく事が創造神への恩返しであり、精霊と聖獣への贖罪なのだ。という事で締めくくられている。
まぁ、絵本だからな・・・。と少し冷めた気持ちで本を閉じる。
日本人にとって創世神話はあくまで物語でしかないだろう。響かないのはしょうがない。
まぁ、そこの価値観はここでは関係ないかな。あくまでここはファンタジー世界。
ここはゲームの世界で別世界だ。そういった成り立ちでもおかしくはない。
そういうものだと受け止めておこう。
自分の中で納得させて他の資料を読み進めていく。
そしてわかったことは、この街はドルティアという王国のワンドルという街だということ。
しかもドルティア王国を興したのは数百年前に訪れた異人の英雄らしい。
この地は島国の国で世界地図の縮尺からするとオーストラリア大陸くらいの大きさになるのかな?
ドルティア王国に入るには転移か海路でしか手段が無いゆえに、他国との交易は最低限に留まっているらしい。逆に言えば情勢は安定していて、国家間での諍いはほとんど無いようだ。
はるか北西にある大陸ではいくつもの国が存在していて、中には今も小競り合いがあったり、がっつり戦争中の所もあるらしい。
割とのんびりしたいからそっちには近づきたくないなぁ。
大規模戦は苦手です。ちまちまやっている方が性に合っている。
懸念していた犯罪についての法律はだいぶ緩かった。
基本は殺人、窃盗、強姦は確実に犯罪。あとは国に不利益になる事とか。その他についてはその土地の貴族(この場合は領主かな?)の裁量とのこと。
治安を守っている衛兵がその場ですぐに判断できない場合は、領主に任命された監査官が立ち会い捜査して最終的に領主から裁かれるらしい。
ちなみにこの捜査を拒否する事は出来ないらしい。
汚職役人がいないことを祈る。
ギルド規約も緩く、冒険者以外の人々に迷惑を掛けてはいけないということだけ。
冒険者以外というのは当然ギルド職員も含まれている。なのでギルド職員に詰め寄ったり、暴力行為だったり、指示に従わなかったりすると規約違反になる可能性がある。
受付嬢に詰め寄ったりしないだろうな、他のプレイヤー達・・・。
ちなみに規約違反と認定されると罰金、もしくは罰則を受ける必要があり、罰則は基本的にギルドマスターもしくはサブギルドマスター直々に、一か月間ギルドに拘束されつつ訓練場で相当しごかれるらしい。
そして、冒険者同士の諍いは当人同士で解決するのが基本。場合によってはギルドが介入する事もある。
というざっくり感。
一応、ギルドの建物内では暴力行為は一切禁止らしい。
プレイヤーには関係ないけどね。元々、建物内では剣も抜けないし、おそらく戦闘スキルは使えなくなっているんだろう。
結局、ギルドに逆らうと良い事ありませんよって事だよね。
詳しく明記されていないのは、その場で臨機応変に対応する為なんだろうな。
その後もモンスターは魔石を落とすとか、周辺のモンスター分布図とか、野営の基本的な方法とか、基本的なスキルの使い方とか、色々と役に立つことが載っていたのでしっかり読み込んだ。
ちなみに『モンスター』は『魔物』と呼び換えても問題ないらしい。
地方によって呼び方は様々。チュートリアルではモンスターだったけど、ここは魔物と呼びたい。
なんせ前やっていたゲームでは魔物呼びだったから、そっちのがしっくりくる。
そうしていると事前にセットしていたアラームが鳴り、予定していた時間の五分前を知らせてくれた。
うん。全部一度は目を通したし大体頭に入ったから一度出ようかな。
資料を揃えて持ち、個室のドアを開けるとそこは雪国だった。
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