84 一対多数
ちょっとした不安感のせいか、装備した剣の柄に手を置いていつでも抜けるように準備しながら次の魔物に目を向ける。
私のジョブは[剣士]。私のジョブは[剣士]。
[剣士]は剣を使うんだぞ。
・・・ちょっと情けなくなってきたけど、気持ちを切り替えて【気配察知】が示す場所へと移動。
先程とは違って、今度は3匹の一角ウサギが相手になりそう。
固まって移動して離れていく気配がしない。
出来ればもう一度くらい単体を相手にしたかったけど、わざわざスルーするのももったいないからと、3匹の一角ウサギに近づく私。
揃ってアクティブ状態になったのを確認して、手前にいた1匹に速攻斬りかかる。
よし、これで1対2。
そのままこちらへ走ってきた1匹も踏込みながら一刀両断。――よし。
・・・が、切り上げる形になって、剣を振り上げた所にもう1匹が突進攻撃するモーションが見えて一瞬焦る私。
「――ヤバッ!――っつぅ!」
咄嗟に避けようとしたけど、振り上げた剣と腕の遠心力で体の重心が上手く移動出来ずにそのまま左腕に攻撃を受けてしまった。
受けた衝撃に一瞬、足も手も止まったけど懐に飛び込んで来た獲物を逃がす前に剣を振り下ろす。
よし。倒せたね。
流石に3匹相手で無傷とはいかなかったけど、無事に倒しきった事で少し安堵。
しっかし、波状攻撃とまではいかないものの、時間差で攻撃してこられると中々キッツイなぁ。もちろん油断はしていないつもりだったけど実際に体験してみたら、来るとわかっていても避けられなかったや。
少なくとも切り上げる動作は少し控えた方が良さそうかな?
隙が大きくなっちゃうかも。力は入れやすいけど、次の攻撃へ繋げる動きを意識出来ていないとダメだ。
思い返してみれば、今まで剣ではあんまり切り上げる攻撃は練習してなかったな・・・。
そうだ、せめて2匹目の時は踏み込まずに待つべきだったかも。うーん、やっぱ実践してみてわかる事って多いな。
解体ナイフを突き刺しながら今の戦闘を思い返して少し反省しつつ、次に生かそうと軽いシュミレーションを脳内でしてみる。
うん、次はいけそう。
その後はしばらく立ち回りに気を付けながら周辺の魔物狩りに勤しんだ私。
一旦、周囲に魔物の気配が無くなったので少し休憩。いわゆる魔物のポップ待ち。
奥の方へ移動すればまだ居るんだろうけど、少し持ち物とかも確認したいし。
ちなみにレベルはひとつ上がった。やっぱ初期は必要経験値少ないね。取得したLPは後でまとめて上げようと思って保留にしてる。この分ならもうひとつくらいレベル上がるかなとも思うし。
一角ウサギがドロップするのは、皮と肉と角。
一番落としやすい物は肉で、次いで皮ときて、角は今の所一つも落ちていない。
まだ十数匹しか倒していないから確実ではないけれど、もしかしたら角のレア度はかなり高いのかも。
とはいえ、その素材が何に必要なのか微妙にわかっていないから、現時点では特に問題は無いかな。
他のゲームとかの設定でよくあるのは、武器素材とか錬金素材とか。あとは使い捨てアイテムとかもありそうか。
どちらにせよ、手に入ったらラッキーくらいに思っとこうかな。まだ物欲センサーに仕事して欲しくはないのでね。
ドロップ品の確認と整理をして、少し減っていた空腹度を満たした後はサラっとログを流し見したり、装備品の耐久度の確認をしたり。
そうこうしていると、周辺に魔物がポップし始めて来た。
思っていたよりもずっと早く湧いたな。これなら今後そう退屈せずにレベル上げに勤しめるかも。
出来るならやっぱりサクサクとテンポよく行きたいもんね。
淡々と一角ウサギを切り捨てていく行為は、レベル上げを画面越しでしていた時とは違って何て言うか・・・、「作業」にはならない。
リアリティがそうさせるのか分からないけれど、ぼーっと無心になれるような暇が無いっていうのかな?
ひたすら相手の動きを観察しなければならないから、気が抜けないんだよね。もちろん自身の立ち回りも常に考え続けなくちゃだから、すっごく疲れるのよな。
それでもまたすぐに相手を求めて歩き出してしまうのは、やっぱり「楽しい」から。
うん、やっぱりゲームって楽しい。面白くて、もっともっと、早くまた次へってやめられなくなるんだよね。
・・・そして、その中毒性のデメリットは時間を忘れるという一点だろう。
気付けば周りの景色はオレンジ一色。
綺麗な夕焼け空にも関わらず、私の視線は上を向くことなく真っ直ぐ前から離れない。
何故かと言えば、初めて一角ウサギ以外の魔物を目にしているから。
いや、[テイマー]の人達が連れているのを見た事があるから、初めてっていうのは正確には嘘になるけど。野生(?)の魔物って意味では初めてになる。
【気配察知】で明らかに今までとは様子が違ったから取りあえず近づいてみたのだけれど・・・。
これ、私大丈夫かな・・・?
私の目の前にいるのは、鳥型の魔物10体ほど。・・・鳥だから10羽?いや、ウサギも数え方は何羽っていうのが正しいんだっけ。
少し動揺しているのか、そんなどうでもいい事が頭によぎって現実逃避中の私。
いつまでも突っ立っているわけにもいかないと、一部冷静になった私の頭がやっと動き出す。
兎にも角にもまずは相手の情報が必要なわけで、鳥の魔物を【鑑定眼】で見てみる。
草原・森モンスター:ノンアクティブ
名称:ハーレムターキー
生息地:ドルティア南部・ドルティア東部・他
ドロップ:アッサリチキン・□□□□・□□□□
※群れのボスである雄に対し、雌が多く連なって集まる習性が特徴。
※基本的に草食でアクティブになると逃げだす行動が多い。
※雄を攻撃すると、雌が激怒状態になり非常に好戦的になる。
ハーレムターキーとな・・・。
いや、動物でハーレムを形成する事自体はそんなに珍しい事ではないと思うけれど・・・、なんか名前にその文字があるせいで無駄に狩られそうな魔物だ。ある特定の方々に。
とりあえず、見つけたからには倒したいんだけれど鑑定情報からすると、どうやら下手に近づくと逃げられそうな感じ。
生憎と私はステルス系のスキルを持っていないから、不意打ちは難しそう。
となると・・・逃げられる前に殲滅するか、どうにか雄に先手の一撃を当てて激怒状態にさせるかの2択かな?
まぁ、実際のところは範囲攻撃とかも何も覚えていないから、激怒状態を狙うっていう1択なのだけれど。AGI特化の[剣士]だったら選択肢が残っていたのかも。今後の成長次第では殲滅パターンも出来るようになるかな。
幸いにして群れの中から雄を見つけ出すのは容易だ。明らかに体躯が大きくて、目立つヤツがいる。間違いなくあれが雄だろう。攻撃を一撃入れるくらいは何とか出来そうな気がするけど・・・、問題は私が数の暴力に耐えられるかどうか。
一応【鑑定眼】で見た名前は白く表示されていたから、同レベル帯ではあるみたいなんだけれど。
立ち回り方は少し考えた方が良さそうだよなぁ。ソロである以上はヘイトを一身に受けながら攻撃も回復も、全て一人でこなさないとならないからね。
これがよくあるゾンビゲーとかならトレインが基本戦法になるとは思うけれど、私の得物は剣で、完全に近接攻撃だからなぁ・・・。一歩間違えて囲まれたら詰みそうな気もしなくもない。
私、本当にジョブ選択ミスったかな・・・?
まぁ、やる前から不安になってもしょうがないかと気持ちを切り替えて、最初に斬るべき雄1羽に目を向ける。
この距離なら【縮地】を使えばすぐに勢いのまま目の前まで行けるかな。奇襲とまではいかないだろうけど、何とか1撃を当てられれば後は相手から来るハズ。あとは引き撃ちならぬ、引き斬りしながら捌く感じかな。
かなりざっくりだけど、脳内でシュミレーションをして覚悟を決める。
軽く深呼吸して体から余分な力を抜いていく。
視線は常に1羽だけに向けながら一気に距離を詰める私。
勢いを殺さないまま走り抜けて剣を振りぬく。想定通りに一撃当てると、一瞬羽ばたいて逃げ出そうとしていた残りのハーレムターキー達が一斉に私の方を向いた。
攻撃を当てられて少し吹っ飛んだ雄が、バタバタしながら耳障りで不快な音を上げると同時に雌達の様子が変わる。羽に隠れていない肌の部分が一斉に赤く染まっていく。・・・これが激怒状態か。
素早くバックステップに切り替えて距離を取る。
羽をバタつかせながら迫ってくる様子は中々に恐怖心を煽るけれど、ゾンビほどではない。幸い雌は体躯が少し小さいし。視界が暗くないってのもあるかな。
最初の3羽を叩くように斬って吹っ飛ばしたけど、すぐに起き上がってまた私に向かってくる。どうやら一角ウサギよりも防御力が高いようで、一撃では倒せないみたい。雄も最初の一撃で倒せなかったもんな。
順番に吹っ飛ばしていたけれど、その内にタイミングがズレてきて段々とハーレムターキー達が同時攻撃を仕掛けてくるようになって、徐々に処理が追い付かなくなって来た。
それなのに特に焦りを感じないのは、追い詰められると同時に訓練場の振り子装置の感覚を思い出してきたから。
半身をズラして避けながら【受け流し】でそのまま後方へ。そしてトレインし直す。その繰り返しだ。
剣でただ叩くよりも、【受け流し】で距離を稼ぐ分、また向かってくるハーレムターキー達のタイミングがバラけてきた。
そうなれば主導権を握るのはこっちだ。時折【スラッシュ】を放って1羽ずつ確実に仕留めていく。
終わってみればあっけないもので、私は無傷のままハーレムターキーの群れを無事討伐し終えた。
戦闘終了と同時にレベルアップのアナウンスが流れる。
複数を相手にするのは少し神経を使うものの、やっぱり効率はかなり良いね。
どうやら一角ウサギよりも経験値もおいしいみたいだし、今後は積極的に狙ってみるのもアリかも。
一仕事終えたような満足感と共にぐーっと背伸びをする私。
ハーレムターキー達に解体ナイフを突き刺してドロップ品の回収もしっかりとね。
さてさて、一番夕焼けが綺麗な時間帯は過ぎてしまったけれど、まだ陽は落ちきっていない。
夜になる前に街へ戻るとしましょうか。
ところで、ドロップ品の「アッサリチキン」はムネ肉って事で良いのかな?
いや、そもそもターキーだからチキンですら無いのだけれど・・・。
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