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79 外へ出ない理由

工房地区から中央に向かう途中には大衆食堂の〈まんぷく亭〉があるけれど、この時間帯はお休みの模様。

腰を下ろす場所を探すとなると、自然と噴水広場になるわけで。



戻ってきましたよっと。



作り置きしていた兎肉のローストをモグモグしながら、ボーっと無心になる私。たっぷり散歩した後とか、ツーリングの休憩中とかはよくこうなるのよな。

そして実際のところ、この時間が結構楽しみだったりする。

何となく達成感に浸っている感じというか、余韻を楽しむというか。ここまでがワンセットな感じ。


残念なことに、これに賛同してくれる友人は私には居なかったけれど。



食事を簡単に済ませたら、この後に牧場へと向かう前に一度、ハワードさんから前回頂いたミルクを試してみたい欲に駆られた。

特にこの後の計画を立てていた訳でも無いから、思い付いたままに生産施設へと向かう。思いつきで行動するのはいつもの事だろっていうツッコミが来てもスルーです。



生産施設の前に着くと、ちらほらプレイヤーの姿も見える。

工房地区ではプレイヤーを見かけないから、てっきり生産系はあんまり人気無いのかとも考えていたけど、皆ここで済ましているのかも。初歩的な事なら資料室で学べるし、案外事足りてるのかもね。

まして、この次の街とされているのは生産の街だし、手を出すならそっちでっていう人も多いのかな。



調理部屋に入って早速、以前淹れたアイスティーを取り出す。

調理と言っても、これに牛乳を足すだけなんだけど何となく屋外でやる気にはならなかった。


やっぱり簡易テーブルとか先に探すべきか・・・?



取りあえずお試しに、という事で1杯分を用意して一口飲んでみると、紅茶の香りとミルクのまろやかさと甘さで体の力が抜けていく。

ほぅっと思わずひと息。


ハワードさんの牧場で頂いたカフェオレももちろん美味しかったけど、紅茶との相性も抜群。

決して香りの邪魔はしないし、ミルクで割っただけなのにロイヤルミルクティー並みに濃厚。普段はガムシロップを入れて飲むのも好きだけど、すでに付いているほのかな甘さが丁度良くてこのままでも十分イケる。



あぁ、これ好きだ。



至高の、と言うとちょっと言い過ぎかもしれないけれど、少なくとも現時点で一番私の好みに合うミルクティーがここに完成しました。



紅茶の力ではなく、ミルクの力っていうのがちょっとアレかもだけど。


いや・・・、むしろここから紅茶の淹れ方にこだわってもっと上手く淹れられるようになったら、更に美味しくなるって事か!

・・・ちょっと頑張ってみようかな。


どうせなら自分が美味しく飲める方が良いに決まってるもんね。

・・・ゲームの中でしか味わえないけど。



取りあえず、今度ロイヤルミルクティーの淹れ方を調べようっと。それに合う茶葉の種類も。更に濃厚になるのかちょっと気になるもの。

知識としては、お湯で淹れるのではなくミルクで直接淹れるっていうのは知ってるけど、実際どういう風に淹れるのかイマイチ自信ないので。


ちなみにロイヤルミルクティーはホットで飲みたい派です。




その場で1杯飲みきって、気付けばもう1杯に口を付けてしまってた・・・。

あれ・・・?私いつの間に用意したんだろう?記憶が無いよ・・・。怖っ。


気を取り直して、ミルクを入れる量を少なめと多めで2種類分けてストック。

その時の気分でどちらにするか選べるようにね。まぁ、多めにした方が即消費される気がしないでもない。


多分、ちょっと中毒性あるよ、これ。私がハマり性っていうのもあるけれど。気を付けないとね。



そしてついさっき休憩を取ったものの、せっかく部屋を取って時間が余っているからと、このままミルクティーと共にひと息。・・・また無意識に新しいものを用意したりしないようにだけ気を付けるよ。




時間がきて部屋と建物から退出すると、外の気温がグッと下がってる感覚。

気候的にはまだ温かい季節だけど、夜明け前は少しひんやり。たしか一日で一番気温が下がる時間帯なんだっけ。

路面は石で出来ている所とそうでない所で熱の蓄え方が違うみたいで、土がむき出しの方が温度変化は少ない印象。石畳は昼間は熱を持つし、夜になると一気に冷たくなる感覚が少し面白い。


現実だったら夏は焼石ばりに熱くなるし、冬は氷の様に冷えるだろうから耐えられないんだろうな。


改良を重ねられたアスファルト関係の現代技術に感謝。誰がどう頑張ったのかは全く知らないけれども・・・。




この後はハワードさんの牧場に行くつもりだけど、まだ少し早いって事もあり一旦ログアウト。

ささっと昼食を済ませてこよう。



ゲーム内でしょっちゅう食べているサンドウィッチも桜子謹製となれば話は別。

市販のものと比べても、レタスはシャキシャキでパンに水分が移っていない不思議。何かコツがあるんだろうか?


一口サイズに切り分けられているので、食べやすくてパクパクいけちゃう。

小さいロールパンにウィンナーが挟まれているシンプルなホットドックも、ピリッとくるマスタードの量が完璧でバランスが良い感じ。

時間が経ってもパリッと破ける食感のウィンナーは地味にちょっとお高めのやつ。

桜子の手にかかれば、最高級になるけどね!


ちょっとだけここでミルクティーを欲してしまったけど、叶わないのでシンプルに水出し紅茶。

・・・後で牛乳注文しよ。お気に入りだった業務用の牛乳はメーカー名は覚えてるから、検索すれば出てくるだろう。



宣言通りサクッと昼食を済ませて、またゲームにログイン。



すっかり夜も空けて、現地住人達も活動的になって活気が溢れている噴水広場。

感覚的にはつい先程、お散歩で回った街の南西にまた向かう私。時間が変わればやはり街の表情も変わるね。飽きもせずに景色を眺めながらトコトコと牧場へと。




「おう、おはよう。また来てくれたのか」


「おはようございます。またお邪魔しても?」


「おうよ、手伝いはいつでも歓迎すんぞ!」



勝手知ったるとまでは言わないものの、過去2回手伝った作業は少しずつ慣れてきたわけで。

牛達をお散歩させている間にサクッとお掃除。相変わらず匂いには全く慣れないけれども。


多少の余裕が出てくると、単なるお掃除にもちょっと力を入れられる。

前回、前々回には行き届かなかった角の方だったり、エサが入り込んだ溝だったりもお掃除。

こびりついたフンなんかは、ヘラでガリガリと。


いっそ、大量の水と高圧洗浄機、せめてデッキブラシ・水切りワイパーとか欲しいと思わないでもないが、この世界観でそれは無しかな・・・と思い直す。


現代技術に感謝はしているけれど、おかげで仕事のやりがいも無くなりそうだ。

・・・現実で実際の酪農家さんからすれば話は違うだろうけれど。ただでさえ重労働なんだから現代技術で多少楽になるならドンと来いって思ってるだろうな。



だがここはゲーム。どうせなら世界観に浸って、設定されている文化に合わせて行動するほうがずっと楽しい。ちょっとした職業体験にもなるし、楽をするより苦労した方が結局楽しいもの。


気持ち丁寧めに掃除をした後は、牛達のベッド作り。

新しくワラを入れ替えると糞尿の匂いも切り替わる。ちょっと個人的には良い匂いとは言えないのですが・・・。だいぶマシではあるかな。

畳の匂いとかは好きだけどね。イグサっていうんだっけ?

何となく懐かしい匂いがするよね。特に幼少期嗅いでたってわけでもないのに。あれって何なんだろう?





牛舎の清掃を終えて、いくらかスッキリしたところで今度はエサの補充をお手伝い。

一輪車を押すだけのお仕事なんだけど、これがまた重労働。一輪車一杯に詰め込んだエサはそれで一頭分。

感覚的には10~15キロくらいはありそうな量。これを朝と夕方に与えるんだって。牛って大食漢なんだね・・・。


私はもうステーキ400gも食べられないよ・・・。いや、サラダならいくらでも・・・?

・・・どうでもいいな。




ちなみにここに居る牛達は仮にも魔物。

通常の牛に比べてこれでもエサの量は少ないんだって。今行っている朝ごはんでこの子達は1日過ごせるらしく、かなりお手軽なんだとか。もちろんその代わりにテイム技術は必要だけど。


通常の牛は朝と夕方に2回に分けて、このくらいの量を用意しなければならないから単純にご飯の量は2倍。ただし生産されるミルクはおよそ3倍ほど。環境が良ければ4倍は固いらしい。

大きな街になればなるほど消費量も大きいので、一般的に育てられるのは通常の牛がメイン。

もちろんここに居る闘乳牛のミルクも需要はあるけど、それは上流階級の人達がほとんどで希少性が高い方が好まれるので飼育は限られた人達だけ。・・・そもそもテイム出来る人が少ないっていうのもあるみたいだけど。



「俺は運が良かったからな。元々の素質的にテイマー適性があったし、たまたま知り合いの冒険者と釣りに行った帰りにこの子達と出会えてよ。試しにと思ってテイムしたら、まさか成功するなんて思ってもみなかったさ」


じゃなきゃ、俺みたいな一般人がモンスターをテイムする機会なんて無いさ。なんて言ってたけど、私としてはハワードさんみたいな体格の良い人が『一般人』っていう事の方が違和感というか何というか・・・。いや、それは置いとこうか。なんせこの街には筋肉ゴリゴリ系の人が多すぎる。価値観が地味に崩壊し始めてるよ。




ハワードさんが言うには、そもそも魔物の生息域には冒険者以外ほとんど出かけない。あるとすれば護衛付きの乗り合い馬車での移動が主で、それも最初の1回だけっていうのがほとんど。後は皆教会の転移陣を使用するから。


そもそもが街を移動するって事もあまり考えないらしい。

ちょっと思考誘導というか、AIっぽさが出てるのかなとも思ったけど、考えてみればここはモンスターがそこらじゅうに湧くような世界だもの。そりゃ気軽に外へ出るなんて考えもしないわな。




「お金よりも命の方が大事ですもんね。そう考えると冒険者っていうのは魔物相手に本当に命がけの仕事になるんですね・・・」


現地の冒険者達は何を思って仕事しているんだろうか。ちょっと切なくなってきたかも。酒場で騒いでいても今度からは優しく接しようかな。



「・・・ん?何か誤解があるようだけど、別にモンスター相手に危険があるから外へ出ないって事じゃねーぞ?」


「え・・・?どういう意味です?」


「いや、ほら、冒険者はギルドで地図見れるだろ?あれ、一般には公開されてねーからさ、外に出て迷子になったら遭難しちまうじゃんか。森に入ったら方向感覚分かんなくなるし。さすがに遭難したら危ないだろー?」


ここら辺はモンスターもそんな強くないから、街の壁も低くてちょっと離れたら見えなくなるしよ?って軽く言うハワードさん。




一般人が外に出ないのは、方向音痴で迷子になるから。





そんなん知るか!?


想像だにしない理由だったよ!?







お読み頂き有難うございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 方向音痴でなくても現代人が何もない平原や森の中に入ったら迷子になります 自分は迷子にならない自信がありません(ドヤっ       もっとも、迷子にならないとしても冒険者やれる気はしませんけ…
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