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78 夜のお散歩

FPSゲームって何であんなに難しいんですか・・・?(唐突

ゲームにログインすると、酒場の盛り上がりが最高潮な夜更けの時間。


冒険者ギルド内の小さな酒場では、木で出来たジョッキを持った人達が酔っぱらっているせいか、大きな声で会話しているから少し騒がしい。そこから受付に近づくと、怪しい&危ない呟きばかりの静かなようで混沌とした雰囲気になるんだけど。


さらっとクエストだけ確認しておこうかと掲示板を見ると、ちょいちょい初見のものがちらほらと。

おそらくプレイヤーの行動範囲が広がってきてクエストも多様化したっぽい。


討伐系が多いのはもちろんだけれど、街中クエストも増えてる。

治安維持の衛兵のお手伝いとか、酒場の給仕係だとか、治療院での深夜診療の受付のお手伝いだとか。


残念ながら現実のように深夜手当みたいなのは存在しないみたい。

相手となるのはどちらかというと、住民ではなくプレイヤーになりそうで、ちょっと遠慮したい気持ちが。

けど、プレイヤー間でのやり取りの方が好きな人には良いのかもね。ちょいちょいNPCと関わるのは嫌だって言ってる人達も噴水広場で聞いたし、ナンパかと思うほどプレイヤーに積極的に話しかけている人もいたっけか。



多くの人はきっと、そうやってゲーム内でフレンド作ってるんだろうな。



ゲーマーって世間の人が思っているよりもずっとコミュニケーション能力高い人が多いと思う。

いや、ホントに。

その割にNPCには奥手っていうのがちょっと理解出来ないけど・・・。


出会って3分で意気投合とか、よくある話だもんね。

私には絶対出来ないけれど。何話して良いのか全然わからんよ・・・、男性アバターなだけに変なナンパだと思われても嫌だもんねぇ。



とりあえず今回はクエストは受けずにおこう。

いずれ慣れてきたら受けても良いかもしれない。・・・そんな日くるかな?




さてさて、興味惹かれるクエストは無さそうだし、これからどうしようかな?

夜が明ければまた牧場へ行って、【生物鑑定】のレベル上げ兼お手伝いするのは確定なんだけど。


どうせなら、夜のお散歩でもするか。


まだまだ、時間帯によって表情が変わる景色はたくさんあるかもしれないよね。

街の北側は高級住宅街になっていて、衛兵さんがよく見回りをしているのは知ってる。一応、見て回っていても即捕まったりする事は無いんだけど、イチイチ話しかけられたり予定を聞かれたりするらしい。いわゆる職質ってやつかな。


夜に見て回るのは避けた方がいい地域みたい。



という事で、今回は南側の薬師ギルドがある農園地区から西側の工房地区へ移動する形でお散歩。

ギルドのある街の中心地区から、小道に入ったり出たりの寄り道をふんだんに。


北側の高級住宅街は街灯が沢山あって、夜でも肉眼で問題無く見えるくらいに明るいんだけど、こちら側は数が少なくて所々暗闇が存在し、死角が多い。

ちなみに街灯は魔道具らしい。たまに衛兵さんがメンテナンスしてる姿を見かける。



元々、お化け屋敷とか暗い所でも平気で歩けるくらいに図太い神経をしているけれど、スキルの【抵抗:暗所】もあるおかげなのか恐怖心のようなものは一切感じないまま、のんびりと歩く私。




結構スローペースで歩いていると、嬉しい誤算。

普段は噴水広場でちょっとだけ見かける猫がちらほらと。この街の猫はきっちりお仕事するみたいで、ねずみやら虫やらを追いかけ回してたりしてる。あと・・・発情してたり・・・交尾してたり・・・。


いや、以前イチャついてる男女が居たから『もしかして、また!?』ってちょっと警戒しちゃったよね。思わず気配消したわ。

まぁ、猫には速攻で気付かれたけど。瞬く間に影の中へと消えていったよ。


っていうか、猫って夜行性だっけ?よく夕方とか早朝とかに騒いでいるイメージだったけど。

・・・発情期は別とかかな?そう考えると人間と一緒なんだな。



建物が少なくなってきて、前方には畑や水路や空き地になってくると、聞こえてくるのは主に虫の声。

現代でも田舎や自然保護区域に行けば虫や動物は多く存在するけれど、ここまで大きく聞こえることは無かったと思う。

普段は都会だと夏の蝉の声くらいしか意識出来ないし。


周辺に人の喧騒が無いからなのか、植物が豊富だからなのか、それとも時間帯によるものなのか、はたまたゲームだからなのか。


こんなにも虫の声が生命力に溢れているものだとは知らなかったな。

聞こえてくる感じは一種類なんかじゃなく、数種類もしくは数十種類の鳴き声による大合唱。ボリュームの大きさにも驚くけれど、何故か不協和音とならずに共鳴しているのが不思議に思う。



奥の方から聞こえてくるものは諦めるとして、近くに居そうな虫を少し探してみようと目を凝らして見てみると、一匹見つけた。そして一匹見つかると自然と他のも見えてくる。暗闇であっても多少は月明かりのおかげでぼんやりと見えるしね。建物が無いから影も無い。


それぞれに鑑定をかけながら探しているけど、数の多さに改めて驚き。


―スキル【生物鑑定】がレベルアップしました―



そりゃ上がるよね!

【生物鑑定】のレベル上げのホットスポットは、噴水広場でもなく、牧場でもなく、ここだったのか!

・・・知れただけでも良しとしよう。





途中で虫ではなく、カエルが出てきてちょっと飛び退いた。

あっちも飛んでくるんだもん。そりゃ驚くさ。せいぜい数十センチくらいしか飛べないものだとばかり・・・。

胸の高さくらいまで来たから本当にびっくりした。私も1メートルくらい飛んだんじゃないかな?横にだけどさ。


そしてカエルの合唱とはよく言ったもんで、中々に騒々しい。1匹鳴き始めると周りにいるのも一斉に鳴きだすのね。

人間の酔っ払いよりかは、全然うるさくないけど。


とりあえずスキルのレベル上げにと思って、一旦足を止めてひたすら鑑定。

ぐるりと回って見終えたら、3歩程進んでまた鑑定。そして繰り返し。


これだけ虫を探すっていう経験は人生で初めてかな?現実なら遠慮願いたいくらいだし。ただ不思議と繰り返し見ているとそんなに抵抗が無くなってくる感じ。もちろんゲームだからっていうのもあるんだろうけど、それでも最初よりかはそんなに距離を開けなくても大丈夫になってきた。



そういえば心理学でも、嫌いなものに対して克服する方法に単純にひたすら慣れる方法と、それに対して知識を深めるっていう方法があったっけ。

今の私はそのどちらも実行しているな・・・?いや、そこまで虫がダメってわけでもないけどさ。



少なくとも、Gと蚊じゃなければ。




―スキル【生物鑑定】がレベルアップしました―




カエルと虫でだいぶスキル経験値を稼ぎながら、薬師ギルドの近くまで来た。ここら辺になると一面薬草畑。

そして薬草は虫を寄せ付けなくなるのか、辺りには見当たらなくなってくる。

薬草独特の匂いが漂っていて、この香りを嗅ぐと自然とあの『地獄マラソン』を思い出す。

これ絶対この先ずっとそうなるんだろうな・・・。


記憶と匂いって直結してるって聞くもん。


別に嫌な記憶とかではなくて本当に良かった。失敗クエストになってたら、この匂いを嗅ぐたびに後悔しっぱなしになっていたんだろうと思うよ。



薬草畑を抜けて、更に奥へと進むと遠目に確認出来たのは一面の小麦畑。

今まで通ってきた中央に近い場所は、区画の狭い個人か一家族で管理されていそうな広さだったのに比べて、こちらは区画がかなり広めの商業管理っぽい場所。

割と手前に1軒ポツンと建物があって、月明かりでギリギリ確認出来た文字には農業ギルドとある。


ギルドの奥側には簡易的な柵が設置されていて、一般人の立ち入りは禁止されている模様。

建物の手前にあるスペースは奥に比べて細かめに区画されていて、作物が植えてあったり更地だったり。

おそらくプレイヤーが関われるのは、この手前のスペースまでって事かな。


既に作物が植えられているってことは、もしかしたらもう誰か農業を始めたプレイヤーがいるのかもしれない。

時間帯が時間帯なだけに今は誰も居ないけれど。



寂しい空間にたたずむというのは特に趣味ではないから、何となく景色を目に焼き付けて移動。

ここからまた畑を通って西側へ。


もちろん途中で少し鑑定かけながら。

ただ、あんまり下を向いているとせっかくの散歩が楽しくなくなってくるから鑑定中は足を止めて、歩く時は周りを見るように。


あんまり代わり映えはしないけどね。夜だし。




トコトコ歩いて鑑定、トコトコ歩いて鑑定の繰り返しで、いつのまにか農園地帯を抜けていた。

ポツポツと石造りの建物が並び始めるここは、西側の工房地区。


この時間帯だと作業している工房はほとんど無いみたいで、昼間の騒がしさとのギャップが凄まじい。

最初にここを訪れたのは、初日のゴミ拾いクエストの時だったなぁ。


ついその時の事を思い出して、ゴミが無いかチェックしてしまったけれど、現状見当たらない。

暗くて確かな確認は出来てないが・・・。



ここら辺はここら辺で、また猫がちらほら。

ただ寝床にしている場所なのか、うろついているわけでは無く、伏せって寝ている様子。私の足音に反応して時折、耳がピクピクしていてかわいい。

あんまり睡眠の邪魔をしても悪いからさっさと移動しようか。


裏道、小道を通って、工房だったり工房兼住宅だったりの建物を観察しながら、のんびり歩く。

たまーに夫婦喧嘩してんのかな?って声が聞こえてきたり、微かだけど未だに稼働している工房の物音が聞こえてきたり。


都心は特にほとんどの住宅が防音設備が整っているから少し新鮮。

昔は壁ドンとかいう騒音問題もあったみたいだけど。



ある程度工房地区も回り終えて、西側の門まで辿り着いたので一旦中央に戻ろうかな。

そろそろ空腹度もレッドゾーンだし。



そう思って、ちょうど足元に来た人懐っこい猫を眺めていたら、また【生物鑑定】がレベルアップしたアナウンス。




・・・結局今日だけで3レベルも上がった。


今まで何だったんだろう・・・?





あと、猫さんや。

私に発情するのやめてもらっていいですか・・・?





お読み頂き有難うございます。

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