76 女神で聖母で天使で・・・
普段よりもかなり多めの食糧を買い込んで、桜子と共にバイクにまたがる。
ビッグスクーターの良い所は荷物を沢山積める事と、シート部分が広くて後ろに乗った人もかなり余裕を持って座れる事。
私の後ろに乗り慣れている桜子は変に重心を崩すことも無く、邪魔になる事は無い。
地味に後ろに乗るのもコツがいるよね。
走行中は普段とあまり変わらない感覚で走らせているけど、信号待ちとかになると桜子が前のめりになって話しかけてくるから、背中に柔らかい体温を感じるちょっとした幸福感。
っていうか、むしろ私も後ろによっかかって、桜子の太もも部分を肘掛け代わりにしたりするんだけど。
こういう地味な触れ合いがバイクのタンデムの楽しみ処だと思うんだけど、世の若者男性達は知っているんだろうか?10代、20代の男性ならば、恋人や好いた相手と触れ合える時間を無理やり作り出す事に全身全霊を掛けている、というのは私の偏見か。
知っている人は知っているんだろうけどさ。私の兄達みたいに。
触れ合い時間は早々に終わりを告げ、私のマンションに到着。
一旦荷物だけ部屋に運び入れて、私はバイクを置きに。その間に桜子には夕食の準備を。
タイミングの良い事に私がバイクを置いてマンションの入り口に戻ってくると、悠里も丁度帰って来た。
「おかえり、お仕事お疲れ様」
「あぁ、ただいま。どっか行ってたの?」
「桜と買い出しに。もう部屋に居るよ」
「ほんと!?もう今日一日ずっと楽しみにしてたのよ!ほら、早く!早く行きましょ!」
「わかったわかった」
腕を思いっきり引っ張られながらエレベーターに連れて行かれる私。
どんだけ楽しみにしていたんだ、と少し呆れながらもその感情はとてもよく理解出来るから、なされるがまま。
「桜~?ただいまー!」
悠里が部屋に入った第一声で桜子を呼ぶあたり、本当に桜子に会うのを楽しみにしていたんだなぁと思う。
パタパタとキッチンから出迎えに来た桜子に悠里がすぐさま飛びつく。
「久しぶり~!会いたかったー!」
「久しぶり、悠ちゃん。私も会いたかったよ、でも翔ちゃんから連絡来てびっくりしたんだから」
「ゴメンね、急に決めたから。どうしても桜に会いたくって」
「あら?料理だけじゃなくて?」
「もう!わかってるくせに~!」
「ふふふ、ゴメンね?昨日はカレーにがっついてたって聞いたから、つい・・・ね?」
当然、その情報をリークしたのは私。
どれだけ悠里が桜子の料理に飢えているか説明するには必要な事だったんだよ?
だからそう睨まないでくれると嬉しいかな。ちょっとお疲れ気味なせいか目が据わってるよ、悠里さん?
迫力のある美人が睨むと、結構な威圧効果が生まれるわけで。
思わず視線が明後日を向く。こればっかりは慣れることが無い。そして慣れる気がしない。
こういう時は我が女神に頼るしかっ!
「桜、何か手伝う事ある?」
「ふふふっ、そうね、それじゃあ野菜を切るの手伝ってくれる?」
「お安い御用」
「ほら、悠ちゃんも行こう?お疲れみたいだから、手を洗ってソファで少し休んでて?」
「・・・はぁ、わかったー。お言葉に甘えさせて貰うわー。挨拶回りでちょっと足も限界だし」
「そりゃ大変だったねぇ、後でマッサージするよ?最近は桜にも評判良い感じなんだから」
「もう・・・、ねぇ桜?いつからこの子、こんなにご機嫌取りが上手くなったの・・・?」
「ご機嫌取りとは心外な・・・、ただ癒してあげたいだけだってば」
「「・・・はぁ~」」
・・・あれれ~?おかしいな~?どうして2人して呆れた視線になるのさ?
そりゃもちろん、悠里の冷たい視線から逃れたいって欲はあるけど、癒してあげたいっていうのは本心なのに。っていうか何で桜子まで・・・。そして相変わらず子供扱いだし。
なんとも居た堪れない雰囲気からも逃れる為に、しれっと移動。
手洗いと部屋着への着替えを済ませてキッチンへ。
桜子の指示に従って野菜を切ったり、合間で洗い物したりのお手伝い。
その間、悠里は私が昼間に整えたソファという名の簡易ベッドでお休み中。
疲れていたのは本当みたいで、ソファの背にもたれかかってすぐに寝っころがる体勢にシフトチェンジしてた。桜子もそうだけど、悠里も人前でこんなにだらしない恰好はほとんど見せない。
隙を見せてくれるっていう事自体が、私にとってはなんか嬉しい。
それだけ気を許してくれているって事の証明だし、甘やかしたい私にとっては「あ、今チャンスだ」っていうサインにもなるから。
あとものすごく単純に、『疲れている美女』ってなんていうか・・・、色気がハンパじゃなくて目の保養です。
前にそう言ったら、悠里からは「それは私も桜で知ってる。でも、わざわざ言葉にしなくて良いのよ!」ってちょっと怒られたし、桜子からは「そう面と向かって言われると、流石に照れるのだけど・・・っていうか、私的にはあまり見せたくない部類の顔よ?」って恥ずかしそうに困らせる事態になった。
正直、どっちもただただ可愛かっただけだったよ。
夕飯の準備はさすが桜子なだけあって、手間の掛かる料理もパッパと手際よく整った。
テーブルに手料理が並べられていくと、お疲れの悠里もすぐさま飛んでくる。目をキラキラさせながら。
さすがパブロフの犬と自分で言っただけある。
今日は悠里が居るという事もあって、夕食は和食テイスト。
他人丼にきんぴらごぼう、茄子の煮びたしと出汁巻き卵に豚汁。あとサラダ。
正直、間近で見ていて感動した。
あんなにも手際が良いとまるで魔法のよう。今までも何度か作ってもらったメニューだけど、一から作っている所は初めて見たから。
「あー、もうすっごく美味しそう・・・。桜の卵焼きがあるぅ。もう幸せ。あれ・・・?これ親子丼は鶏肉じゃないの?」
「うん、今日は豚肉が特に安くなってたから。だから親子丼じゃなくて他人丼よ。煮びたしときんぴらごぼうは多めに作っておいたから、明日以降もどうぞ?」
「うぅー・・・、桜ぁ・・・好き」
「ふふふ、私も悠里の事好きよ?」
早く食べようよー、っていう声は上げずに静かに待っている私です。彼女達がお互いに告白しあうこの時間は、悠里が日本へ帰ってくると恒例行事だから。
ちなみに、ここで私が変に出しゃばると碌な事にならないって学んでいるよ。
やたら子供扱いされて、何故か私が2人にかまって欲しくてしょうがないかのような、『寂しがり屋』のレッテルを貼られることが多いかな。
もちろん冗談でだけど。
3人で食事をしながら近況についておしゃべりも交える。
大体いつも、桜子は仕事についてが多くて、悠里は家庭の事か海外とのギャップの話。
私?私はいつも聞き役。
何故なら話す事があまり無いから。
ゲームの話はあまり盛り上がらんし、わざわざゲームに疎い彼女達に説明してまでするほど面白い事は無いし。以前からオンラインゲームとかやってれば、「今日はこんな人とマッチングしてねー」とか言えたかもしれないけれども。
せいぜいが、今ハマってるのはどんなジャンルのこんな世界観なんだよ、って話くらいかな。
そして今回はもう桜子にも悠里にもその話はしたから、私が提供できる話題がもう尽きた。
それでもいつもよりは沢山話したと思うけど。
VR技術の凄さとか・・・、凄さとか・・・凄さとか。
ひたすら凄いとしか言ってなかったかも・・・?
せっかくのオンラインでもプレイヤーと関わってないから、結局面白味のない話だったかもしれないな・・・、ゲームはあんなに面白いのに。私に話術が無いばっかりに布教活動は出来ませんでした。
ちょっと反省。
しばらくおしゃべりと食事を楽しんだ後は、お風呂に入ってリラックスタイム。
悠里が久しぶりに桜子と一緒に入りたいと言うから、一番風呂は2人に譲った。一応お客様って事で。
その間に私は、お風呂から上がってきた彼女達の為にマッサージをする準備。
もう30歳にもなった私達だけど、お風呂場でキャッキャとはしゃぐ声を聞いていると、ちょっと学生時代に戻った気分にもなってくるから面白い。
まぁ、彼女達は今でも制服着てもギリセーフな見た目はしてると思うけど。
・・・いや、さすがにキツイか?
ちょっと色気ありすぎて、夜のお店みたいになっちゃう方が可能性大だな。
・・・とりあえず、この思考がバレたら確実に〇されるからもう止めとこう。
「お先に頂いたわよー、着替えもありがと」「お湯は張り替えておいたからね?」
地味にビクッとなってしまったのはタイミングが良過ぎてですね・・・。
2人の方へ顔を向けると、ちょっと首を傾げていたけど、ここは動揺を悟られまいと先手必勝。
「はいはい、そんじゃ悠里、おいで?」
「ん?お風呂入らないの?」
「マッサージ、してあげるって言ったでしょ。体が温まってるうちにどう?」
「あら、本当に良いの?助かるわー、ちゃんと湯船に浸かったから多少はマシにはなったんだけどねぇ・・・。疲れが取れにくくなってるって実感したわぁ・・・、もう歳なのかしらね?私達も」
「同世代に比べてかなり若々しいとは思うけど・・・?美脚は健在みたいだし?」
「柔軟性は若い子に負けてないとは思うけど、持久力がねぇ・・・。あと美脚に関しては旦那が必死になって維持してるからよ」
「・・・コメントは控えさせてもらっても?」
なんか悠里の足を必死に撫でてる旦那さんのイメージが出てきてしまってね・・・?
「そうだ!悠ちゃんの体スゴイ事になってたのよ!?・・・愛されてるのは良い事だとは思うけど」
「あ~・・・」
「桜ぁ~、お願いだから忘れて。さすがに恥ずかしいってば」
キスマークは首元だけじゃなかったんだね・・・。
そうじゃないかとは思ってたよ。一緒にお風呂入るって言うから、そこまで大した事無いのかとも思ったけど・・・単に悠里が忘れていただけか。
「とりあえず、マッサージ始めるよ?一番キツイのは足なんだよね?」
「ええ、お願い出来る?見た目重視で高めのヒールだったから膝から下が特にね・・・」
「OK、任せてー」
ここ数年は桜子もハイヒールを好んで履くから、フットマッサージはお手の物。元々得意だったけど、どうせならと思って本とか読んだりして。桜子は寝つきが良い方だと思うけど、マッサージした日は特に寝つきが良くなるからね。そりゃ、癒したい・甘やかしたい私は頑張っちゃうわけで。
「そしたら悠ちゃん、髪の毛乾かしがてらヘッドマッサージしても良い?」
私が悠里にマッサージを始めると、自身の髪の毛を乾かし終えた桜子が悠里の頭を撫でながら言った。
今現在、マッサージする為に跪いている私の角度からすると、その表情と仕草からまるで聖母マリアかと思うほどで。
いや、宗教の事はほとんど知らないからアレなんだけど・・・。
一般的にイメージされる『聖母』って意味で。
手は動かしたまま、そんな事を考えていたら悠里がポソッと呟く。
「・・・桜は女神なの?」
あ、そうだった。
桜子は女神でした。悠里。大正解。
そんな悠里に「ばか」って言いながら極々弱いデコピンした様子はただただ可愛くて天使だった。
桜子は『女神で聖母で天使』です。
稀に、肝っ玉母さんになるけど。
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