73 噂のクエスト
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訓練場でひと息入れた後に施設から出ていくと、夜明けの時間にも関わらず混雑しているギルド1階。
軽く見回すと、どうやらプレイヤーよりかは現地の冒険者が多く見られる。
そういえば、前回も朝方はこんな光景だったっけ。
プレイヤーが多く居ると、こう・・・ヌタっとした粘り強い視線や雰囲気が強くなるこの場も、現地の冒険者が多いと朝一番という事もあって少し爽やか。
ちょっと男臭い感も強いけどね。なんせ男性陣はガタイが良いのが多いから。
女性も居るには居るけど、比率的には男5:女1くらい。
プレイヤーが混じると5:4くらいになるかな。
その代わり粘っこい視線が増えるから結局ギルドは暑苦しいか、異様な雰囲気になるかの2択なのだけど。
今回も牧場のクエストは不人気のようで、掲示板に取り残されている様子。
どうせならクエストとして向かった方がお得なので、忘れずに受注しますよ。
ギルドを出て朝一番の空気感を味わいながらトコトコと牧場へと向かう。
ついさっきまで激しい運動をしていたからか、なんかこのほのぼのとした空気が特に癒される感じ。
朝特有の清涼感と人気のない静かな空気は、現実ではそう味わえないものだから。
しばらく歩くと、草木の匂いに混じって動物特有の少し不快感を伴うあの匂いが感じられてきた。
でも、来ると分かってれば多少マシに感じるかな?
牛舎の中よりかはずっと微々たるものだし。
牧場の敷地内に入ってすぐに見える建物は倉庫でもあり、作業場でもあるみたいでハワードさんの姿も見える。
「おはようございます、ハワードさん」
「ん?おう、アンタか。そっか、本当にまた手伝いに来てくれたんだな」
「ええ、もちろんです。クエストも受けて来たので、毛刈りの後処理以外にもお手伝いしますよ」
「そりゃ助かるわ。そんじゃ、また掃除から始めたいんだが頼めるか?」
「はい、わかりました。――あ、またあの布だけお借りしても?」
「おうよ、持っていきな。さすがに初心者にはまだ厳しいだろ」
そもそもの話、あのキッツイ匂いは糞とかが混じってるからなんだよね?
牛単体ならそこまで強い匂いは発して無かったもんね。
あとは・・・餌の匂いもあるのかな?あれも結構キツイ匂いしてたもんな。
しっかりと布をマスク代わりにして、牛舎の中へと向かう。
一度経験した事だから、ピッチフォークなどの扱いも注意しながらせっせと掃除です。
腕の力だけで持ち上げようなんてもう思わないよ。
重い物を持ち上げる時とかは、よく古武術で習った事を応用する事が多いんだけど、このピッチフォークの扱いがまだ慣れなくてちょっと上手くいかない。
おかげで今回も手足がまたプルプルしてきた気がする。
自分の手で持ち上げるのだったら割と余裕で出来るんだけどね・・・。
得物が長いと力の掛かる場所がイマイチよく分からなくなっちゃう。
いくらか試行錯誤したところで、ようやくコツを掴みました。
あれだね、肘は曲げずに肩から手首までは固定させた方が良いみたい。
その代わり手首に結構負担が掛かるっぽいけど、全体的には楽になる。
前回は慣れない作業で、体の使い方とか考える前に作業が終わってしまったもんなぁ。
これが先生レベルなら、考えずとも自然と古武術的に楽な姿勢や力の入れ方が出来るんだろうけど。
残念ながら私は、まだそこまでの腕前には到達していない。
到達できる気もしない。正直ね。
多少コツを掴んだ後は、作業スピードは変わらないものの体力的な部分に余裕が出来たので、牛舎の清掃を終えてもまだまだ元気。
手足がプルプルしているのは前回と変わらないけれど。
清掃を終えた後は、これもまた前回と同じく牛の乳搾り。
そういえば、前回貰ったミルクまだ飲んでないや。ミルクティーとかがおススメってハワードさんが言ってたし、今度試さなくちゃ。
あぁ、でもミルクが美味しいならラテで飲むのもアリだな。
市販されているミルクで作られたラテはあんまり好みじゃないけど、業務用の濃いめのミルクで淹れたラテは好きなんだよね。ミルクそのものが少し甘いヤツ。
・・・その前にエスプレッソの淹れ方知らないや。
いっそカフェオレにするか?いや・・・でも酸味が強いのは困るしなぁ。
普段コーヒー飲まないから、どうやったら酸味の少ないコーヒーを淹れられるのかも分からんぞ。
ましてや、豆の選び方はもちろん、挽き方もちんぷんかんぷんだし・・・。
・・・よし、諦めよう!
とりあえず今はね。
ここでそういった事に詳しそうなのは、やっぱり代官のお屋敷に勤めている執事のヘンリーさんかな?
今度もしも機会があったら少し聞いてみるか。基礎的な事くらいなら教えてくれるかもしれない。
そうこうしている間に牛の乳搾りが終わるみたい。
・・・あれ?前回よりも1頭少ない?
「ハワードさん、今日は9頭しか乳搾りしてないみたいですけど・・・?前回は10頭いましたよね?」
「ん?あー、それか。1頭は乾乳期に入ったからな。次の分娩までしばらくお休みなんだよ」
「かんにゅうき・・・。そっか、乳搾りにもサイクルがあって当たり前ですもんね。・・・ってことは、今その牛は妊娠中って事ですか?」
「そういうこった。つっても、ほとんどの子が妊娠してるか、出産直後かなんだけどな。人間と違って毎年出産するんだよ、この子達は」
「・・・毎年!?そんなにスパン短いんですか!?・・・それは中々に負担が大きそうですね・・・」
「はっは!お前さん男なのに妊娠した子の気持ちが分かってやれるのか。女にモテんだろ?――まぁ、普通の牛なら精神的にも肉体的にもかなりのストレスになるだろうがな?この子達は従魔とはいえ、元はモンスターだ。普通に比べてかなりタフなんだよ。それでもストレスが無いとは言えんから、あれこれ世話する必要はあるけどな」
・・・自慢じゃないが、女性ウケは良い方だとは思います。
そんな事よりも、想像していたよりも、いや、今まで想像した事すら無かったけれど、乳牛ってそんなに短いスパンで妊娠・出産を繰り返していたのか・・・。
これって現実でも一緒なのかな?ゲームだからちょっと脚色されてるとかあったりするんだろうか?
たしか、牛も人間と一緒で妊娠期間は10ヶ月程度のハズだけど。ちょっとうろ覚え・・・。
どちらにせよ、これからは牛乳を飲むたびにちょっと思い出しそう。
感謝して頂きますね。そう思いながら、乳搾りを終えたばかりの牛を撫でる私。
『そうだそうだ、感謝しなさいよ』って言っているかのように、アゴを上げて鼻を鳴らす仕草にちょっと笑った。
っていうか、意外と馬みたいな仕草もするんだね。ちょっと驚き。てっきり鳴き声的なのは『モ~』一択かと・・・。
もっと言えば、羊達と近い場所で生活しているからか、『ンメェ~』って鳴く時もあるっぽいし。
ちょいちょい普通に勘違いするのよな。聞き慣れていないっていうのも大きいんだろうけれども。
ひと仕事終えた所で、一旦休憩とハワードさんから言われたので、休憩がてら鑑定のレベル上げ中。
鑑定系のスキルは回数によって熟練度が上がる仕組みみたいで、一度鑑定したから同一個体ではカウントされないっていう事は無い。
なので、順繰りにチラッと視てはスキルを切って、別個体を視て、また切って別個体を視てっていうのをひたすら延々と。
そこまで個体数が多くはないから、すぐに1周するせいで目がぐるぐるしてきた・・・。
―スキル【生物鑑定】がレベルアップしました―
おかげでレベルアップしたけども。
「おう、そんじゃ、そろそろ羊毛の洗浄作業に入るけど・・・大丈夫か?前にも言ったが、中々根気が必要だし時間も掛かるぞ?」
「時間なら今日は夕方まででしたら大丈夫です。素人の手伝いが邪魔になるようだったら、その時はハッキリ言ってもらえます?・・・ただ、一応スキルでも【根性】っていうの持ってるんで、多少は自信あるんですけど・・・」
「作業そのものは、すげぇ単純だから平気だと思うけどよ・・・。【根性】なんてスキルあるんだな・・・。ま、それなら大丈夫だろ。少なくともスキルになってんなら、ここへ来てから一度は根性見せたって事だろーし。まさか、ポイント使って取ったわけでもあるまい?」
「ええ、薬師ギルドのお手伝いをしている時に・・・。調合時ではなく、ひたすら薬草採取をしている時でしたかね・・・?」
「お前さん・・・、あのクエスト受けたヤツだったんか・・・。くっ、ふはっ、はっはっは!そりゃ根性あるわな!間違いねーや、そんなら大丈夫だよ!」
・・・何その薬師ギルドのクエストへの信頼は。
「確かに大変ではありましたけど・・・もしかして有名なんです?薬師ギルドの『地獄マラソン』って」
「そりゃな。ローポーションは冒険者はもちろん、一般市民だって使うし何よりほら、三馬鹿がよ、あらゆる場所で嘆いて回るから。酒場に行くヤツ、ギルドに依頼出すヤツ、それに職人関係のヤツらなら知ってんじゃねぇか?それに〈まんぷく亭〉の常連とかな?」
「・・・それほとんどの住民なのでは?」
「・・・かもな?」
もう絶対、薬師ギルドでクエスト受けた事黙っておこう。
っていうか、あれやっぱり本当は失敗前提クエストだったんじゃないの・・・?
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