64 紳士は節度が大事
建築現場での仕事を終えてフラフラと散歩をしている現在。
ふと足を止めたのは、以前ウィリアムさんにおススメされた、革製防具を売っているというお店が見えてきた頃。
そういえば、紹介だけされて足を運んでいなかったな、と思った次第。
思い出したついでに少し覗いてみようかな?
あれから段々と、プレイヤーの人達も私が今着ている初期服ではなく、防具を身に着けている人が多くなってきた。
依然として新しくゲームに入ってきた人達も継続的に存在しているから、この服でも目立つって事はまだ無いんだけど。
そろそろ【生物鑑定】がレベル20になりそうで【鑑定眼】が手に入るから、フィールドに出る準備を少しずつでも進めなければ。
少し重めのドアを開けて中へ入ると、エイダン君と同じ年頃の女の子が明るく出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ!『ウォルト革用品店』にようこそ!――わぁ!アナタ異人さんね?――それなら・・・『おにいちゃん、おかえりなさい!』今日は防具を見に来たの?それともポーチとか鞄とかの日用品?」
――思わず激しく咳き込んでしまった私は悪くないと思う。
可愛らしい少女にいきなり『おにいちゃん』と呼ばれ、内心かなり動揺してしまい、いつもの仮面は光の速さで溶けていったよ。
「・・・え、えと、こんにちは?その・・・あ、異人なのは合ってます、って違うそっちじゃなくて・・・えぇと見に来たのは防具で。あと『おにいちゃん』じゃなくて『おねえちゃん』だし、むしろおばさんに近い・・・いや、そうじゃなくて、あの・・・何で『おにいちゃん』?」
ダメだ。
頭が混乱している。
決して聞き間違いでは無かったよね・・・?それともここでは『おにいちゃん』の意味が違うとかあったりする?
「あれ?前に来た異人さんのおにいちゃんから男の人には『おにいちゃん』、女の人には『おねえちゃん』って呼ぶと喜ばれるって言われたんだけど・・・。あとお店に来たら、おかえりって言って欲しいって言われたから・・・わたし、もしかして言い方間違えちゃってた・・・?」
アウトー!
完全にアウトー!!!
誰だ!幼気な少女に変な知識を植え付けたおバカさんは!!
ド変態じゃないか!!!
「その人が言っていた事は全て忘れましょう。えぇと、あなたみたいな少女にそんな言葉遣いを強要しているとしたら、それは通報事案・・・というか、衛兵さんに捕まってしまうかもしれないので・・・。とにかく異人だろうが現地の住人の方であろうが、接客態度や言葉遣いは変えなくて大丈夫ですから」
「そう・・・なの?良かった!わたし、知らないおにいちゃんにいきなり『おかえりなさい』って言うの、ちょっと恥ずかしかったんだ!それならいつも通りにするね!」
「ええ、是非そうして下さい」
まったく。
いくらゲーム内とはいえ、何も知らない少女に自分の理想を押し付けるなんて。
ロリコンは拗らせると厄介な人が多いんだから。
厄介さで言ったら、ショタコンの方が実は目も当てられなかったりするけど・・・。
「カーラ、お客さんかい?」
「あ、お父さん!異人さんのお客さんだよ!」
奥の扉から出て来たのは、スラっとした体躯の壮年の男性。
優しげでとにかく柔らかい印象。少女に向ける眼差しがとても温かくて、眼尻に少しだけ寄る皺が余計に優しさを引き出す。
私の存在に気付くと、ちょっとだけ驚いた様に目が見開かれた。垂れ目のおかげで分かりにくかったから、私の気のせいかもしれないけど。
「おっと、いらっしゃいませ。見た所、異人さんですね?今日は何をお求めですか?」
「あ、こんにちは。一応、見てみたいのは防具ですね。鍛冶師のウィリアムさんから、こちらのお店なら間違いないと言われたので。でも、そちらの娘さん?曰く、こちらでは日用品も取り扱っているようですね?少しそちらも見てみたいです」
さっきポーチとか鞄とか言ってたの聞き逃さなかったよ。
「スミス氏の・・・。それは光栄ですね。彼は一流の職人ですから・・・まさか私の腕を認めてくれていたとは。何だか嬉しくなってしまいます。――っと、それはさておき。取り扱っているのは主に革製品です。革ならほとんど何でも。鎧や小手、ブーツ等の防具品が一番の主力商品ですね。ポーチや鞄は形から大きさまで色々と取り揃えておりますよ」
「それでは、まずは防具から見せてもらっても良いですか?」
「ええ、もちろんどうぞ。そちらのモニターから操作して貰えれば、取扱い商品一覧が出てきますよ。実際に触ってみたかったり、細かい部分を確認したい時はここのプレビューという所を押してください。そうしたら・・・、このように隣りに実物が出てきますので」
急にハイテク。
いや、ゲームとしては全く珍しくないんだけどさ。
実際に着用するならデザインとか拘る人も居るだろうし、この機能はかなり便利なんだろうけど。
個人的には未だ魔法にも触れず、ただただ剣を振ったり肉体労働したりの地味な行動ばっかりしているから、急にファンタジー要素というか、あからさまなゲーム感が来るとどうしても違和感が・・・。
ポーションを使った時はそれどころじゃなかったから、違和感とか感じる前に行動しちゃってた感じ。
単純にグロさが前面に出てたし。
とりあえず、店主さんに勧められるままモニターで防具一覧を見てみる。
最初は革鎧が一番上に表示されていたので、それから。
どうやらデザイン的には5種類くらいだけど、品質ランクによって値段が変わってくるっぽい。
一番下のランクは3で、一番上は8まで。
もちろん、ランクによって防御力も変わるみたい。
そうなると、出来るだけランクの高い物にしようと普通は考えるわけだけど・・・。
イマイチ基準がわからん。
私はまだ一度も戦闘行為をしていないから、レベルは1のまま。
しかも防具も一つも身に着けていない状態の初期服。正直、最低ランクでも防具があるだけでだいぶ違うはず。
うーん。これが普段のゲームなら、最初はたまたま手に入った(場合によっては拾った)防具だけ身に着けて、ひたすら最初の街の周りでレベル上げ。そして周辺の魔物からダメージをほとんど喰らわなくなったら移動して、次の街で一番高い武器防具を揃えるというのが私のパターン。
その頃にはお金も溜まっているからね。
それでアドバンテージを取って、また周辺でレベルを上げての繰り返し。
つまり、レベル上げもせずにお金があって、最初に装備を整えるなんて試みは、ほとんどした事が無いのです。
でもほら、これってVRゲームだし。ここまで感覚がリアルなゲームで仮想ご臨終体験なんてしたくない訳で・・・。そんなトラウマになるほど酷い描写は無いとは思うけど。
とりあえず、一覧を見てても迷うだけだから一旦実物を出してみようか。
見たら『コレだ!』ってなる可能性も無くは無いよね?ファッションとして見れれば即決出来る自信あるよ、私。
順々にプレビューボタンを押していく。
一通り確認して、やっぱり装備としてではなく、服装として近くで見たり触ったりすると多少は候補が絞られてくる。
それもこれも、このゲームのクオリティが高いおかげだ。
実際に触って初めて分かったけど、品質が低いものは肌触りもそれなりだし、薄くてペラペラだった。
逆に品質が高いものはとても滑らかだし、不思議とよく伸びて動き回る時に決して邪魔にならなそう。
これらの品質を踏まえると、最低でもランク5以上の物でないと中々キツイかな・・・。
それ以下のランクは生地が固い部分があって、所々が擦れていずれ痛くなりそう。
幸い金額的にもランク5・6くらいまでなら全然余裕があるし。
さすがにそれ以上のランクに手を出すと、他の装備の分がね・・・。
そうなると、ランク5にするか6にするか。
デザインは全く一緒で、防御力は値段に比例してる感じ。
あとは強いて言うなら、ランク6の方が少し軽いか・・・?
ちなみにランク8はジャージかよ!?ってくらい軽くて伸びたよ。それでも防御力は一番高いんだから、ゲームならではの不思議仕様よな。
うぅーん・・・。
よし!決めた!
ランク6の鎧にしよう。
戦闘スタイル的にも軽い方がきっと良いと思うし。
べ、別に、散々私が悩んでたら、さっきの娘さんがキラキラした目でランク6の方を勧めて来たからじゃないよ・・・?
お父さん・・・店主さんが丁寧に説明してくれたから決めたんだよ?
決して、少女のおねだりに負けたなんて事実は無いよ。私はロリコンじゃないし。
「おにいちゃん、まいどあり!」
くっ・・・!
エイダン君といい、この子といい、少年少女のキラキラ笑顔には逆らえない何かがっ・・・!
「カーラさん・・・でしたよね?ひとつ教えておきます。異人の男性相手には『おにいちゃん』と呼ぶのはやめておいた方が良いでしょう。相手によっては良からぬトラブルを呼ぶかもしれません。基本的に全員『異人さん』と呼べば問題は無いと思います。ある程度親しくなったら名前で呼んでも良いとは思いますけど・・・」
「そう・・・?『おにいちゃん』と『おかえりなさい』は言わない方が良いの?」
「そうですね。出来れば控えた方が良いかと」
ロリコンでも変態でも、紳士ならOKとかあるかもしれないが、見極めは難しいからね。
っていうか、紳士ってあくまでも自称しているだけでしょ?あれ。本当の紳士は自分がロリコンだの変態だのって口に出さないよね?
実際に対面した事は無いから、本当の所はわからんのですが。
「カーラ・・・。その『おにいちゃん』だの『おかえりなさい』だのは初耳なんだが・・・?一体誰に何を言われたんだ・・・?」
おぅ・・・。
まさかのお父さん、知らなかったパターン。
娘さんから以前来たという異人の話を聞いて、段々と不穏なオーラが・・・。
「・・・あー、とりあえず今後は出来るだけ異人が訪れたら、店主さんが接客した方が良いかもしれませんね」
「・・・あぁ、そうですね。――つかぬ事をお聞きしますが、異人さんにもその・・・そういった・・・幼女を好む様な(小声)嗜好の持ち主は多く存在なさっているので?」
「いえ(小声)そうでは無いと思います・・・が、正直分かりません。なので、しばらくは目を離さずに一緒に行動しておくべきかと。さすがに街中で行動に移すような大胆は人は居ないと思いますが、店内で二人っきりにするのは避けた方が良いかと。少なからずこの地へ来て、浮かれて普段よりも心の枷が外れかけている人が居ないとは言えないので」
「・・・なるほど。ご忠告有難うございます。家内にも、事情を説明して手伝ってもらう事を考えておきましょう」
「そうですね、その方が良いかと」
お願いだからロリコン紳士諸君、節度ある態度を忘れずに居てくれよ。
犯罪ギリギリの態度は冒険者ギルド内だけにしてくれ・・・。
あ、ローザさんやヘレナさんは恐らく自分で変態に罰を下せると確信しているので、特に心配はしてません。
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