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63 建築現場のその後

ログインすると、こちらはお昼前の陽の光が燦々と降り注いでいる時間帯。


現実と違って、太陽光がヒリヒリと痛むような強すぎるものではなく、温かくて優しい光。

都会の人間にとって、もはや太陽光は紫外線と認識されて害悪なものに認識されつつあるけれど、こうやって優しく照らされていると何となく浄化される気分がするから不思議だ。


きっと現実でも昔はこういう柔らかい光だったんだろうな。



昔の和歌とか俳句とか、歌謡曲とかでもそう歌われている事は珍しくなかったから、昔の夏はきっと気持ちが良かったんだろうなぁって思ったのを覚えてる。


軽く調べたら、昭和か平成の時代は夏の最高気温は大体30℃行くか行かないか位だったらしい。

今じゃ40℃を当たり前に越すと言うのに。



まぁ環境が厳しくなったからこそ技術が発展したわけで、その技術の恩恵に預かっている私達は文句なんて言えないけれど。

むしろ技術の発展のおかげで、場所を選べば昔よりも気持ちよく過ごせているかもしれないしね。




まぁそんな事はさておき、私がやってきたのは冒険者ギルド。

また建築現場のクエストを受けに来たわけで。実はあの後親方さんと連絡先を交換していました。

従業員の皆さんが落ち着いたら再開するっていう話だったけど、昨日の今日で早速仕事を始めるって連絡が来た。

ちょっと速すぎないか?とも思ったけど親方さん曰く、怪我人達は完治しているしむしろ本人達が一番やる気だから、との事。働き者だこと。見習うべきかな?






サクッと掲示板から依頼書を引っぺがして受付で受注してもらう。

ちなみに今日はあのピンクブロンドの彼女が受付してくれた。


相変わらず可愛くてキュンキュンしちゃう。


「最近、街中クエストを受けて下さる方が増えて大変助かっているんです。ありがとうございます」


なんて笑顔で言われちゃ嬉しくならないわけがないよね。



っていうか、たぶんプレイヤーが街中クエストを受けるようになったのは、君のその笑顔を見たいからじゃないかな?まんまと私もそれに引っかかっているような気もする。


いや、元々一通り受けようとは思っていたんだけどさ。



天使の笑顔に当てられて、心なしかウキウキしながら建築現場もとい解体現場である街の東口に向かう私。

これから肉体労働が待っているのだからと、少し気持ちを切り替えながら。

浮かれた気持ちで行くと、また事故とか怪我とかするかもしれないものね。





現場に到着すると既に作業は始まっていて、相変わらず大声が飛び交っている。

けれど、心なしか以前の怒号というよりもちゃんと指示っぽいというか・・・。

少なくとも怒鳴り声には聞こえない感じ。


「おう!そこは番号順に崩していくんだぞ!ちゃんと崩す前に声掛けろよー!!」


「「「うっす!!」」」



ちらっと見える限りは、どうやら解体する建物の壁や柱に番号が書かれていて、その順番に崩していくように手順を変えたみたい。

そしてその番号の部分を崩す時に「何番解体作業始めまーす!」と声を上げるようになった様子。


前回はその解体手順を間違えてしまったが故の事故だったという事もあって、同じような事故を起こさない為に対策を取ったみたいだ。対応が早いね。

ミスをミスとして流すのではなく、同様のミスを犯さないように事前に防ぐ為の措置を翌日には適応させるっていうのは中々難しい事だと思う。


少なくとも今までのやり方を変えるって言う事で、通常は混乱したりするものだと思うし。

でもここでは特に混乱も無く、皆しっかり適応させているみたい。


こういうのって上の人はもちろんだけど、中間で指揮を執る人物が妥協を許さない人でないと上手くいかないよね。個人的な経験ではだけど。





「親方さん、おはようございます」


「ん?おぉ、アンタか。昨日はほんとにありがとうな。あの後念の為に治療院にアイツら連れてったけど、何の後遺症も無く完治してたよ」


「それは良かった。でも回復薬はレアさんのおかげですから、私はただ運んだだけなので」


「馬鹿言え、あん時冷静に対処してくれたのはお前さんだろうが。あそこで迅速に動いてくれたからこその結果だよ。アイツらはもちろんの事、他のヤツらもお前さんの行動には感謝してる。ありがとうな」


そう言われてしまうと、素直にその感謝は受けるべきかと思い直して小さくうなずく。

ちょっと気恥ずかしくて言葉では返せなかったけど、親方さんも小さく「おぅ」って返してくれたから気持ちは伝わったはず。



「よぉし、そんじゃ仕事の話だ。・・・っつか今日は仕事でいーんだよな?」


「えぇ、こちらが依頼書です」


「おぅ、確かに。そんじゃ基本は昨日と同じだ。解体が終わったトコの片付けを頼む。あの後資材を取りに職人達が来たからだいぶすっきりしてっけど、またすぐ溜まっからよ。よろしく頼むな」


「はい、頑張ります」



お片付け、お片付け。






せっせと自分のウエストよりも大きい石を運ぶ作業を続ける私。

一区画ずつ確実に。


片付け作業の何が楽しいって、作業を終えた後の爽快感だよね。

あれだけ乱雑で混沌としていた場所が、綺麗さっぱり更地になっているのを見ると、そりゃモチベーションが維持されるわけで。


1人での作業だから徐々に徐々にではあるものの、むしろ『自分がやった感』がものすごく感じられて楽しくなっちゃう。

薬師ギルドでも思ったけど、やっぱり自分の行動が可視化されるとやる気が尋常じゃないほど出てくるね。


「おう、そろそろ一旦手ぇ止めて休憩でもしたらどうだ?」


「――親方さん、・・・そうですね。キリも良いのでそうさせて貰います」


「あっちに昼飯あるからよ、お前も食っとけ。飯食わねぇと力入んなくなるからな」



ご厚意に甘えて、従業員の方達と共にサンドウィッチを頬張る。

やはりと言うべきか、具は兎肉です。

でも屋台で売っているものに比べて少しパンがモチモチとしていて、なんとなく腹持ちが良さそうなアレンジ。


ちょっとだけ、おにぎりの方がこういう場面には似合うなぁと思ったのは内緒。

・・・そういえば、まだゲーム内で米の存在は確認出来ていないなぁ。

味付けもどちらかといえば洋風?っぽいものが多いし。


食堂でも屋台でも基本はパン。

リゾットやパエリア的なものも未だに見た事ないや。


生産地的な問題?他の地域に行けばあるのか・・・?

ありそうなのは交易都市と呼ばれるスリードルかな?

・・・まさか倭国に行かなきゃ手に入らないなんて事は無いよね?


ちょっとあり得そうで怖いな。


今のところは個人的にパン食ブームが来てるから、全く問題は無いんだけれどね。

普段は桜子も私もお米派だったから余計に。




そんな事を考えながらモグモグしていると、一緒に食事を取っていた従業員の方々が声をかけて来てくれた。



「おう、アンタ。昨日はありがとうな。あんな事態だったのに迅速に的確に動いてくれたって親方から聞いてるよ。おかげで誰も酷い怪我を引きずる事無く、また仕事に励めるぜ」



「いえ、ある意味私は部外者でしたから。おかげで多少は冷静になれたんだと思います。とは言っても、かなり動揺はしてしまいましたけど・・・」



「はっは!そりゃそうだろうよ?この辺りはモンスターも弱くて冒険者でもあんまり大怪我はしねぇからな、俺等はもちろんの事通りがかった奴らだって、ただ茫然と眺めるだけで行動には誰も移せなかったんだ。それを考えたら、アンタの行動は間違いなくあいつ等の命を救う大きな一手だったよ」


「そーだそーだ。あん時俺等は、目の前の光景に衝撃を受け過ぎて、親方の声も周りの喧騒も聞こえなくて、唯一聞こえていたのはあいつ等が痛みで呻いている声だけだったんだ・・・」


「オレもそうだった。助け出す前までは何とかがむしゃらに動けてたんだけどな・・・。切り傷程度ならしょっちゅうだが、足の先や腕が潰れているとこなんて初めて見たからよ・・・。情けない話、目を逸らしてしまうくらいの衝撃だった・・・」



当時の光景を思い出したのか、周りにいた数人の表情が少し青ざめている様子。

無理も無いよね。私だってかなり動揺したよ、実際に見た事がある怪我なんてせいぜい骨折くらいだったし。

ここがゲームであることと、おそらくは多少そういった表現描写にフィルターが掛かっていたと思うからそれで耐えられただけの気がする。

成人指定だからか、普通の映画とかよりかは過激描写にはなっていたけど。



私はホラーはダメだけど、医療系の映画とかドラマ・ドキュメントなら大丈夫なタイプ。

恐怖を煽る表現でなければ多少グロテスクでも平気な方だから。


・・・それでもちょっとギリギリだったけどね。





「親方からは、事情あってあんま表だって薬師の人にはお礼を言いに行くのはダメだって言われてっからさ、アンタにもすげぇ感謝してーんだけど・・・」


「お気になさらず。その事情は私も把握していますから。それと一番の功労者である薬師ギルドには私からも感謝の気持ちは伝えておきますよ」


「・・・スマン、ありがとう。ちなみにだけどよ、今日一日はお礼を言ってくるヤツが多いだろうが、出来たら煩わしく思わないでやってくれると助かる。皆アンタ達には本当に感謝してっからさ」


「・・・承知しました」



正直言えば、もう親方さんから感謝の気持ちの言葉は頂いているから、もうこれ以上は・・・って思うけれど、きっと皆言葉にしたいんだろうね。その気持ちは分からなくもないかな?


謝罪とか感謝は言葉にして一区切りさせてあげた方がスッキリするもの。

変に遠慮しちゃうと、かえって引きずらせちゃうかもだし。






って思ってたけど・・・やっぱり受け止めるのはそれなりに大変で・・・。


事あるごとに従業員の皆さんが、何かと理由をこじつけて私の方へ向かって来ては昨日のお礼を言っていく。

そろそろ「いえ、どういたしまして」のゲシュタルト崩壊。

たぶん途中「どういたまして」って噛んだ気がする・・・。



一応表情にも微笑みの仮面は被っていたと思うけれど、ちょっと引きつっていたんじゃないかと自信がない。

そしてイチイチ作業を中断することになってしまったから、少し仕事の進みも遅くなってしまった・・・。


親方さんも苦笑いで「スマンな、今日だけ我慢してやってくれ」ってフォローしてくれたから、今日に関しては作業スピードは諦めました。


私としても別に文句を言われている訳じゃないから、特に気分を害されるようなことでは無かったし。

来る人来る人みんな笑顔だったのも大きいかな。


最後の4人は泣き笑いだったけど。



昨日、実際に怪我をした4人は最後にまとまって来たんだよね。

一応完治しているとはいえ、かなりの大怪我だったから4人は解体作業には入らず、荷物運びとか資材運搬とかの雑用仕事をしていて私の所へ来るのが遅くなったって謝罪から入って、それはそれで私がびっくりしたけども。


途中から感極まったのか泣き始めてしまって、こちらも動揺してしまったけれど、親方さんがなんとか(なだ)めてくれて。




っていうか、ゴツイ男性の泣く姿は中々に迫力があってね・・・。

たぶん事故当時よりも私は動揺していたと思うよ。



普通なら感動的な場面なのかもしれないのに。






なぜ涙だけでなく、鼻水とよだれまで描写したんだ・・・運営さん・・・。


そんなリアリティは求めてなかったよ。






お読み頂き有難うございます。

誤字脱字報告受け付けております。是非ご指摘ください。


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