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62 ゾーン

6時に間に合わなかった・・・

ランダムに自分へと向かってくる分銅をギリギリのタイミングで避けるようにしながら、剣でそっと軌道をずらすように当てていく。

ギリギリを狙うからこそ、むしろ自分から振り子の分銅に向かっていくスタイルになったけど、これは意外に当たりだった。


相手の懐に飛び込みつつ、そっと攻撃を躱す動作の丁度良い練習になる。



ようやくこの振り子装置の使い方が分かってきた。

最初に気付けなかった時間が少しもったいないような気もするけど、結果オーライ。




徐々に徐々に、動きが洗練されていく。・・・気がする。


あくまでも主観的な話なので、実際のところは分からないけれど、感覚的にはとてもしっくりきていてモチベーションも上がってきた。


上昇スパイラルは快感がスゴイ。



そう、だから空腹度が危険水域になるまで、ひたすらに続けていたのは何もおかしい事じゃない。

うん、おかしくないね。




・・・ちょっとだけ夢中になり過ぎたかな?



少し冷静になって、焼き串を齧りつつログを確認したところで少し反省・・・。

【長剣術】はもちろん、【回避】【剣速】【思考加速】【鍛錬】までもがレベルアップしてました。


途中で少しMPが回復していたから、【ブレイク】を交えつつ訓練していたせいで想定していたよりもずっと早く空腹度の減りも凄かったし。

・・・もう少し自分に冷静さが欲しい。



時刻的にはまだ余裕があるし、もう少し訓練を続けるつもりだけど再開する前に2時間ごとにアラームを設定してみる。

アラームが鳴った時点で、振り子のパターンを切り替えて気分転換を図る目的。


気分転換という名の難易度上昇になると思う。

キャラクターレベルは一切上がっていないから、いずれ頭打ちになるんだろうけど。


今の所は何とか目で追えているし反応出来ているけれど、ここからさらにスピードを上げていくとなると、動体視力的に限界を迎えるのはそんなに先じゃなさそう。


視力系か反射系か、補完してくれるスキルが無いとその先は難しいんだろうな。



とりあえずは自前の動体視力と反射神経で、こなせる難易度を最大限上げていくだけだ。







ピピピピピピピピピ



―スキル【受け流し】を取得しました―



またしても冷静さなんて早々に放り出して、一度目のアラームすら聞き流していた私。

さすがにアナウンスは無視出来なかった。


一旦手を止めて、振り子のパターン設定を変更。

変更と言っても一段階スピードを上げただけ。徐々に一つずつね。



そして新たに取得したスキル【受け流し】、これは儲けもん。

いや、全く予想していなかったと言ったら嘘になるけれど、いざ本当に取得できるとかなり嬉しくなっちゃうね。

私の戦闘スタイル(予定)を考えると、剣でがっちりガードよりかは回避しつつ相手の攻撃を流すようにして、懐に入り込んで攻撃を仕掛けるといった流れが理想的。

なので、一応ここまで受け流すように意識してきたわけだけど。


本当にそのまま【受け流し】が取得出来るとはね。




でもこれで、ノーランさんのシークレットクエスト(仮)への1歩が近づいたかな?

この前の指導で攻撃を避けられたのは、正直自分でもまぐれだと思ってるし。

スキルの補助があれば少しは確率を上げられそう。

念の為に、行くときはヘレナさんが居る時間帯を狙うつもりだけど。まだちょっと死ぬ体験は遠慮したい。



とりあえず、道筋が見えて来たからにはその道を広げなければ。


という訳で、特訓再開。





―スキル【受け流し】がレベルアップしました―

―スキル【体術】がレベルアップしました―




ピピピピピピピピピ



2回目のアラームが鳴った所で一旦手を止める。

今度はちゃんと反応出来た。奇跡だ。


それでもテンションはかなり高揚していて、少し気持ちを落ち着かせるのに時間がかかりそう。

ゲームでは痛みをほとんど感じないとはいえ、目の前に迫ってくる分銅相手に余裕なんてほとんど無いから凄く神経を使ってる感じ。


地味に後半は集中力が途切れがちになってしまったのか、ちょいちょい失敗もしてしまったし。

安全設計はされているみたいで、HPはちょっとしか削られていないけど。



あぁ、でもさすがに・・・ちょっと疲れたかな。


画面越しでもこういったタイミングが重要なアクションを続けていると中々に目にくるけど、VRだとそれの比じゃないね。集中度が桁違い。



体力的にも精神的にも回復を図る為に、一度しっかり休憩を入れようか。

ゆっくりする為にも、インベントリからホットの紅茶を取り出す。


現実ならこれだけ運動した後に温かい飲み物は避けるけれど、ここでは汗をかいたりしないので特に問題はない。体が火照っているわけでもないし。


気分的に冷たい方が気持ち良いのは確かだろうけど。

代わりに紅茶の香りで癒される所存。





しばらくゆっくりと、猫舌を配慮しつつ温かい紅茶で気分を緩めていく。

そろそろ夜明けの時間という事もあって、空がうっすら色づいて中々幻想的な空気。


場所は訓練場ではあるものの、武具や的、人形なんかで囲まれていると何となく非日常感が際立って感じられてどこか夢の中にいるような感覚。




あ・・・何か降りてきそう。


頭の中で自然とメロディが浮かんでくる。



時間にすればたった数秒分にしかならないけれど、やけに印象的なメロディ。

かなり久々にこの感覚を味わって、ちょっと落ち着いていた気分がまた高揚してきた。


浮かんできたメロディを忘れないようにと口ずさむ私。

そうしている内に続きも浮かんできてしまって、もっと言うとドラムとベース音までハマってくる。

完全にゾーンに入った感覚。


ここで変に冷静になると一気に浮かんだものが消えてしまう気がして、そのまま突っ走っていく事を許した私の脳内。


気付けば、大サビっぽい所まで出来上がりそう。




あらかた曲のイメージが固まって、イントロとサビ・大サビ部分はほとんど脳内で作り上げられた所でゾーンが終了したっぽい。

一部どこかに行っていた意識が戻ってくる感覚。



あ~、この感覚は久しぶりだったなぁ。

今回は比較的長めに入っていたからか、まだ少し意識がほわほわしちゃってるや。


これまでに何度かこのゾーン状態になった事はあるけれど。

短い時はほんの数秒で終わるし、長い時は今回みたいに数分にもなる。


突然降って湧いてくるようなこの感覚は自分では全くコントロール出来ない事が多くて、時も場所も選んではくれないから場合によっては周りに迷惑を掛けることもあったり・・・。



今回は運が良かったかな。

ゲーム内だし、1人っきりだったし。


とはいえ、このまま放置してしまうとせっかく浮かんだアイディアが記憶から消去されてしまうから、一旦ログアウトして記録に残さなければ。



わりかし急ぎ足で宿屋に向かいログアウト。






一時もまどろむ事なく仕事部屋のPC前に座る私。


忘れぬうちに全て打ち込んでしまおうと急ピッチで動く私の手は、不慣れなピアノを弾く時よりもずっと素早い。

時折、別のアイディアが浮かんで進行を邪魔するけど、それは別で軽くメモに残してひとまず大まかなメロディだけ打ち込んでいく。


結局出来上がったのはイントロ部分とサビの部分。

ここからある程度時間をかけて展開のさせ方を考えていく事になる。

場合によっては別々の曲になる可能性もあるけど。



懇意にして頂いている取引先の音楽事務所は、結構トリッキーな曲を好むから色んなパターンを作っておく必要があるのよな。

1曲の中に歌謡曲っぽい部分とクラシックっぽい部分とジャズっぽい部分を混ぜ合わせる事もあったりする。


一体あれをどうパフォーマンスしているのか不思議でならないけど。

そこらへんはディレクターさんや振付師さんのお仕事なので私は関わらないから、たまに招待されたライブでいつも驚く部分でもある。


それはそれで楽しいんだけどね。




大まかに打ち込みは終えた所でちょっと一服。


細かいアレンジのアイディアもまだいくつかあるけど、それはメモに残してあるのでまた後日やろう。

ゲーム内でも集中する作業が続いたせいか、少し頭が疲れているっぽい。



もうお昼過ぎになっている事だし、食事がてら休憩だ。



桜子が作ってくれたカレーがあるので、余っている食パンを軽く焼いて一緒に。

うん、やっぱり桜子のカレーは美味しい。


どちらかと言えばご飯に良く合うタイプだけど、パンと合わせても十分に美味しいから不思議。

1人の食事でも、誰かが作ってくれたものだと分かっていると何となく温かい気持ちになる。

それが桜子お手製となれば余計にね。


私の胃袋は、桜子の料理に対してパブロフの犬かって程しっかり躾けられているので・・・。



満腹になって食休みを終え、ある程度家事も目途が付いたところでもう一度PCに向かう私。

ゲームを再開しようかとも思ったけど、少しだけ情報収集してみようかと。


情報収集とは言っても、私が調べるのは小太刀剣術とナイフ戦術について。

あまりにも知識が無さ過ぎて、どう扱えば良いか全然分からなかったから。



軽く検索したところで分かったのは、イマイチ分からなかったという事。

調べたけど、主に見つかったのは剣術の型とか歴史解説とか、喧嘩術の中でのナイフの躱し方とか。


剣術の型は流派によって色々変わってくるから、実戦としてはあまり参考にならなさそうだったし、ナイフに関しては勉強にはなったけど、やっぱりナイフ『で』防御する解説は見当たらなかった。



もっと詳しく調べれば他にも色々あったのかもしれないけれど、それならゲームの中で勉強していく方がずっと楽しい。

少なくともスキルによる補助もあるしね。




さて、休憩も取ったしそろそろゲーム再開といこうか。









―――――――――――――――――

増:スキル

【受け流し Lv2】



お読み頂き有難うございます。

誤字脱字報告受け付けております。是非ご指摘ください。


感想、評価、レビューお待ちしております。


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