39 薬師ギルドの3馬鹿
次回更新は、金曜日か土曜日になると思います・・・。
男性に泣きつかれてブンブンされていたけど、なんとか引き剥がす私。
「あの、ちょっと落ち着いて下さい?・・・何か気に障ることでもしましたか?私」
いまだに目に涙を浮かべて、ひとりでにプルプルと震えている男性。
そういえば・・・前回は私が泣きそうになったんだっけか・・・。まさか立場逆転するとは思わなんだ。
「うぅ・・・、何で俺らより仕事出来るんだよぉ・・・俺らは、そんなに落ちこぼれなのかよぉ・・・」
どうやら、仕事に対してコンプレックスがある様子。
思いっきり私が刺激してしまった、ということなのかな?
「おバカ。他人を見て嘆くなんて、情けない事してんじゃないの!比べるなら自分と比べなさい!ましてやそれで他人に突っかかるなんて、何考えてんのよ!」
先程の男性の声が大きかったからか、様子を見に来たレアさんに、私に向かって嘆いている所をしっかり見られていたっぽい。
「だって・・・だって姐さん~、この人もうこんなに処理終えてるんですよ!?まだ数時間しか経っていないっていうのに・・・。それに比べて俺ら・・・まともに作れたの、3箱にも届かなかったじゃないですかぁ~!」
あ、やっぱり『姐さん』って、レアさんの事だったんだ。
個人的には、その呼び方あんまり似合っていないなぁ、なんてどうでも良い事を考える。
姉御肌なのは見て取れるんだけど、外見がね。
華奢で小柄の女性にはどうしても違和感。
訓練場のエルフ女性、ヘレナさんの方がまだ・・・。
いや、あれは女王様だから違うな・・・。
気付けば、レアさんが男性を大部屋まで引っ張っていく状況に。
私も一応付いていくスタイル。
「ったく!アンタ等いっつもいっつも、メソメソグチグチと。いい加減、気持ち切り替えなさい!」
仁王立ちスタイルで、眉を吊り上げて3人組に向かって叱るレアさん。
あぁ、これはちょっと『姐さん』っぽいかも。
「・・・うぅ、でも姐さん、俺らいっつも迷惑かけてばっかりで・・・今回の『地獄マラソン』だって、せっかく調合作業回してくれたのに・・・はぁ~・・・」
「俺ら・・・3人合わせても、姐さんの10分の一にも届かない量しか作れなかったもんな・・・」
「やっぱり落ちこぼれなんだよ・・・俺達は・・・。いくら頑張っても、全然仕事捌ききれねぇし・・・」
あぁ、何か落ち込むスイッチ入っちゃって、全然浮上出来ない感じだね。
こういう時って、変に励ましても逆効果なのよな。
レアさんもちょっと困ってる感じ。上司としては何とか奮起させたいんだろうけど、言葉だけじゃ難しいもんね。
「ごめんね、情けないとこ見せて。こいつら結構沈みやすいタイプでさ、もっとアタシに威厳とかあったら上手く操縦出来るんだろうけど、如何せんアタシ自身がそんなに落ち込まないタイプってのもあって、気持ちも解ってやれないから上手く誘導出来なくて・・・」
小声で私に謝罪してくるレアさん。
まぁ、人の気持ちやテンションを操作するのは難しいよね。
自分自身でさえ、上手くコントロール出来ない人は多いから。たぶんこの3人はそういうタイプ。
頭では、ちゃんと解ってるんだと思う。
こんな事で落ち込んでる場合じゃない、やれば出来る、上を向かなきゃって。
それでも、思えば思うほど上手くいかなくなって、内心で焦って体が付いてこなくなって・・・。
結果、最初よりもずっとひどい状態になっていたりして。
その事にまた落ち込んで。
負のスパイラルになるのよな。こういうのって。
そう簡単に克服は出来ないんだよね、スポーツやっている人とかなら、しょっちゅうなるんじゃないかな?こういう状態。
だからこそ、メンタルトレーニングとかを本気で取り組むんだろうけど。
とりあえず、この空気感のままだと今後の作業に支障が出そうだよね。
ちょっとチャレンジしてみるか。
「少し、考え方を変えてみましょうか。今まで私が見る限り、あなた方は仕事に対して真摯に取り組む、真面目な人達だと思いました。丁寧な仕事というのは意識していても、中々難しいものです。人は出来るだけ楽をしたくなる生き物ですからね。そこを薬師の仕事に誇りを持って、丁寧で確実なあなた方のスタイル、私はとても好感が持てました」
実際、彼らの仕事はとても丁寧だ。
最初に来た時の物置にあった薬草は、互い違いになるように綺麗に木箱に詰め込まれていたし、木箱そのものも、整理整頓されていて狭いスペースながら有効活用されていた。
普段彼らが作業しているこの部屋だって、とても綺麗にされているし、器具や容器もどこに何があるのか一目瞭然、となるように工夫されている。
正直、私が詳細な説明もされずに作業に入れたのは、元々彼らが良い手本となっていたから。
手本となる完成形が目の前にあって、整理整頓されている環境であれば、そりゃ一人でも迷わずに取り組めるってもんで。
そんな事を懇々と彼らに向けて語った私。
「・・・見本。・・・俺らの仕事が・・・見本?」
「俺らを見て、仕事、覚えてくれたって事か・・・?」
「そ、そんな事、今まで言われたこと・・・無かった・・・」
少し、上向いてきたかな・・・?
気持ち目に力が戻ってきた印象。少しでも、言葉が届いてくれれば幸いです。
「そうね、あんた達の仕事は丁寧で綺麗よね。もう少しスキルが育って上級に手を出すようになれば、それが顕著に出てくると思うわ。それこそ生産効率なんて、スキルでいくらでもカバー出来るようになるけど、丁寧さっていうのはそれぞれの性格が大きく左右するものよ」
レアさんもしっかり乗ってきてくれてる。
きっと、今までも本当にそう思っていたんだろう。
「今後も、色々と落ち込んでしまう瞬間はあると思います。けれど、その時にはあなた方の仕事っぷりに憧れている人間が居る事を思い出して頂ければ幸いです。・・・まぁ、こんなポっと出の人間に言われても微妙かもしれませんが」
多少過剰に褒めている気もするけど、今の状態ならこれくらいで構わないでしょう。丁寧な仕事をする人を尊敬している事は嘘ではないし。
「・・・俺、俺頑張る~。これからも、腐らずに頑張るよ」
「俺も・・・。姐さんに、胸張って・・・自慢してもらえるような後輩でいたいから」
「うぅ~!こうしちゃいらんねぇ!お前ら!仕事に戻んぞ、早くその泣きっ面洗ってこいよ!」
「「・・・いや、お前が一番ヒドイよ?」」
「――嘘っ!お前らより!?」
「あっはっはっは!はぁ~、すっかり元気になったんなら・・・良かった。でも、仕事に戻る前に一回休憩しましょ?出てった水分は補給しないとね?」
「「「――っ!・・・はい、姐さん///」」」
微笑ましいなぁ。
「ほら、カケルも。紅茶とコーヒーどっちにする?」
「紅茶でお願いします」
これでひと段落かな?
上手い事、前向きになってくれて良かった。大した事をしたわけじゃないけど。
それぞれ少し気恥ずかしい状態ながらも、一息入れてほっこり。
「そうだ、俺らまだ自己紹介してなかったよな?俺はパナッシュ。改めて、これからもよろしくな!」
「そうだった、俺はケイガー。よろしく」
「俺はイアンだ。よろしくな」
言われてみれば、彼らの名前をまだ知らなかったや。いつも『3人組』としか認識していなかったもんね。
パナッシュさんは、昨日私がガラス瓶を割ってしまった時の醜態を目撃した人。挨拶とか案内とか率先してくれる、この中では一番行動力がありそうな印象の男性。
ケイガ―さんは、さっき一番泣き顔がヒドイって言われていた男性。3人の中では、ひょうきん者担当なのかな?短髪で明るい茶髪の、笑顔が人懐っこい印象。
イアンさんは、黒髪とフチなし眼鏡が特徴の、少し知的な印象の男性。普段の会話とか聞いていると、割とツッコミ担当だけど、たまに何も無いところでコケるドジっ子属性も兼ね備えている。
「改めまして、異人のカケルです。宜しくお願いします」
「ちなみにこの『3馬鹿』の他に、もう一人私の補佐役のアメリアって子がいるわ。ただ、今はお腹に子供がいて、調子が良い時だけ来てもらってる感じだったんだけど『地獄マラソン』中は念の為に休職してもらってるの」
「・・・姐さん『3馬鹿』は、やめてくださいよぉ」
「そうっすよぉ、俺ら名前は全然覚えてもらえないのに、『3馬鹿』だけはしっかり覚えられるんですから」
「・・・うっかり反応しちゃう俺らも悪いけどな・・・」
「しょうがないじゃない、3人揃って『仕事馬鹿』なんだから」
「「「いや、重要なとこ省かれてんですって・・・」」」
微笑ましいなぁ(2回目)
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