23 新たな美女
ゲームから抜けたらこちらも夕方でした。
ストレッチしてからメールチェック。
仕事関連でいくつか来てるな。でも急ぎではなさそうだね。
一旦夕食の準備しちゃおうかな。さすがにお昼ご飯食べてないから、ちょっとお腹空いてるっぽい。
気分はさっき食べたばっかりだけど。
うーん、簡単にパスタで良いか。
自分で作るとなると食欲もそこまで刺激されないみたいだ。
なんて現金な体なんだ、私は・・・。
こういう時パスタソースって便利だよね。茹でてあえるだけ。普通は具材足してもうちょっとマシにするんだろうけど。
私はせいぜいネギとか切るくらい。
一人暮らしなんてこんなもんじゃない?実際。
ちょっと切なくなりながらパスタを無言で食べる。
やっぱり、誰かと食べるってのも重要なんだろうなぁ。
無音の中で食べると味が薄くなる気がするような・・・。これも精神作用か?困った。
なんとか食事を胃袋に収めてPCの前に陣取り。
えーと・・・。急ぎじゃないけど一曲だけアレンジの依頼か。あー・・・。
これ、完全にいつもの人がキャパオーバーしたやつだろうな。
保険で私にも依頼ってことだろうね。しょうがない、お助けしましょう。
っていうか、あの事務所タレントさんの数と音楽制作陣の比率、良い加減おかしいよなぁ。
まぁ、おかげで私みたいなフリーでやっている人間が仕事にありつけるのだけれど。
ふむ・・・。
これ、さっきの少し使えそうだな。ゴリッゴリのクラブ系ダンスナンバーだし。
おそらくはあのグループ向けに作られた楽曲だろう。
うーん、そうなると・・・。
いや、むしろここはラップシーンに合わせて・・・。
ダンス用に少し拍強めで・・・。
・・・うん、良い感じじゃない?
もっかい。
うん、やっぱり良い感じ。これで出してみよう。一応こっちバージョンも付けて・・・。
はい!お仕事終わり!!
はぁ~。・・・あれ?1時間も経っていない?
うわ、最速記録に迫る勢いなんですけど。自分でもびっくり。
やっつけのつもりは全く無いけれど、異常な速さで終わったなぁ。
私の平均は大体4時間くらいだったと思うんだけど。
でも、まぁとりあえずは確認待ちだもんな。ちょっと休もう。
えーと?たしかゲームの中で翌日の昼に予定入れたから・・・。
最長でも6時間はあるね。
あ、これ完全に朝方までゲームやってるパターンになるなぁ。・・・ま、いっか。
軽く掃除だけ済ませて、今のうちに買い出し行こうかな。よし。
買ってきたのは厚切りの食パンとチーズにハム。
それから紅茶の茶葉。
ええ、明日から練習するつもりです。クロックムッシュ、じゃなかったクロックマダム。
あれ目玉焼きが入っているとクロックマダムっていうの知らなかったなぁ。あんまりメジャーじゃないよね?たぶん。
作り方を検索。・・・そんなに複雑そうじゃなくて助かった。
基本私は料理が下手ってわけではないと思う。やらないから出来ないだけで、レシピ通りに作るっていうのは出来る。
世の中の本物の人達は、そこで変なアレンジ加えて未知のものを作り上げるらしいけれど。それはしないよ私。
味オンチでは無いからね、味見はちゃんと出来るタイプです。ただただ圧倒的に知識と経験値が無いだけ。
本当だよ?
リビングのソファに座りながら端末をいじるダラダラタイム。
とはいっても、結局作曲している私です。
♪~♪~♪~
あ・・・。
懐かしい。私が初めて仕事で作曲した楽曲だ。
やっぱり嬉しいな。今でも使ってもらえるのは。もう10年近く前になるか。
これもアーティストが長く活動してくれているおかげだけど。ありがたい。
最初はそんなに売れていないアイドルグループだったのに・・・。
今じゃ立派な一流アーティストだ。
おかげでこうして今もCM曲に使われている。
一度もお会いしたこともないし、それ以来関わってはいないけれど、思い入れがあるぶん今も応援はしている。CDとか買っているわけじゃないんだけど・・・。
でも、路線変更したにも関わらず今もその歌を歌ってくれるのはとても嬉しい。
黒歴史扱いされると思っていたからね。
元アイドルがアイドル曲を封印するってよくある話だからね・・・。
感謝です。ほんと。
私が作曲家、編曲家として食べていけるようになったのは完全にあの楽曲のおかげだ。
さて、作曲のストックもある程度形になったことだし、そろそろゲームに戻ろうかな。
今は夜9時過ぎだから・・・ゲームだとちょうど夜が明けるころかな?
ログインして外へ出てみると、やはり夜明け直後でうっすらと街並みが明るくなり始めていた。
夜明けの雰囲気もなかなか好き。
一度空気がリセットされた感があるような気がするから。雨上がりもそうだよね。
比較的静かな街並みを眺めつつ、冒険者ギルドへ。
さっき報酬貰わずにログアウトしちゃったんだよね。すっかり忘れていた・・・。
おかしいなぁ、行くときはちゃんとお仕事のつもりだったんだけど。
いざ清掃クエスト終えたら、仕事した感が無さ過ぎてそのままにしちゃってた。
冒険者ギルドの中は、外よりもずっと騒がしいような熱気に溢れているような異様な雰囲気。
なんだ?
人が多いのはいつもだけれど・・・?
なんか職員の人達はピリピリしているし、プレイヤー達は浮かれているような?
原因はどうやら新しく配属されていた受付嬢のようだ。
長い黒髪をサイドから流して、垂れ目がちな眼の下にある泣きぼくろ。
ぽってりとした唇を考え込むときに軽く噛む癖がたいへん色っぽい。
そして何と言っても、カウンターの板の上に乗せられているボリューミーなバスト。
あぁ、今までの受付嬢はどちらかというと可愛い系が多かったもんね。
もちろん綺麗系もいたけど、この受付嬢に比べればずっと爽やかタイプだったから。
こんなセクシー度100%なお姉さんがいたら、ちょっと浮かれてしまう気持ちはちょっとわかる。
けど・・・
プレイヤーさん方?ドM発言しちゃうのは違うと思うの・・・。
さっきからちょいちょい、「イジメてほしい・・・」「足で踏まれたい・・・」とか「あの流し目で冷たく睨まれたい・・・」とか声に出ちゃってるんだよね。
あと「縛られたい」とか「蝋とムチで・・・」とかは本当にアウトだから・・・。
他人の性癖に口出すつもりは無いけれど、ちょっと雰囲気が異様過ぎて引いてる。
これこの視線の中行くの嫌だなぁ・・・。
でも報酬貰わんと・・・。
っていうか何で皆他の受付嬢のとこばっかり並んでいるの?
横目でチラチラ見るくらいなら、目的のお姉さんの所へ行けば良いのに。
うぅー、覚悟決めるか。こんな所で時間使いたくないしな。さっさと終わらせて資料室へ逃げよう。
なんとか決意して一歩踏み出したところで、階段からノートが下りてきた。
思わず足がノートの方へ向く私。
「ノート。こんばんは、こんな時間に・・・今日は夜勤なんですか?」
「あぁ、カケル。こんばんは。今日はちょっとね・・・。君は?また資料読みに来たの?」
「ええ、昼間に受けたクエストの報告したら行くつもりでした」
「そう・・・依頼書は?持ってる?」
「ええ、こちらに」
ノートに依頼書を渡すと、そのまま件のお姉さんのとこへ進んでいく。
ちょっとノート?
「ほら、カケルこっちおいでよ。ローザ、これの処理お願い」
「はい、只今」
何故ノートが代わりに行くんですか・・・?
っていうか私今そこへ行きたくない・・・。なんか周りの視線が・・・。
それでもノートには逆らえない何かが。君、実は暴君タイプなの?最近ちょっとSっ気あるよね。特に私以外のプレイヤーに。時々見かけるんだよ、君が冷たい視線でいるとこ。
諦めてノートの隣りまで歩いていく。
「ん?キミ、お屋敷の清掃クエスト受けたの?あそこ大変だったでしょ、かなり大きいから」
「・・・いえ?確かに広かったですけど、ヘンリーさんの仕事がとても速かったですし、私も掃除するのは好きなので。むしろ夢中になってしまって、いつの間にか終わってしまっていたんですよね・・・」
「すごいね・・・。あそこは定期的に清掃依頼が来るんだけど、いつもと違って今回はかなり念入りに掃除する手はずだったから、時間も労力もかかったはずなんだけど・・・」
そうなの?
でも私が担当したのは三分の一くらいだったから、やっぱり執事さんの仕事っぷりが異常だったんじゃ?
それにまだ庭のほうは手を付けていないから、完了はしていないしね。
お茶の入れ方を教えてもらう代わりに、庭の方は私が手伝う約束なんですよ?
執事さんはクエストでも良いって言ってくれたけど、私も教えてもらうんだから、おあいこにしてもらった。
「あぁ、そうだ、ノート。あのお屋敷は誰か住む予定なんですか?修繕作業もしていたので、近く人が入るのかと思ったんですが?・・・情報的に言えない事なら構わないんですが、貴族の方なのか気になって。この街で貴族の方をお見かけした事が無いので、一応出会う前に礼儀作法的な資料とかもあれば見たいのですが・・・?」
「あぁ、そうだね。じゃあ話は上でしようか。ここで長話もなんだし、資料交えながら説明するよ。ローザ、処理は終わった?」
「ええ、終わりましたわ。では、カケル様、ギルドカードをお預かりしても宜しいですか?」
「はい、お願いします」
・・・ちょっと!
さりげなく渡す時に指を撫でるような仕草やめて下さい!!
ちょっとゾクっとした・・・。
一体どこまで色気爆発させんのさ・・・。
「・・・ローザ」
「ふふ、すみません。失礼しました」
見かねてかノートが受付嬢に注意するが、当人はどこ吹く風。
この人心臓に悪いよ・・・。自然に出た仕草じゃなくて確信犯だよ・・・。
「はい、ではこちらが報酬で御座います。ギルドカードお返し致しますわね」
お金を受け取って、カードを受け取る。
ちょっと警戒しながら受け取ることになったけど、さすがに今回は普通に渡された。
あぁ、もう絶対警戒してたのバレてる。ちょっと笑われているような気がする。
くそう。この人絶対ドSだ・・・。
私、負けないから!!!
その誘惑するような妖艶な微笑みヤメテ!!!!
・・・負けるかも。
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