22 執事と掃除
凛とした雰囲気に眼鏡の奥の鋭い眼光、キッチリと着こなした服と後ろへ流した白髪交じりの髪型の典型的なザ・執事の50代くらいの男性。
姿勢が良く細身ではあるものの、なんとなく強者な雰囲気を醸し出している。
「こんにちは。突然すみません、私はカケルと申します。本日は冒険者ギルドから清掃のクエストを受けて参りました。宜しくお願い致します」
なんか緊張しちゃって言葉遣いが・・・。
「これはこれは、ご丁寧なご挨拶痛み入ります。ようこそいらっしゃいました。私はこちらの屋敷の管理を任されております、家令のヘンリーと申します。さぁ、どうぞ中へお入りください」
「失礼します」
執事さんの案内で屋敷の中へ入る。
中は思っていたよりも乱雑な状態で、所々埃が溜まっているのがわかる。
長期間人が住んでいなかったような感じだ。
空気もどこか淀んでいるような・・・。一応窓はガンガンに開けられているけれど。
「申し訳ありません、当屋敷はつい最近まで無人だったもので清掃が行き届いていないのです。だからこそギルドに人手を依頼したのですけれど。なにぶん先に派遣されたのが私一人だったもので・・・。カケル様にはそのお手伝いをお願いしたいのです」
どうやら私の視線から感情を読み取られたっぽい。さすが執事。
「いえ、不躾な視線でしたかね?失礼しました。それと私の事はカケルと呼び捨てにしてもらって構いません。若輩者ですし、本日はいわば雇用主に当たるわけですから。・・・あまり畏まられるとちょっと。私も礼儀に関しては不作法ではありますが・・・」
執事相手に礼儀正しくとか無理です。
「・・・ではカケルさんと。異人の方にお会いするのは私も初めてですので、ご不快に思われましたらおっしゃって下さい。ただ一般的に上流階級の方々は異人の方々に対して畏敬の念を抱くかと・・・。特にこの国は初代国王が異人の方であらせられたので・・・」
あぁ、そんな設定あったな。
うわ、じゃあ貴族の人達はこっちに相応の態度を示してくるってこと?
いやだー。
上流階級の人の礼儀ってたまに意味わからんのあるんだよね。
本当に住む世界が違いすぎて困った事あるもの。
思わず苦い顔をしてしまう。
それを見た執事さんは苦笑いだけども。
「とりあえずは私は畏まられるのは勘弁です。庶民の感覚でしか過ごしたことしかありません。出来ればそのつもりで対応していただけると助かります。むしろ、どんどん指示してくれた方がやりやすいです」
こういう時は先に願望を提示した方がやりやすくなるものです。
「・・・かしこまりました。そうお望みであれば。では、早速ですが家具の運び出しを手伝って頂けますか?」
「ええ、もちろん。どんどんこき使ってください」
少し苦笑いする執事さんについていく。
そこからはテキパキと執事さんの指示に従いつつ、屋敷の清掃に熱中。
幸い家具は少なくて、掃き掃除と拭き掃除がメインの時間が多かった。
ちなみに生活魔法は本当に便利でした。
ただ、あくまで生活というだけあって積もった埃とかは一発で取り除けたけど、こびりついた汚れとか油汚れとか水垢とかは自力で行わないと綺麗にならなかった。
まぁ、そうじゃなきゃ人手を依頼するようなことになるわけないか。
かなり屋敷は広かったので、魔法で楽出来たとはいえ中々時間がかかる。
途中で執事さんが「休憩しましょう」と言ってお茶をごちそうしてくれたのは本当に感謝。
このお茶が本当においしくて。
やる気もでるってものです。
おそらく手順とかを正しく入れたものだったんだろうな。全くえぐみとか無くて、香りが爽やかで。
ちょっと手ほどきをお願いしたいくらい。
後でお願いしてみようかな?
休憩の後も、引き続き掃き掃除と拭き掃除。
こう集中すると、とことんタイプの私からすればとても相性の良い仕事だ。
元々掃除は好きだし。
ただ執事さんの仕事が早いのなんの。
確実に私の倍はこなしていませんか?なんなのその技術。教えて?
私が割り当てられた部分の掃除を終えて報告に行くと、執事さんは家具の修繕作業に入っていた。
速すぎません?
私の倍以上の広さをやっていたよね?執事だから?執事だからそんなに仕事速いの?
「おや?もう終わったのですか?仕事がお早いのですね。では、一旦休憩に致しましょうか」
あなたに言われたくありません。
執事さんがまた紅茶を入れてくれる。
本当においしい。
なんでこんなに香り高くて口当たりが柔らかいのか。
執事か。執事だからなのか。
「本当に美味しいです。何かお茶を入れる時に秘訣があるのですか?」
我慢できずに質問。だって真似出来るなら真似したい。
これを知ってしまったらもういつもの紅茶に戻れないよ。
「そうおっしゃって頂けると嬉しいものですね。お口に合ってようございました。秘訣は下準備は手を抜かない事でしょうか?」
「もう自分で入れたものでは満足出来なくなりそうですよ。出来れば時間がある時にでも入れ方を指導してくれませんか?ご迷惑でなければですけど」
「ふふ、ええ。構いませんとも。時間なら余裕がございますから」
「良かった、約束ですよ?」
「ええ、約束です」
やった。
なんとかマスターしないとね。
その後は階段の手すりや家具の手入れを手伝った。
この屋敷は庶民の家と違って木造造りで出来ている。
少しだけ石の部分あるけど。
なかなか良い木材を使っているようで、腐ったり割れたりしている部分は無い。
けれど、木材ってメンテナンスは必須。
というわけでただいま絶賛、屋敷中の木造部分をオイルを塗りこむ作業中です。
これがなかなか重労働。全身運動なんです、意外と。
けど、オイルを塗るか塗らないかで出来上がりが全く違う。
ピッカピカになるのを見ると気持ち良くて止まらないんです。
ちなみにこういう時、頭の中で音楽を流すタイプの人間です。
今の選曲はアップテンポなダンスナンバー。
自然と体も一緒に動かすように。
たまにノリ過ぎて同じところ繰り返し拭いていたりするけど・・・。
足でリズムをとりつつ、片手は布を持ちもう片手で腰を叩くようにして。
頭を揺らしながら、もう脳内ではもう一人の自分がDJになったかのように。
たまにクラップ入れちゃったりして。
あれ?
気付けばもう拭く場所が残っていない?
夢中になっていたらどうやら担当箇所が全て終わってしまった・・・。
完全に無意識だったな。
一応、自分がちゃんとやっていたのか確認して、もう一度執事さんのもとへ。
「終わりました、他には何をやりましょうか?」
「本当にお仕事がお早いですね、ですがもう陽も落ちてきていますから。今日はこの辺で終わりにしたいと思います」
え?
あ、本当だ。もう夕方か。
なんかゲーム中こんなんばっかりだな・・・。
「では、ギルドからの書類をお預かりしても?」
「あ、はい。こちらです」
サインしてもらってそれをまた返してもらう。
「ではそちらをギルドに提出していただければ報酬が支払われますから。それとお茶の件ですが、今後一週間ほどでしたら私はいつでもおりますので、お好きな時にいらっしゃって下さい。しっかり手順を説明させて頂きますよ、今日かなり清掃も進みましたので時間はたっぷり御座います」
お、そうだった。
「では、明日の昼ごろ伺うと思います。宜しくお願いします」
「ええ、お待ちしております」
執事さん、ヘンリーさんに頭を下げて屋敷を後にする。
一旦食事取って、ログアウトして休憩しようかな。
忘れないうちに色々食事買いだめもしとこう。
途中で飲み物は摂取したけど、また空腹度がやばい。
〈まんぷく亭〉で食事。
今日のメニューは兎肉のローストでした。
なんでも最近は兎肉が安く仕入れられるので、しばらく夜のメニューは兎肉関連になるかもとのこと。
結構このゲームリアリティこだわっているっぽい?
なんか流通関係も作用してそうな雰囲気あるよなぁ。色々と需要と供給のバランスがしっかり設定されているような気がする。
物にしても人にしても。
でもギルドは対応していたから大丈夫かな?
異人が来ることはお告げあったっていってたもんね。
事前に対応策くらいはあったんだろうな。きっと。たぶん。
なんか・・・不安になってきた。
休憩したらそこらへん確認してみるか。
まだ夜にはなっていないけど、一旦宿屋に入ってログアウト。
あ、クロックムッシュ?も調べなきゃ。
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