15 ギルド訓練場
ログインしたら、こちらの時間は深夜だった。
それでも街には人がなかなかに多い。
プレイヤーはもちろんだけど、現地住人の姿もうかがえる。
あの屋台とか昼間は違う人だったけど、シフト交代しているのかな?24時間営業だなんて、恐れ入ります。そしてお世話になります。空腹度ちょっと下がってるんですもん・・・。保険で購入。
あんまり食べ歩きはしたくないのです。行儀がー、というわけでなく単純にこぼすし、人や物にぶつかるし。決してドジっ子ではないんですけどねぇ・・・。こればっかりはダメなんだよなぁ。
冒険者ギルドも当然、開いていたので何かクエストは無いかなぁと物色。
街中のマップも埋めたい所だったけど、深夜に歩き回るのもね・・・。
ふと、視線に入ってきたのはギルドの端のほうに、ひっそり立っている案内板。
そういえばこの施設の詳細、いまいちまだ把握しきれていなかったな。
確認してみると、建物の奥側には広場的なスペースがあって、そこは訓練場になっているみたいだ。
以前、資料で規約違反した者はシゴかれるって記載されていたけど、もしかしてここでなのかな?
普通に立ち入ることも可能なんだろうか?
近くにいた男性ギルド職員に聞いてみると、立ち入りも使用も自由にどうぞ、との事。特に使用料とかも発生しないらしい。
むしろ推奨された。中には指導員の方もいて、そこで教えてもらえるスキルもあるんだとか。
なにそれ、知らない。
いや、聞いていなかったんだから知らないのは当たり前なんだけれどね。
そうとなれば行きましょう訓練場。
この世界ではどんな技術があるのか楽しみなんです。
いわゆる魔法的なエフェクトたっぷりの派手な技とかなのか、それともアクロバティックでトリッキーな動きとかなのか。
むしろどっちもあったら良いな。
薄暗い通路を抜けて訓練場の入り口の扉を開ける。
しかし、そんな有用な施設があるならもう少し分かりやすく表示しておけば良いのでは?とも思うが・・・。
まぁ、余計なお世話か。
訓練場はかなり広く、一般的な野球場三つ分くらいのスペースは有るんじゃないだろうか?
でもそんなスペース、ギルドの裏側には無かったよなぁ?
もしかして、魔法的な何かで拡張されているんだろうか。魔法袋みたいに。
便利だ。やっぱり魔法も覚えたいなぁ。
今現在、訓練場には指導員と思しき人達以外に人影は無い。
特にイベントフィールドに入った感じでもないから、単純に人がいないんだろう。
施設には様々な武器や防具、藁で出来た人形みたいなものとか、でっかい丸太が縦に地面に突き刺さっていたりだとか、弓矢の的っぽいものだとかが多く用意されている。
さて、まずは指導員の人にご教授願おうかな。
戦闘行為はチュートリアル以降していないから、しっかり教えてもらわないと。
あ、でも先にストレッチしとこ。
身体をほぐしつつ、重心の位置をしっかり確認する私。
身長は変えていないけれど、男性型のアバターにしたからか少しズレがある気がする。修正出来るかな
?
後は実際に動いて把握していくしかないだろう、とストレッチを終えて指導員のほうへ進む。
「失礼します、指導員の方でしょうか?私はカケルと申します。こちらでご指導頂けると伺ったのですが?」
声を掛けると、剣の素振りをしていた屈強な男性が苦笑いしながら、こちらへ向き直る。
「そのしゃべり方ヤメてくれよ、お貴族様相手みたいで体中痒くなっちまう。俺は指導員のノーラン、専門は【大剣術】と【長剣術】だ。まあ他の武器もそれなりに教えられるけどよ?」
ええ、剣の素振りをしていたから予想はしてました。
スキルとしては【長剣術】しか持っていないんだよね、私。
そして話し方は鋭意努力中です。初対面だから余計に変な力入ってしまったけど・・・。
「しっかし、異人が来てから三日目だけどよ、声掛けてきたのはお前が初めてだ。何人かはここまで来ることはあっても、皆そこらへんでスキルの確認したらすぐ帰っちまう。俺らが何の為に居るのか分かってんのかねぇ?」
あらまあ。
「そうなんですか?訓練場なのに・・・?練習場とは記載は無かったですよね・・・?皆そんなに戦闘技術に自信があるのですかねぇ?」
普通のゲーマーならもう慣れっこだから、確認したらもういいやってことなのかな?
私は個人的にしっかり準備を整えていきたいタイプです。真似出来ません。
実践で訓練とかはちょっとお断り申し上げます。今は。
「ありゃ、そうじゃねぇな。身体の使い方がなってねぇし、剣軸もブレッブレッだったからな。まぁスキルである程度補正が効くのもあるし、お前ら異人は死なねぇ上にレベルが上がりやすいって聞くしよ。ある程度まではゴリ押しでも、そこそこイケんだろ」
ほほう。異人ってそういう設定もあったのか。
そういえば異人関係の資料はまだ手を付けてなかったや。後で読もう。
「私は石橋を叩いて渡るタイプですから、実戦訓練は避けたい所ですね。しっかりご指導お願いします」
「おうよ!任しとけ!異人一番乗りってことでサービスしてやるよ!!んじゃまずはウォーミングアップからな。走りに行くぞ!」
そう言ってニカっと笑うと、急に駆け出して行ったノーランさん。
ちょっと!置いていくのは無しでしょ!?
慌てて追いかける私。
最初の100メートルくらいはダッシュするハメになったけど、その後はちゃんとジョギングペースになったので一安心。
「んで?お前の得物は?何使うんだ?」
走りながら聞いてくるノーランさん。
得物・・・。あぁ、使う武器は?ってことか。
「スキルでは【長剣術】しか取っていません。あとは【足さばき】とか【回避】とかですね。あとスキルではもっていませんが、杖術の心得はあります。実戦で使えるかは分かりませんが」
最初のスキル選んだ時には杖術って無かったんだよね。
[剣士]じゃなくて[槍士]ならあったのかも。もしくは[魔術士]か。
やっぱ、色々選択ミスったかなぁ。
「なるほどな。最初にあれこれ取っちまうよりかは良いと思うぜ?それに心得があんならスキルが発現すんのもスグだろ。繰り返し訓練して出たスキルはポイント消費しねぇからな、お得だぜ」
なんと。
スキルってそうやって取れるものなんだ?それは知らなかった・・・。
それなら後で一通り型だけでもやってみようか。
でもそうなると、やっぱ魔法だけはスキルポイント勝負になる感じか。
それともこれも訓練でどうにかなるとか?うーん、知りたい事とやりたい事が多すぎるよ。
そうこうしているうちに、訓練場の周りを一周走り終えた。
「おっし、身体は温まったな?そしたら最初は、お前の眼と身体がどんだけ動くか確認してみるか」
そういって木剣を二本手に取って、私に一本渡してくる。
こういいう形の剣は初めて手に取ったなぁ。
刀と違い、幅が広くおそらく真剣なら両刃のものだろう。
ファンタジーとかでは良く見るけど、間近では見たことが無かった。
「そんじゃ俺が少しゆっくりめに振り下ろしたり、切り払う動きするからよ。お前はそれを払うなり避けるなりしてくれ。ただ、木剣だからといって掴んだりはナシな。刃がついてると思って対応しろ、いいか?」
「はい。わかりました、宜しくお願いします」
「おう」
お互いに剣を構える。
剣越しに見るノーランさんはさっきまでと違い、歴戦の戦士そのもの。
なかなかに圧も感じる。
宣言通り、眼に見えるスピードで真っ直ぐ上から振り下ろされてくる剣を、剣先に流れるように受け流す。
この剣の形だと受け流すのは向いてないかな。
両刃ってのは厄介だ。
今度は横に振り払う形で来たのを、相手の懐に入り込むように躱す。そのまま体を回転させて少し距離を取りつつ向き直る。
・・・なんかノーランさん口元笑ってる?
その後もだんだんとスピードが上げられていく。
繰り返していると何となく剣の使い方が分かってきた。スキルのアシストはバカにならないな。
!!・・・っと、今の突きは危なかった。
速いうえに隙の少ない突きは避けるので精一杯。なかなか捉えるのが難しい速度になってきた。
時間の感覚も分からなくなるほど深く集中する段階になった頃。終わりは急に訪れた。
「っあ!」
しまった!反応が遅れる!
頭で分かった時にはもう遅く、ノーランさんの木剣は私の額の前でビタッと止まっている。
失敗した・・・。
自分のスキルアシストだけでなく、ノーランさんからも学ぼうと思って動きを観察しつつ、対応していたらあの突きに反応出来なかった。
くぅ~、欲張り過ぎたかー。
「はっはっ!十分だよ。そんな悔しがるなって。そんだけ動けて視れてりゃ合格だって。そんなに欲張るもんじゃねぇよ」
やっぱり?楽しくなっちゃって欲が出てきてしまったんですよねー。反省反省。
どうにか技術を盗もうと観察していたのはノーランさんにバレバレで、「あとでちゃんと教えてやっから!」と慰められた。
「でも、お前なんかちょいちょいオモシロイ動きしてたな?確か前に片刃の・・・刀剣って言うんだっけか、それの使い手が似たような動きしてたけどよ」
お?まさかの刀の存在がここで判明か!?
「その使い手の方ってこの街にいらっしゃいますか!?是非お会いしてみたいんですけど。できれば技術指南も!」
ちょっと興奮してノーランさんに詰め寄る私。
「ちょっ!んな興奮すんなって!あー、わりぃ。俺が会ったのは随分前のことだし、帝国の闘技大会だったからなぁ。なんか世界を回って武者修行の最中だとか言ってたから、情勢が安定しきってるこの国には来ないんじゃねぇかなぁ?」
ノーランさんいわく、闘技大会の後に意気投合して酒飲みの席で色々話を聞いたんだそう。
修行の一環として傭兵まがいな仕事も請け負ったりしていて、しばらくは戦争中の国に赴いて勉強するって言っていたんだとか。
ノーランさんが、その武術の使い方を教えてくれないかと言うと、「自分は師範代ではあるものの、まだ奥義を習得しきっていないからその資格は無い」と断られてしまったんだそう。
「もし興味があるなら自国に来てくれって言ってたな。技術指南そのものは好意的に受け入れられるからって。場所は極東にある倭国って島国らしいぜ?」
おお!やっぱり世界地図にあったあの島は日本文化の国だったんだ!
これは絶対いつか行かねば。
「ただ、行く方法がなぁ・・・。国交がほとんど無いらしくってよ、小規模な商人レベルでたまにスリードルには来てるって話らしいんだけどなぁ」
この国には、ここワンドル以外に『生産の街ツドル』、『交易都市スリードル』とそして『王都フォドル』がある。なんとも分かりやすいネーミング。助かるけどね。
その『交易都市スリードル』には倭国の商人がたまに現れるらしいのだけれど、不定期な上に短期滞在ですぐに商売を終えたら帰ってしまうそうで、コンタクトを取ることが難しいらしい。
国交が無く、転移装置も使えない為、倭国に入るには自力で海路を進むしか方法が無いんだとか。
かといってその海路も一筋縄ではなく、潮の流れが読みづらい地域を抜け、海竜の縄張りを突破しなければいけないとの事でほとんどの商人は諦めるらしい。
それでも行きたいぞ、倭国。
何かしら方法はあると思うんだけど。
その倭国の商人がヒントなのかな?あっちからは来ているんだもんね?
とはいえ実際に行けるとしたら最低でもスリードルに行けるようになってからだね。
私いまだにこの街すら出てないよ、チュートリアル以外では。
まぁ、焦ってもしょうがないか。
あれだ、楽しめる世界が広がっただけだ。
お読み頂き有難う御座います。
誤字脱字報告受け付けております。是非ご指摘ください。
感想、評価、レビューお待ちしております。
ご協力よろしくお願いいたします。




