13 友人は美女
小学生の頃にやっていたゲーム、ストーリー全然覚えてないよ・・・。
眼を開けて寝ていた身体を起こす。
VRギアを外して、軽くストレッチしながら余韻に浸る私。
いやしかし凄かった。
五感は完全に再現されていて違和感はほとんど無かったし、人物もとてもリアルだった。
こんなんだったら、今まで避けずに手を出しておくべきだったなぁ。
あ、でもそしたら廃人まっしぐらな人生だったな、やっぱり今で良かったんだ。そうだ。
身体をほぐしながら時計を確認すると、時刻は21時。
18時にログインしたから3時間経過していたという事か。
ゲームと現実では時間の流れ方が違う。
拡張なんちゃら技術とかいうので詳しい事は知らないけれど、VRならありがちの設定なんだとか。
ゲームによって幅は様々だけど、このゲームはおよそ3倍の速さで時間が流れるのだそう。
だからこちらで3時間が、あちらでは9時間という事になる。
なかなか長い事居たなぁ。
もういっそ、あっちで仕事しようかな。
そしたら納期も余裕が出来るんじゃ・・・。
いや、実際そういう技術はもうあって徐々に普及しつつあるんだけど、仮想空間でのデータのやりとりがセキュリティ的に色々問題があるそうで法律整備待ちだ、とか何とか。
現時点では大量の誓約書、承諾書などの複雑な手続きと審査を越えた大手企業だけが使っているみたい。
一般に普及するにはもう少し時間がかかる。
ただ私に関してはアイディア勝負の仕事だから、データが無くともやっていける。
これはアリだな。なぜもっと早く気付かなかったのか。
あ、廃人まっしぐらだからか。
ストレッチを終えて寝室を出ると、ゲーム内で嗅いだような?美味しそうな香りが漂ってきた。
あれ?なんでだ、もしかしてゲームで感じた事を脳内で再現してしまっているんだろうか?感覚を引きずる事なんてあるの?
それってマズくない?
一抹の不安を覚えながらもリビングへ行くと、友人がキッチンに立っていた。
あぁ、本当に料理の匂いだったんだ。良かった。
「来てたんだ。いらっしゃい」
友人の背中に声を掛ける。
「あぁ、起きたの?お邪魔してるわよ、もう少しでご飯出来るから待ってて」
「わかった、ありがと」
友人の二葉 桜子はいつも私の世話を焼いてくれる、面倒見の良い姉御肌の女性。
流れるような艶のある長い黒髪と下唇がぽってりとした妖艶な美女。
最近流行りのスレンダー体型ではなく、出るとこがしっかり出ているグラマラスな魅惑的な身体の持ち主。
小さい頃から成長の早かった彼女を近くで見ていたおかげで、私の中の美女と言えばグラマラスな人じゃないと違和感を感じるようになってしまった。
桜子色に染められた私の価値観・・・。
いや、なんか危ない思考だな、これ。ストップ!
普段、施しているメイクが勝気で強気なバッチリメイクなせいで勘違いされやすいけれど、内面は世話好きで優しく、くっつきたがりの可愛いタイプ。ギャップがたまらん人はドストライクでしょう。
本来の垂れ目がちな色っぽい眼をメイクでキッと上げ、名前の通り桜色の唇は真っ赤な口紅で隠されているので、世の男性達は気後れしているのか桜子は今独り身だ。
本人は今までモテ過ぎたせいで「男性はしばらくもういいわ」と言っていたから、わざとなんだろうけれど。
社会人なりたての時に、何か色々巻き込まれたっぽい。
すぐに見切り付けて、退社して個人で事業立ち上げたあたり、桜子は仕事もこなせるハイスペック人間だ。
おかげで私の面倒も難なくこなせちゃうもんだから、私も甘えっぱなし。
ほんと、損な性格してるよ。奥さん。
「誰があんたの奥さんよ」
うわっ!
気付けば真後ろに桜子が立っていて驚く私。
いや、奥さんというのはあれですよ、ちょっと聞いてくださいよ近所の奥さんっていう比喩でですね・・・。っていうか声に出てた?
「ほら、ボケっとしてないで?ご飯出来たから、運ぶの手伝って」
「はい」
桜子には逆らいません。
ダイニングテーブルまで桜子の手料理を運んで、向かい合って「いただきます」。
うん、美味しい。
さっきゲームの中で食べたばかりだったけど、ログアウトしたら満腹感は消え去っていて空腹感だけが残っていたから、箸が良く進む。
元々ですけどね!
私の胃袋は桜子にがっしり掴まれています。
他の人やお店の料理はなんかあんまり味を感じないんですよ。不思議と。
ファミレスで食べても、高級店で食べても、『うん、まぁ美味しんじゃない?』くらいだったから。
本当に今まで食事をどうでも良いと思っていたからなんだろうなぁ。
今も元々美味しかった桜子の手料理が、より美味しく感じるもの。
精神的なものはこんなところにまで作用するんだね。勉強になったよ。
「なんか、いつもよりがっついてるわね?そんなにお腹空いてたの?」
「うん?お腹空いてたのもあるけど、美味しいからだよ」
素直に告げる私。
なんか向かいでパタパタと手で仰いでいたけど、私の集中は食事から離れない。
「ごちそうさまでした。美味しかった。本当に」
「お粗末さまでした。凄い勢いだったわね」
だって美味しかったんだもん。しょうがないじゃない?
片付けするのは私の担当。
掃除、整理整頓だけは唯一私が桜子よりも得意としていること。
「それで?ゲームしてたんでしょ?どうだったの?」
二人でソファに座りながらまったりしていると桜子から話題を振られた。
「うん、楽しかったよ!VRゲームって凄いんだねぇ、五感はしっかり再現されていたし、キャラクターも感情溢れる感じでさ!本当に別世界に入り込んだって感じだったよ」
「へぇ、今のゲームってそんなに技術高いのねぇ?世界観的には?CMは何回も見たけど実際はどうなの?」
「中世ヨーロッパ的な?建物は石造りで、舗装は石畳で鍛冶屋とか教会とかがあって?」
歴史に詳しくないから少し疑問形になってしまう。
「なるほどねぇ、じゃああんまり東洋系の文化は無さそうなの?アンタ好きでしょ?」
「うーん?どうなんだろ?世界地図には東に島国があったから、もしかしたらそこにはあるかも?自由度高いって言うし、国産のゲームだからあるんじゃないかなぁ?」
個人的にはあって欲しい。
「アンタが前やってたゲームは和風ファンタジーものだったものね。あれもなかなか長い事続けていたわね」
うん。前までやっていたのはいわゆる『死にゲー』ってやつだった。
難易度高すぎて、初見の場所ではまず死ぬやつ。
でもあれが止まらないんだ。同じ場所をひたすら死なないように頭の中で攻略まとめながらでさ。
結構精神的に鍛えられるよ?
「いずれ刀とかがあったら使ってみたいなぁ。VRだからちゃんと扱えるか分かんないけど」
「でもアンタ、たしか古武術習ってなかった?小さい頃、近所のおじいさんに。剣術とかも古武術の中にあるわよね?」
「うーん、習ってたけど先生は杖術をメインにしていたし、私はほとんど体の使い方を習っていただけなんだよね、後半は杖術も教えてもらえたけど。あんまり木刀は持たせてもらえなかった、現代向きじゃないって」
近所にいたおじいさんは、道場とかを持っていた訳じゃなくて武術研究家という肩書で、教えてもらうのも最初は断られた。
教える技術なんて知らん!って、つっけんどんに返されたんだけど、広めの庭で杖を回している様が子供の私が憧れるくらいに格好良くて。
何日も粘って、覗きながらおじいさんの真似してバタバタしていたら、ようやく折れてくれて。
いい加減、迷惑だと思われたのかな?まぁ、粘り勝ちってやつです。
それでも最初は全然杖を持たしてくれなくて、ひたすら体の使い方を叩きこまれた。
でも、先生の見本の動きが恰好良いんだ、またこれが。
忍者の動きだ!って興奮したのを覚えてる。
だから飽きもせずにずっと繰り返していた。
絶対あんな風に動けるようになるんだって。実際は忍者じゃなくて、どちらかというと侍の動きなんだけど。
本格的に杖術を教えてくれるようになったのは、それから三年くらい経ってから。
ただ触るくらいなら許してくれていたけど、振り回すのは許してくれなかった。
やっと型の一つを教えてもらえたと思ったけど、これもまた難しくて難しくて。
杖を意識し過ぎて体の使い方が疎かになったりして、バランス取れるようになっても、今度は型の動きに気を取られたりして。
一つマスターしては、また一つ教えてもらうって感じで徐々に徐々に。
結局先生が息子さん夫婦の住むアメリカに引っ越す事になった、中学二年の時までずっと通っていた。
最後に涙ながらに受け取った杖は今もこの家にある。
仕事で行き詰った時とか、触っているとアイディアが閃いたりするんだ。あと落ち着く。単純に。
「そうなの。じゃあおじいさんは、あくまでアンタに現代でも使える護身術をメインに教えてたんだ?」
「うん、そのつもりだったんじゃない?最初は子供相手に何教えれば?って感じだったんじゃないかな?幸い私がそこまで剣術には興味持たなかったから、じゃあ杖で護身術にも使える動きを、ってことだったんだと思うよ?」
「へぇ、結構良い先生だったのね?」
「うん、身内に厳しく、でもそれ以上に優しく。あんまり表情は動かない人だったから、近所の人達にはよく誤解されてたけど」
そういえば、そういうところウィリアムさんそっくりだったな。
だから余計に親近感覚えたのか。
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