12 〈まんぷく亭〉
兄弟二人揃うと、なかなか壮観。
なんせ二人ともガタイが良い。さすが鍛冶職と言うべきか。
私のアバターも肉付きはそれなりに良くしたけど、ここまでじゃない。
筋肉大きすぎたら動きにくくなるかと思ったんだけど、やっぱり今の所これで正解。重心のバランスにはまだちょっと感覚が慣れていないけど。
でもこの兄弟のように思いっきり西洋の顔立ちだと、モリモリ筋肉も格好良く見える。
骨格なのかなぁ、やっぱり。
ブランドンさんは明るい茶髪に、もみあげから繋がった無精ひげと男前な眉毛が特徴的。男というより漢という印象が似合う。うん、まさに漢前。
対して、ウィリアムさんは丸坊主でスッキリとしている。でも芋臭さは感じないどこかオシャレな感じ。ひげも無いし、眉毛もブランドンさんほど濃くは無い。
・・・でも読めたぞ。たぶん鍛冶仕事で汗かいた時に拭いやすいように坊主にしているんじゃないか?
そしてこれは二人に共通していることだけれど、いわゆる濃い顔立ち。
こういうのって何ていうんだっけ?ソース顔?だっけ。確かそんな言い回しがあったような?
対になってるのが、しょうゆ顔で元々そのふたつの言い回しだったのが、どんどん派生して塩顔とかみそ顔とか言われたらしいけど、結局定着しなかったとか何とか。
中学の時の教師が授業の合間にそんな話をしていた気がする。うろ覚えだけど。
何せもう、15年以上も前・・・。まぁ、うん、忘れよう。
「・・・それで?兄貴はどうしたんだ?・・・もしかして恋人のことか?」
「こいびっ!・・・あぁ・・・お前にも紹介しないとなぁ。おし、後で都合が良い日教えてくれ。けど、今日来たのは違う要件だ」
お?遂にブランドンさんが覚悟決めた様子。
私もちょっと恋人さんが気になる。
「・・・?何だ?」
「あのな・・・〈まんぷく亭〉の女将いんだろ。その、なんだ、一緒に怒られに行こう」
「???」
あぁ、ブランドンさん気付いたんですね。
その判断は賢明だと思います。対してウィリアムさんは全く理解していないけど。
「あ、あの、師匠。たぶんあのゴミ山の件だと思います、カケルさんがクエスト報告したってことはあの存在もバレてるハズです」
「・・・!」
エイダン君、正解。
ウィリアムさんが思わずこちらを見たけれど、それに苦笑いで返す私。
ええ、バレてますよ、しっかりお説教だって言ってました。
「なんだか、申し訳ないです」
「いや、もとはと言えば溜めすぎてた俺らが悪い。カケルはただ仕事しただけだ。・・・が、やっぱり女将は怖え。でも、このまま黙っている方がもっと怖え。だからな、ウィリアム。明日、一緒に謝りに行こう、絶対怒られるけどよ」
「・・・わかった」
がっくりと肩を落として落ち込んでいるウィリアムさん。
気持ちは分かりますけどね。女将さんの説教凄そうだもん。
でも、先延ばしにすればする程ひどくなると思います。
頑張って。
「そろそろ私はお暇しますね。もう良い時間でもありますし」
落ち込んだ雰囲気の二人と、なんとか慰めようとしているエイダン君に声をかける。
バレてしまった原因の私が居るのはちょっと気まずいし。
そしてさすがに空腹度がまずい。
これから〈まんぷく亭〉で食事を取るつもりだから、一応女将さんにフォローしておく旨を伝えて工房を後にする。
見送ってくれたエイダン君に癒されつつ、すっかり夕方の街並みになった様子を眺めながら目的地へ。
〈まんぷく亭〉は昼に比べ、少し人が増えてきていた。
これから夜が更ければもっと増えるのだろう。
「いらっしゃい!」
「こんにちは」
噂の女将さんです。
「おや、さっきの。どうしたんだい?もしかして今回はお客さんとして来てくれたのかい?」
「はい。初めに来た時から気になっていたんです。席はありますか?」
「あはは、そりゃ嬉しいねぇ。席なら空いてるよ、まだまだピークは先だから」
そう言って席まで案内してくれた女将さんから、メニューを手渡される。
メニューには色々種類があるが、ここは即決で日替わり定食にしましょう。
ええ、あんまりこういう時迷わないタイプの人間です、私は。
「日替わりね!あいよ、飲み物はどうする?水かワインかビールだけど?」
「では水でお願いします」
「あいよ!日替わりワン!」
「あいよー!」
女将さんが厨房にオーダーを通すと、威勢の良い声が返ってきた。
最近こういったお店が少なくなっていたから、何だか新鮮だ。
高級店ならまだしも、一般のレストランとかは店員さんが居ない所のほうが今は多い。
お年寄り世代はそれを嘆いていたけれど、私が小さい頃は近所に店員さんが居る飲食店は1軒しかなかったから、あんまり違和感を感じた事が無かった。
でも、今ならちょっとわかる。
厨房に近いカウンター席に座っているせいか、中から聞こえてくる食器のカチャカチャという音や食材を切る包丁とまな板の合わさる音、熱したフライパンで焼ける食材やコンロと擦り合って鳴る金属音が良く聞こえる。
時折くる調味料の香りや熱気がまた新鮮で。
あぁ、こういう事を言っていたのか、とお年寄りの方の意見を理解した。
今まで、あまり食事に興味を持てなかった私には軽い衝撃だ。
例え空腹を感じてもちょっと集中したら空腹感を忘れる私だったから。
食事に掛ける時間があるなら、仕事か趣味に使うタイプだった。
最悪、塩おにぎり一個食べればそれで良しとしていた、最低限の栄養はサプリで良いとさえ。
それなのに。
ここへ座って、料理が作られていく様を眼で、鼻で、肌で感じながら体感すると湧き上がってくる食欲。
もちろんゲームで強制的に感じられる空腹感もあるのだろうけど、食欲がここまで強くなることは大人になってからは無かったんだ。
食事を楽しみに待つだなんて子供の頃以来でちょっと恥ずかしい気もするけれど、周りの現地住人達も同じようにしているから気にしないで良いとしよう。
そうして女将さんが運んできてくれたのは、厚切りステーキに大盛りマッシュポテト、ミネストローネっぽい具沢山スープにミニサラダ。それと焼き立てパン。
焼き立てのパンってこんなに良い香りがするんだ!どこか甘い香りだ。
「ふふっ、パンはおかわり自由だからね。欲しかったら言っとくれ」
「はい!いただきます!」
「どうぞ、召し上がれ」
手を合わせて一礼。
早速パンを一口大にちぎって口へ。
思っていたより口の中では熱く感じる。特に何も付けていないけど十分に甘い。
そして鼻から抜ける香りが濃い。
付属されていたバター?マーガリン?も付けると、かすかな塩味でより甘さが引き立つこと。
半分ほど食べたところへステーキに手を出す。
ソースを少しだけ付けて、ガブリ。
噛むと肉汁が・・・!
厚切りだけあって噛みごたえも抜群。まさにお肉!って感じだ。
脂の強いタイプの肉だけど、少し酸味の効いたソースがクドさを消していて、後から柑橘系の香りがふわっと鼻に抜ける。
これ、止まんないやつ!
そこまでがっついていたつもりは無かったけど、気付いたら残り一切れになってしまった。
そこでようやくスープへ。
じゃがいもやニンジン、キャベツと玉ねぎが入った野菜たっぷりスープだ。
一口飲むとやっぱりトマトベースのスープみたいだ。野菜の甘みが良く出ている。
じゃがいもはホクホクだし、ニンジンと玉ねぎはとろとろ。
あぁ、キャベツの甘みは際立ってるなぁ。
トマトのほのかな酸味と良く合う事。
飲みきってしまう前にパンにスープを浸してみるチャレンジ。
あぁ、これもおいしい。少し冷めたパンにスープを染み込ませて噛んでいくとより味が濃く感じる。
ここでパンをおかわり。
今度はパンを二つに割って、間に最後のステーキを挟む。
口を大きく開けて噛み切る。
もう少し何か・・・。あ、これだ。
手を付けていなかったサラダからレタスを何枚か一緒に挟み込むチャレンジその2。
うん、これ正解。
どうせならソースも付けてみようか。
ステーキソースをちょっとだけ垂らしてもう一口。
あぁ、これもアリだ。
最後に残りのサラダで口の中をさっぱりさせ完食。
手を合わせて、ごちそうさま。
あぁ~、幸せだ。
食事でこんなにも幸福感を味わったのは本当にいつぶりだろうか。
頬が緩むのも納得だ。今だけは表情筋がコントロール出来ない。
「はっは!気持ちが良い食べっぷりだったね!こっちまで嬉しくなるくらいだったよ」
食べ終わったのを見計らってか女将さんが話しかけてきた。
まさか見られていたとは・・・!
ちょっと恥ずかしい。
「すみません、ちょっとがっついてしまいましたかね、お恥ずかしい。でも、とても美味しかったです!ご馳走様でした」
「そうかい、そうかい。それなら良かった。ウチに異人さんのお客さんは初めてだったからね、口に合うかちょっと気にしてたんだよ。でも気に入ってくれたなら良かった」
「本当に美味しかったです。人に作ってもらった食事も久しぶりだったので、余計に」
たまに食事を疎かにしすぎて、友人が見かねて家に作りに来てくれるけれど、最近は私が仕事を詰め込んでいたせいでほとんどお断りしていたから。
「そうなのかい?アンタくらい男前なら、世話焼きたがる女も多そうだけどねぇ。アタシがもうちょっと若かったら立候補してたかもね!」
そう言って私の背中をバンバンと叩く。
ちょっと力強すぎません?満腹状態なので、こう、食べたものが中で・・・
「ははっ!女将さん、これ以上世話焼く男増やすのか?俺らの事も忘れんでくれよー!」
近くの席に座っていた男性が会話に入ってきたのをきっかけに、周りにいた人達も「そうだ、そうだー!」とか、「俺にも嫁さん紹介してくれー!」なんて声を上げてきた。
中には「かあちゃーん!」とか言ってる人もいるけど。
「うるさいよ!あんた達!むしろ、あんた達はもう少しくらい自立しな!じゃなきゃお嫁さんなんて寄ってこないよ!こっちだって世話焼きたくて焼いてんじゃないんだからね!あと、あんた!明日朝早いんだろ?そろそろ酒は控えな!」
諌められた冒険者風の男性は「やっぱ世話焼きじゃねぇか!」なんて笑いながら素直に持っていた木のジョッキを置いて水に切り替えていた。
ここは女将さんを慕っている人ばかりのようだ。
皆、女将さんに構ってほしくてしょうがない子供の様に笑顔だし、女将さん自身も笑いながら皆の中心にいる。
とても微笑ましい。
しばらくそんな様子を眺め、まったりしていたらだんだん人が増えてきた。
そろそろ夜のピーク時間に入ってきたんだろう。
頃合いの時間でもあるので、女将さんに声をかけてお会計。
「また来とくれよ!」
「ええ、必ず。あ、それと、スミス兄弟ですけれど。おそらく明日、女将さんに謝罪しにこちらへ来ると思います。二人ともとても反省していましたから、どうかお手柔らかにお願いします」
「ふっ、そうかい。約束は出来ないけどね、努力はするよ。アイツらには言ってやりたことが多いもんだから。まぁ気を付けるよ」
女将さんの言葉に苦笑しながら頭を下げて店を出る。
たぶんエイダン君の事なんだろうなぁ。頑張れ。
そろそろ一旦ログアウトしようか。もう良い時間だ。
広場側に戻ってきて宿屋に入る。
別に道端でログアウトすることも出来るけれど、一応。
いまいちVRオンラインの常識がわからず、アバターの身体がどうなるのか分かっていないのです。
こういうのって何処で確認するの?
ベッドに寝っころがってログアウト。
いや、しかし、このゲーム楽しい。
これからも続けていこう!
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