11 称号
街の東側に戻ってくると、夕方になってきたからか住宅街も少し賑わってきた。
夕飯の支度とかしてるのかな?ちょっと匂いに釣られそう。
いくつか子供たちの声も聞こえてくるから、昼間はどこかへ行っていたんだろう。
住宅街を抜け、やっと工房地区へ戻ってきました。
まずは先にウィリアムさんの所へ行こうか。
約束していることだし。
扉をノックすると迎えてくれたのはエイダン君。
「カケルさん!どうしたんです?何か忘れ物ですか?あ、どうぞ!」
「失礼しますね。教会でカード登録してきたので、ウィリアムさん達と連絡先を交換しに来たんです」
中へ案内され勧められるまま席に着くと、作業場からウィリアムさんも出てきた。
こちらを確認すると眼が喜色ばむ。やっぱりこの人、感情が眼に出るなぁ。相変わらず表情は無いけれど。
「・・・登録は済んだのか?」
「ええ、つい先程。早速交換して貰えますか?」
「ああ、喜んで」
初めて交換するから、ちょっとドキドキしつつ、カード同士を重ねる。
確認してみると、私のフレンド欄に≪防具鍛冶師ウィリアム・スミス≫と出てきた。
試しにタップしてみると、そこから音声通話とメールが選べた。
どうやらここから連絡出来るようだ。
―称号【人との縁を結ぶもの】を取得しました―
―スキル【愛嬌】を取得しました―
―該当称号初取得ボーナスにより50000Gが与えられます―
へ?
ピンポーン
≪お知らせします。称号を初めて取得したプレイヤーが現れました≫
≪称号の取得方法は戦闘・生産・生活等の様々な場所や行動で取得出来ます≫
≪称号には効果が付与されています。また称号取得時にはスキルを取得する事があります≫
≪称号の効果は設定にてオンオフの切り替えが可能です≫
≪詳しくはメニューのお知らせをご覧下さい≫
≪引き続き《アナザーユニバース》をお楽しみ下さい≫
へ?
何が起こった?アナウンス?
これ・・・は・・・もしかして、私?
思っても無い現象に固まる私。
称号とな?
いきなり固まった私に明らかに困惑しているウィリアムさんとエイダン君。
あぁ、ゴメンね。ビックリしたよね。私もビックリしたよ。
「・・・あ、あの、大丈夫、か?」
「すみません、失礼しました。大丈夫ですよ、ありがとうございます」
「・・・いや、それなら良いんだ。俺が、何か、やらかしてしまったかと・・・」
「いえ、ウィリアムさんは何も。私の方で、ちょっと。・・・ちなみに今聞こえてきた声はあなた方にも聞こえていました?」
「・・・声?いや、何も聞こえてないが・・・?」
アナウンスは現地住人には聞こえていないっと。
あれ?そうなると今の私はかなり痛い人では?
「では、おそらく異人にだけ聞こえるものだったんでしょう。少しビックリしてしまいました。お恥ずかしい」
こうなったら異人という事で見逃して貰いましょう。私は痛い人じゃないんですよー。
「・・・問題は、無いのか?」
「ええ、大丈夫です。ちなみに称号というものについて何かご存じですか?それに関する声だったんですが」
「・・・称号。俺もあまり詳しくは分からない。けど、一応俺も、いくつか持ってる。・・・名誉なものから、その・・・不名誉なものまで、様々らしい。だが、付与されている効果は、大概が有用だと聞く」
例えばウィリアムさんは【出不精者】という称号を持っていて本来は不名誉なものだけれど、効果は家にいる間は空腹度の下がり方が緩やかになる。というものなんだそう。
ちなみに、称号は他人から取得条件を詳しく教えてもらう事が出来ない。
称号名とざっくりとした取得時の行動なら他人に話せるようなので、そこから予測していくのは大丈夫。
【出不精者】であれば、外に出ず一定期間家にいるのが取得条件で、その一定期間を詳しく話すことは出来ないということ。
ちなみに話そうと思えば話せるが、聞く側がうまく聞き取れなくなるという仕様だった。
そして同一の称号を持っている人には自由に話せるんだとか。
「カケルは冒険者だろう?・・・ギルドの資料室ならもう少し詳しいものがあるかもな」
「教会にも少しあったと思います。僕はあんまり難しい文字読めないからわかんなかったですけど・・・」
シュンとしてしまったエイダン君の頭を撫でるウィリアムさん。
うらやましい。
おっと。つい本音が。
「あ、あの!カケルさん。僕とも、カード交換して下さい!」
頭を撫でられているのを見られて恥ずかしかったのか、少し頬を赤く染めながら上目使いで私の前にカードを差し出すエイダン君。
君は本当にかわいい。
一応ウィリアムさんの方を確認すると黙って頷いているので、私もしゃがんでカードを差し出す。
これでエイダン君ともお友達。
まさかこの歳で少年と友達になるとは。
「へへ。僕、まさか異人さんのお友達が出来るなんて思わなかったです!」
「そう思って頂けたなら光栄です。私もエイダン君のような頑張り屋さんとお友達になれて嬉しいですよ」
そう言うと改めて私の眼をじっと見て来たエイダン君。
・・・なんだ?何か気に障ること言ってしまった?
「僕・・・頑張ってるって思います?」
???
何を言っているんだ?
「頑張っているのでしょう・・・?ウィリアムさんが苦手としている事を、率先して代わりに請け負っているんでしょう?彼は君を可愛がっているし、人に命令したりするタイプでも無いでしょうから、君が自主的に行動して彼の負担を減らそうと頑張ったのでは?君の歳でそれが出来ているのが、むしろ私は驚きでしたよ?」
最初は子供にどれだけ手伝わせているんだ、と思ったけどウィリアムさんと話して誤解していたと思い直した。
彼は人に命令はおろか、指示やお願いもあまり出来ないタイプの人間だろう。
完全に受け身主体で、もしかしたら師匠としては失格なのかもしれないが、それでも彼がエイダン君をとても可愛がっているのは事実だ。
彼がエイダン君を見る眼はとても優しいし、先ほども言われずともお茶を用意するエイダン君を心配そうな申し訳なさそうな眼で見ていたし。
相手が大人ならまだしも、子供相手ではいくら弟子とはいえ、どこまで仕事を手伝わせるか悩みどころでもあったのだろう。人を使い慣れていないなら尚更。
「ぼ、僕、いつも、師匠にこき使われて・・・かわいそう、って、いつも、ご、誤解、されてっ。・・・っひぐ、僕がっ、いつも、違うって、っ言っても、き、聞いてっ、くれなくって、・・・ぐすっ。みんなっ、し、師匠のっ、こと、悪く言ってっ、優しいんだって言っても、ぜ、全然っ、聞いてくれなくてー!う、うあぁ~ぁぁ!」
急に眼をうるうるさせ始めたと思ったら、嗚咽混じりに今まであった事を吐き出すエイダン君。
最後は耐えきれずに声を上げて泣き始めてしまった。
しゃがんで視線を合わせていた私は、思わずそのまま彼を抱きしめた。
泣いている子供のあやし方なんて分からないけれど、彼を安心させてやりたくて抱きしめる腕に自然と力が入る。
我慢しなくて良いよ、全部吐き出して良いよ、大丈夫だよ、と繰り返し声を掛けながら背中をさする私。
実際に何があったのか詳しく聞くのは、私の役目では無いだろう。
それは落ち着いたら二人で話し合う事なんだと思う。
今私が出来るのはただ、抱きしめる事だけ。分かってるよ、大丈夫だよって声掛けながら。
ふと視線を上げると、珍しくウィリアムさんが表情を崩してこちらも泣きそうな顔をしていた。
とはいってもほんの少しだけだけれど。
それでも確実に眉は下がって、眼に膜は張っているし、口がキュっとなっている。
思わず苦笑しながら、エイダン君の背中をさすっていた手をポンポンと軽く叩くように切り替える。
少し落ち着いてきたかな?先程よりは声を上げなくなってきた。まだ、ヒックヒックと嗚咽混じりだけど。
しばらくして泣き止んだエイダン君は、眼も顔も真っ赤にしながら恥ずかしそうに顔を上げた。
うん、わかるよ。
泣き止んだ後って妙に恥ずかしいよね。
思わず微笑みながら、涙の跡を拭うように頬を撫でる私。
さすが少年。肌がモチモチです。
彼の肩を優しくつかみ、くるっと回転させウィリアムさんとご対面。
服の裾を掴みながらモジモジとしているエイダン君にウィリアムさんから近寄り、しゃがんで抱きしめる。
うん、麗しきかな。師弟愛。
さっきは抱きしめる役目を取ってゴメン、と内心謝る。
本来こっちが正しいよね!私、完全に出しゃばったね!
しばらく静かに待っていると、入り口の扉がドンドンと音を立てた。
「おーい!ウィリアム!いるかー?」
この声は・・・ブランドンさん?
思わぬ来訪に二人して肩がビクッとしたと思ったら、今度はワタワタと慌てている。
エイダン君に至っては尻尾がブワワっと。
だいぶ落ち着いたとはいえ二人ともまだ眼が真っ赤だ。
そして行動がそっくり。
もう、本当にかわいい。
「良ければ私が迎えても?ブランドンさんなら私も存じていますし、その間に顔を洗ってきたらどうですか?」
なかなか出てこないから、ブランドンさんもいまだに
「おーい!聞こえてるかー!?ウィリアムー!エイダンー!」
って言いながら扉を叩き続けてる。
私の提案に二人してコクコクと勢いよく頷いて、急いで一緒に奥に引っ込んだ。
「こんにちは、ブランドンさん。さっきぶりです」
扉を開けて迎えた私に驚いた様子のブランドンさん。
あぁ、やっぱ兄弟だな。表情の違いはあれど、眼がそっくり。
「あれ?カケル?どうしたんだ?ゴミ拾いそんな時間掛かってんのか?」
「いえ、クエストはもう報告まで済ませました。そうだ、おかげ様で報酬、思っていたよりも多く貰えました。有難う御座います」
中へ案内しながらお礼を告げる。
あれは、ほとんど鉄くずのおかげだったもの。
「あぁ・・・いや、気にすんなって。俺らも助かったんだから。・・・それで?ウィリアム達はどこ行ってんだ?」
中に入っても二人の姿が見えなかったので疑問を投げかけてくる。
「二人なら、もうそろそろ・・・あぁ、戻ってきましたね」
仲良く二人してバタバタと戻ってくる。
かわいい。
「・・・すまん、待たせた」「お待たせしましたっ」
「おう、大して待っちゃいねぇよ、・・・?なんか二人とも眼が赤いな?」
「・・・っ。な、何でもない、気にしないでくれ」
「お・・・おう?」
先程まで泣いていたことを悟られたくないのか、二人して顔の前で手をブンブンと振っている。
シンクロした動きがまたかわいい。
さっきから君達、かわいいが渋滞してるぞ。
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