0-62 アルバイト
本日2話目です。
ご注意ください。
「ただいま~」
「おう、遅かったな……って、誰だ! その男はっ!!」
夜遅くに帰って来た愛娘が、見ず知らずの男を連れ帰ったのだ、騒がずにいられないのは当然だろう。
「こんばんは、遅くに突然お伺いしまして申し訳ありません。サークヤと申します」
深々と頭を下げるサークヤ。
「さっき、通りから曲がった所で襲われて、この人に助けられたの。お金が無くなって泊まる所が無いって言うから、お礼にと連れてきたのだけど…… ダメかしら」
「襲われたって…… 本当の事なのか?」
「本当よ。この人が返り討ちにして保安隊に突き出してくれたわ」
保安隊に問合せれば、自分が関わった事も分かると付け加えるサミヤ。
上目遣いでおねだりする愛娘に、しかもその娘の恩人に、ダメなんて言える筈はなかった。
その娘はと言うと、嘘は言って無いからと、しれっとした顔をしていた。
事件の前からそうしようとしてたなんて、口が避けても言う訳がない。
「奥の客間なら良いでしょ? サークヤさん、こっちよ」
「済みません、お世話になります」
再度頭を下げてサミヤに付いていくサークヤを、この世の終わりのような顔で見送る父親だった。
翌朝早くに起きたサークヤは、いつも通り外に出て稽古をしていた。
「ほう、珍しい剣だな。曲剣か。どれ、見せてみろ」
後ろから現れたサミヤの父親に、振っていた剣を渡すサークヤ。
「昨夜の騒動で折れたり曲がったりしなかったので良かったです。曲りは直せますが、折れたら大変なので……」
「ふむ、元の素材は首都の方のか。しかし、この仕上げ……特に研ぎは素晴らしいものがあるな」
そう言ってサークヤに剣を返す。
「ありがとうございます。剣は旅の途中で買った物です。研ぎは仲間の実家にいる時に、僕も手伝いながら研いで貰ったんです」
「……なあ、その仲間の実家って鍛冶屋か?」
「う~ん、本格的な鍛冶もしますが、どちらかというと剣士ですね、鍛冶も少し教えて貰いましたが剣の腕も鍛えて貰いました」
「はあ? 何だその家は。鍛冶もして剣も振るうって……」
「いえ、田んぼや畑仕事もやってました」
「なんだそりゃ」
サミヤの父親がズッコケた。
「アンタ、もしかしてそこで一通り習ったのか?」
「え?ええ、鍛冶はある物を作る時に流れを一通り。でも一度だけなので……」
それを聞いて考え込むサミヤの父親……オヤジさんと呼ぼう。
「ふむ、良いだろう。アンタ、金が無いと言ったな。今から手伝え。雇ってやる」
「ええっ!?」
有無を言わさぬその性格、どこかの娘によく似てる。
いや、こちらが元なのだから、それ以上だ。
そう思ったが最後、ああ、これは逃げられないや、と理解するサークヤだった。
「あれ? お父さんもサークヤさんもいない。どこ行ったの?」
遅めの起床をしたら誰も見当たらなくて、慌てて探し回るサミヤ。
「もしかして……」
音のする作業場を覗くと、案の定2人の姿を見つけた。
「ええっ! 本当に作業場に入れてる! 弟子以外入れた事無かったのにっ!」
そう、サミヤでさえ、作業場には入れてもらえないのだ。
サミヤにとっては青天の霹靂だ、槍でも降って来ないかと思わず空を見上げた。
サークヤが作業しているのは剪定鋏の刃研ぎだ。
鍛冶場とは別の場所での作業である。
剣や刀とは違うが、これもなかなか面白い。
研ぐ角度は使用用途によって異なる。
繊細さは刀には及ばないが、それでも研げば研いだだけ結果が現れる。
最後にカエリの処置を忘れない。
折角研いだ刃先が使う前に傷んでしまい兼ねないからだ。
日本にいた頃の機械音痴な男の姿はもう無い。
体を動かして覚えたからこそ、身に付いた技であろう。
「確認をお願いします」
鍛冶場の方にいたオヤジさんを呼び出すサークヤ。
「おう。……ふむ、上出来だ。と言うか、やり過ぎだ。剣を研いでるんじゃないんだからな」
そう言って考え込むオヤジさん。
サークヤが馴染んでいたような砥石は無かったが、そこにあった砥石で工夫をして研いでいた。
「よし、包丁は研げるか?」
「う~ん、出来ると思います」
そう言って始めたサークヤの研ぎを暫く見ていたオヤジさんは、軽く頷いて自分の仕事へと戻った。
「だから! やり過ぎだって言ってるだろう! 美術品を作ってるんじゃないんだぞ?」
そう言われても……と思うサークヤの性格からして仕方ない事だ。
この位で満足してくれるだろうか、と不安を感じて更に更にと研いでしまうのだ。
それを増長させたのは、初めてであり一度しか経験できなかった刀研ぎにあるだろう。
それも刀身の短い懐刀。
それに近い刃渡りの包丁とくればそれに近付けようと自然に考えてしまう。
だが、それでも日本包丁の切れ味に近くなったところのサークヤであったのだが。
「まあ良い。こっちの包丁の研ぎを頼む」
それは昨日持ち込まれた大量の包丁だった。
ミルバエルの卸市場にあった予備や使い古しの包丁が、一度に持ち込まれたのだ。
これだけの量は流石に捌けないと一度は断りを入れた。
研ぎだけなら道具屋でも出来ると言って断ったのだが、市場には懇意にしてくれている連中も多く、強い要望により断りきれなかった。
仕事の質を買われた形だろう。
他の仕事もあって途方に暮れていたところだったので、招かざる客であっても刃研ぎが出来るのをこれ幸いにと巻き込むオヤジさんだった。
肝心の研ぎ作業も、やらせてみれば良過ぎな品質を見せたので、思いもしない収穫だろう。
錆びた物、刃こぼれした物、大量にある様々な包丁を前に、うへぇと唸ると同時に、此処にいれば孰れはテリオたちも来るかもしれないという考えに至り、無心で作業を始めるサークヤだった。
7月より投稿時間を少しだけ早い22時に引っ越します。




