0-54 一時の別れ
翌朝、テリオ達四人は装備を整えて世話になっていたセレルム家の外へと並んだ。
「キク、リビウス。世話になったな。ユリをよろしく」
「何言ってんのよ。当り前の事しかしてないわよ。ユリちゃんの事は任せてちょうだい。……と言っても騒動がこれ以上続かなければ良いけどねぇ」
と言いつつ、ユリを見て頬に手を当てて溜息をつくキク。
騒動とは、尾ひれ葉ひれついてお姫様級にまで膨れ上がっていたユリの噂の事だ。
リビウスもそれに頷く。
「まぁ、それに付いては保安隊や町長が何とかしてくれるんじゃないか?」
「お気楽ねぇ、テリオは。それに振り回されるユリちゃんの事も考えて欲しいものだわ」
うんうんと頷くテリオ以外の面々。
「なんで俺だけ悪者!?」
日頃の行いだと理解して欲しいところだ。
「ユリ、暫くしたら迎えに来るから。それまで頑張れよ」
「……はい」
「もう、仕方ないわね、ユリは。ちゃんと迎えに来るんだからそんな顔しないの」
寂しいのだろうか、涙が溜まっていたユリの目じりを手で優しく拭ってやるシーナ。
「そうだぎゃ。今生の別れじゃないがや」
明るく言うタークに、うんと頷く。
「ユリさん、何かあったら周りの人に頼るんだよ。1人じゃないんだから」
「いや、それはサークヤにも言えるだろう。お前は時々抱え込むからなぁ」
テリオのツッコミにうんうんと頷くシーナとターク。
「ええっ! 僕も!?」
その見事なブーメランを見ていたユリはクスクスと笑った。
「……良かった。やっぱりユリさんは笑ってた方が良いや」
えっ! とそう言ったサークヤの笑顔を見るユリ。
「その調子で、この町での生活も楽しんでね」
「……はいっ!」
満面の笑みで見つめ合う二人を見て、顔を見合わせるシーナとキク。
「これって、もしかして……?」
「まさかの……?」
静かに見守る事を誓う二人に対し、うんうん頷くタークに首を傾げるテリオであった。
「よし、じゃあ行くか!」
「「「はい」」」
四人が見送る面々を背に歩き出す。
「気を付けてねっ!」
そう言って手を振るユリ。
それに対し、振り返ったりはしない。
戻ってくるのだから、と。
町を出ると街道には桜が咲き誇っていた。
「ほぉ、これは見事だな」
町へ入ってくる道に桜はなかったので、南へ向かう道にのみ植わっているのだろう。
どうせなら北からの道にも植えて欲しかった、そうすればユリも見られたのに、と思うサークヤ。
「今年は少し咲くのが早いかしら」
「ほうやな。まっと低いとこと変わらんのじゃ?」
暦は1の月の半ばを過ぎた14日だ。
サークヤがこの世界に来てから約9ヵ月が経っていた。
早いものだなと、桜を見ながら思うサークヤは、たぶん元の世界の4月あたりが1の月なんだろうなと思う。
確かに標高が高いであろうこの辺りで、この時期に桜が咲くのは早いかなと思うが、3年に一度15の月があるこの世界では暦は当てにならない。
「……ユリさん、大丈夫……だよね」
ボソリと言うサークヤにシーナが答える。
「大丈夫よ、ああ見えてユリは根性あるから。里の人間を甘く見ない事ね」
「ほうだぎゃ、心配せんでええて」
「なんだ、サークヤはそんなにユリの事が心配なのか?」
そう質問され、下を向いて少し考えた後にサークヤは顔を上げて答えた。
「いえ、ユリさんなら大丈夫です。僕はそう信じます」
皆で頷き合うのだった。
*
「なに? 四人が今朝旅立っただと?」
保安隊隊長のミヴァリィが声を荒げてユリに問い詰める。
「は、はい。昨夜にそう決めて、今朝早くに発ちました」
そう答えるユリに更に問い詰めようとするミヴァリィだったが……
パシッ
何処にあったのか見事にハリセンが脳天にヒットした。
「な、何をする、ミールシス!!」
「何をも何も、ユリが怯えてるじゃないっ! それ以上続けるんなら私が許さないわよっ!!」
ミールシスが止めに入り、ユリを庇った。
夫婦漫才かと思ったが、ミヴァリィもミールシスもそれぞれ伴侶がいるという事に驚くユリであった。




