0-52 失敗の初仕事
本日夜にもう一話投稿します。
「ユリ・ホゥスカです。よろしくお願いします」
翌日、早々ではあるがユリは保安隊の詰所に仮契約で働き出すのだが……
「「「「「「「おお~~~!」」」」」」」
隊員たちが浮き足立っているのが丸分かりだった。
「ええっと……」
「はい、はい。その辺で仕事に取り掛かって下さいな」
ユリが戸惑っていたので、ミールシスが助け舟を出す。
「「「「「「へ~~~い」」」」」」
保安隊に休みは無い。
夜間も交代で業務に就く。
一昨日のような大捕物の時は夜勤明けの者も引っ張り出されるので気の毒だが、給料は悪くない。
町からと国から資金が出るので、その点は他の職と比べても遜色はない。
それでも人手不足に陥るのは理解出来ないところだ。
ユリはというと、初日からいきなり受付に座っていた。
普段はミールシスが受付も行っているので、ユリにもやらせてみようとしたのだが……
「ええっと、順番に並んで下さい。一人ひとり伺いますから」
「あらまぁ。初日からこれなの?仕方ないわねぇ」
明らかに緊急性の無い若者でごった返すのだった。
「ユリ、其処を代わるわ。あなたは隊員と一緒に、緊急性の高い方の話を聞いて」
そう言ってユリと代わるミールシス。
すると先程までの喧騒が嘘のように鎮まった。
「あなたたち。此処は遊び場じゃないの。この娘が目的の人は帰って下さる?」
ミールシスがピシリと言うと、ごった返していた受付に静寂が訪れた。
「あ、あのぉ~。先日の盗賊に襲われた祖父の遺品を引き取りに来たのですが~」
「あ、はい。お騒がせしました。お名前を伺ってもよろしいですか」
初の仕事がそれだったので、少ししんみりするユリだった。
受付が落ち着いたところで、食堂の手伝いをするユリ。
隊員たちに昼食を手渡ししていくと皆が喜んで、ありがとう、いただきます、とそれぞれ声を掛けてくるので、ユリは初仕事のしんみりした気分を一新することが出来た。
自分も昼食を取ってから食堂の片付けを終わらせ、今度は馬の面倒を見ていく。
「おや、お前さんはこの前の。ウチで働いてくれる事になったのかね。これからよろしくな」
「ユリです。よろしくお願いします」
そう言って馬の世話を続ける。
「盗賊捕縛の時に、お前さんが馬の休息を進言してくれたそうじゃな。ありがとうよ」
「いえ。疲れていたのが分かったので」
手を動かしながら言うその言葉には、嬉しさが滲み出ていた。
答えたユリもまた、嬉しさに顔を綻ばすのだった。
厩を後にしたユリは、今度は宿泊施設に赴いて掃除を進めた。
はたきを掛け、モップで床を拭き、雑巾を掛ける。
各部屋を順に進めていると、半分くらいのところでミールシスに止められた。
「ユリ、探したわよ。初日から働き過ぎ」
既に夕方になっていた。
ユリは昼食後から一度も休憩を取っていなかった。
「ユリ? あなた一人で働いているのではないのよ。他の人の仕事を奪わないでね」
「えっ! 私、人の仕事を奪ってなんて……。人が足りない所を手伝っていたのですが……」
「いいえ。人が足りてない所は、皆が順番に手伝っているのよ。これが仕事を奪ってないと言えるかしら?」
押し黙るユリに、少し表情を緩めてミールシスが窘めるように言う。
「ユリ、此処では皆で協力して回しているの。あなたもその一員なのよ? 今後は皆と相談しながら進めて貰えれば良いわ」
「……分かりました」
しゅんとするユリの肩にミールシスが手を掛ける。
「でも、ユリ? 今日は頑張ったわね。これからも頼むわよ? さっさと本契約しちゃいなさい!」
「は、はいっ!」
「ユリちゃん、お帰り~」
「ユリ、初仕事はどうだった?」
帰って来たユリにテリオが問うが、ユリは苦笑した。
「頑張りすぎて失敗しちゃいました」
「あら、いつも通りじゃない」
落ち込み気味なユリにシーナがおちゃらけた。
「で、やって行けそうかや?」
タークの問いにコクンと頷いて「皆、優しくしてくれるので」と答えるユリ。
「良かった。合わなかったらどうしようかと思っていたんだよね」
とサークヤがホッとした顔をユリに向けると、そのやり取りを見ていたテリオが思わぬ事を口に出した。
「うん、なら大丈夫か。ユリ、これから頑張れよ。よし、皆、明日朝に出発するぞ」
「ええっ! もう行っちゃうの!?」
「なんだ、ユリ。今、やって行けそうと言ったじゃないか。なら問題ないだろう」
「そ、そんなぁ……」
急に不安になるユリだが、何れ出ていくテリオたちだ。
今止めても数日の違いだろう事はユリにも分かったので、受け入れるしか無かった。
こうしてテリオたちの出発が決まった。
その頃、町の各所で暗躍する集団が3つ出来る。
ユリを応援し隊・女神見守り隊・ユリを遠くから愛でる会、だ。
それぞれが不必要なユリへの接触や抜け駆けを禁じ、名に恥じぬ行動を誓っていたが、各集団同士の抗争はもはや必然であり、後の保安隊を悩ませる元となるのである。
が、しかし……そんな事はテリオたちは勿論、当の本人すら知り得ぬ事だった。




