0-51 噂のお嬢様
情報を一通り聞いたテリオたちは、保安隊の詰所の中を案内された。
既にユリを迎い入れる前提なので問題ない。
受付は事務所の目の前で、何かあっても隊員が直ぐに対応出来る。
仕事柄慌てて駆け込む人が多いので、そういう時は隊員たちも一緒に話を聞く。
奥には宿泊施設や食堂もあり、規模は小さくない。
夜通し働いた隊員や、他の町から来た隊員たちの休息に使われているのを一般の旅人も利用できるようにしていた。
厩は裏手にあり、馬の世話役は年配の二人が交代で行っているという話だった。
馬の数にしては少ないようだ。
ユリが馬を撫でていると、白い髭を蓄えた年配の男が声を掛けてきた。
「おや、お前さんは馬がとても好きそうだのう。馬も気持ち良さそうじゃ」
年配と言うよりは老人と言った方が良さそうだ。
「わしらだけでは手が足りんから、お前さんのような人が来てくれると助かるわい」
話を聞くと、もう定年はとっくに過ぎているが、後継者がいないので続けて働いているという事だ。
「此処は首都から離れているから、必要人員が充分には回って来ないんだ。幸いこの町は平和な方だから隊員は今の人員で事足りているが、今回のような他所から来る賊にまでは手が回らない。保安以外の業務に至っては全く足りていないのが実情だ」
確かに食堂にも人が一人しかいなかった。
昼食や夜食の時間帯には隊員が順番で手伝いに入るが、常時いてくれる人が入ってくれないという。
宿泊部門もまた然り。
それはそうだろう。
殆どが年配の、それも厳ついオッサンばかりの職場に誰が好き好んで入るか。
悪者を取り締まるという憧れの職場とも言えようが、この町でそれほどの大捕物は滅多にないから憧れようがなかった。
だからこそ今回の大捕物の噂は、考えられない速度で町へと流れて行ったのである。
そんな大捕物に大きく関わった一団に守られて町にやって来た少女。
その影響力がどれ程大きいものか。
一団はそれに全く気付いていなかった。
「町長のダウウィルです」
詰所を回り終わって事務所に戻ると、壮年の紳士が待ち構えていた。
「いやぁ、居ても立ってもいられなくなりましてな。こうやって出向いた訳ですよ」
はっはっはっと笑い握手を求めて来る。
訳が分からない一団に、隊長のミヴァリィが説明した。
「町長にも話を通しておくと言っただろう。昨日の内に報告がてら、お前らの事を話しておいたんだ」
詰所を案内した後に町役場に連れていく算段だったが、テリオたちが来るのが遅かったので出向いて来たという事だった。
「丁度盗賊の報告が上がってきて、町としての方針を話し合っている最中の解決の一報でしょう。それはもう大騒ぎですよ。どんな人たちなのか、一度会っておかないと」
「そちらのお方ですか? 謝礼の代わりに守って欲しいというのは」
ユリの方を向いてニッコリする町長。
どうやら要求は通りそうだ。
「お婿さん探しだそうで。どうです? ウチの孫などは」
「いや町長さん、ユリが探すのは"婿養子"。連れ帰る事が前提なんだ」
連れ帰るのは山奥で簡単には帰れない事も付け加えるテリオ。
「中々厳しい条件ですね。ウチの孫たちには難しいですな」
早々に諦める町長。
「まあ、気長に探されるのでしょう。町にいる間、何か困ったら役場へ相談に来て下さい」
力になりますので、と力強く言う町長。
「しかし、これから大変ですねぇ。これ程可愛い方が婿探しだとは。次男以降の若者が群がるかも知れませんよ」
「ええっ! そんな事に?」
顔を青くするユリにサークヤが大丈夫? と気を使う。
「そりゃそうでしょう。多数の盗賊をいとも簡単に撃退できてしまう、あなた方のような人たちに守られるような若い女性が婿探しですよ、どんなお嬢様かと。噂なんて既に広まってますからね」
盗賊を捕らえて帰って来た保安隊の馬に乗って町に入ったのも、噂を増長させていると付け加える町長。
ユリが白目を剥いた。
一同が家に帰ると、キクがいの一番にテリオに文句を言った。
「全く、どうしてくれるの? 既にユリちゃんが有名人になっちゃっているわよ?」
「ええっ!!!」
どうしてこうなった! と、頭を抱えるユリだった。




