0-44 余裕と手加減
本日2話目です。
ご注意ください。
山道から太い道に出た一行は、ひたすら南下していた。
道には轍があり、馬車が少なくない台数通っているようであるが、一行とはまだ出会っていなかった。
「テリオさん、あとどのくらいあるんですか?」
そう聞くユリの顔からは朝イチなのに疲労感が色濃く出ていた。
里から出て既にひと月と2週くらい経っている。
「あと……そうだな。2~3日くらいかな」
「そうですか……」
少しホッとした表情になるユリだが、こういう時こそ危ないものだ。
「ユリさん、あと少しと言っても、まだ2~3日は歩かないといけないから気を緩めないでね。怪我に繋がるから」
「あ、はい!」
テリオの後ろ、ユリの前を歩いていたサークヤが釘を刺すが、四人でいた頃にはなかった滅多にない光景だ。
「そうそう、気ぃ抜いたらアカンでな。薬はあっても痛い目するのは自分やしの」
タークも一言付け足す。
「まあ、気が抜けるのも分かるけどね。長い道のりだったから」
シーナが締まり過ぎた雰囲気を程よく和ます。
それでも大きな道に出た事で、知らず知らずのうちにペースが上がっていた事に気付いたテリオが、歩く速度を落とす。
しかし、この時のテリオは異変に気付いていなかった。
町に近付いてはいながら、馬車が一台も通らなかった事に。
馬車だけでない。
人ともすれ違わなかったのだ。
目的地の町はこの地方としてはそこそこ大き目であり、この通りから脇道へ入って行けば他の村へと行ける。
であれば、少なからず人通りもあって然りの筈だった。
そして気が付いた時には遅く、既に囲まれた後だった。
「……金はないぞ?」
「なら、その大荷物を全て置いて行けよ。通行料だ」
その数、5対14。
当然ユリは戦力外。
実質4対14という事になるのだが……タークも接近戦は苦手な方で短剣しか持ってない。
5人は荷物を下ろす。
「ほう、聞き分けが良いじゃないか。ほら、腰の剣も置いて行けよ」
「それは出来んな」
そう言ってテリオは刀を抜いた。
それに倣ってサークヤ、シーナ、タークがそれぞれの武器を手に取る。
「ユリ、あなたはじっとしてなさい」
そうシーナがユリに言い含めると、ユリは無力な自分が分かっておりコクンと頷く。
右にターク、左にサークヤ、後方にシーナ、そして正面の親玉の方にテリオという布陣だ。
右は急ではないが崖、左は山肌という地形なのでそれぞれ人数は少ないという事で、この布陣を取った。
左右が片付けば前後へ応援に行く寸法だ。
「えっと、こういった場合は相手は殺さない方が良いんですよね」
「まあそうなんだが、誤って殺してしまってもこの人数差なら問題にならんだろう」
対人戦は初めてのサークヤの問いにテリオが答える。
相手も武器を手にしているんだから、そんな質問が出る方がおかしいのだが……
「腕の一本や二本切り落とした方が、悪い事出来なくなって良いんじゃない?」
と冗談とも本気とも取れる事をシーナが口走る。
「ワシはそんな手加減できへんで。生きるか死ぬかやわ」
タークが皆殺し宣言するが、本気だろうか……。
「この人数差で対抗するつもりか? 死んでも知らんぞ?」
ニヤリといやらしい顔をする相手の親玉。
相手は正面が5人、後ろが4人、右は2人、そして左が3人だ。
賊たちがジリジリと近寄ってくる。
そして……
キンッ
どこかで鳴った刃のぶつかり合う音がキッカケとなって、一気に乱戦となる。
刀を振り回すテリオは勿論、薙刀を振るうシーナ、短剣と何処から出したか分からない鎖鎌を使うタークの3人は見事な立ち回りだ。
そして、サークヤはというと……
「なっ! コイツ! 中々やりやがるっ!」
そう、難なく3人を相手に立ち回っていたのだ。
それはそうだろう。
里でタリオとテリオの二人を相手に複数相手を想定した稽古をしており、最終的にはハルを含めた3人を相手にした経験が活きている。
里の3人に比べれば、賊はまだ子供と言えるマサやナオを相手にしているようなものだった。
正面の者の剣を左に受け流し、その勢いのまま左の者の剣を払い、返す刀で右の者の剣を打ち落とす。
見事な剣捌きだ。
これに危機感を抱いたのは賊の親玉だ。
数で勝っているにも拘わらず、力で押し負けている。
しかも穴だと思っていた若僧が手練れだという。
理解も出来なければ、納得も出来ない。
ヤバいな。
親玉はそう思うのだが、何故か焦りは見られない。
相手にしていたテリオが不審に思っていると、その親玉がニヤリとした。
ザサッ
左手の山肌から複数の音が鳴る。
「「「「なっ!!」」」」
更に4人が姿を現した。
「チッ! やってくれるな。どうなっても知らんからな」
「ふんっ! 強がりを。命が惜しかったらさっさと降参するんだな」
テリオの含みを持った愚痴に親玉が降伏を迫る。
「降参するのはお前らだ。もう手加減をしてられないから覚悟しろよ」
そう、4人は相手を怪我をさせずに無力化しようとしていたのだが、数が増えた事でその余裕を失った。
サークヤもそれ程余裕があった訳では無かった為、いよいよ腹を括る事になる。
この時、サークヤは初めて対人戦の怖さを知る事になるのだった。




