0-15 閉ざされた理由
翌朝サークヤは、迎えにきたシーナに連れられてホゥスカー家へと来ていた。
ホゥスカー家は里での別名を紬家と呼ばれている。
名の由来は、普段は里の者の為の織物を織るのと、里に伝わる伝承を伝える事であった。
昨夕の宴で挨拶を済ませていたので、早速話に入ろうとするシーナの祖母タカエ。
何故かシーナの姉レイとの3人での話し合いとなった。
「サークヤ、アンタの話を早く聞きたい所だが、まずは此処の話が先だね。さて、どこから話そうか」
そう言って、話し出したのは
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むかしむかし、遙か昔。
仲の良かった竜が突然、街で暴れだした。
街の人たちは逃げ出した。
仲良しだったのに何故? どうして? と。
でも、誰もそれに答える事は出来なかった。
竜が暴れるのを見たその国の王が、勇者を呼び出させた。
そして勇者に頼んだ。
竜を止めてくれ、竜を倒してくれ、と。
その頼みを勇者たちは叶えた。
街の人たちは助かったと皆で喜んだ。
しかし倒された竜を見て、街の人たちは悲しんだ。
それからというもの、街の人たちと竜の関係は良くはならなかった。
良くはならなかったが、竜は争い事を嫌い、争い合う人々を鎮めた。
竜は平和を望んでいたんだ。
しかし、やはり竜と人々との仲は以前のような友好なものは築けなかった。
平和が訪れても、そればかりは変わらなかったとさ。
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「それって、昔話ですよね。少し言い換わってますけど」
「そうだね、巷に流れている昔話そのものだよ。だがね、これが作り話ではなく本当の話だったとしたらどうする?」
タカエは、ふぅ、と一息吐いてから続ける。
「これからする話は聞いた事が無いだろう。レイ、これからお前がこの話を伝えていくんだ、覚えておきな。里の外では絶対口に出すんじゃないよ」
そして、いきなり突拍子も無い話に移り変わる。
「私らの祖先たちは、あるところから突然知らないところへ飛ばされてきた」
「ええっ!!!」
タカエは、まだ話はこれからだよ、と手で制す。
「達筆過ぎて読めないところがたくさんあるけどね、古文書によると、約500年位前の事のようだね。隣国ロースドバークの古い王の名があった」
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その国に呼ばれた祖先たちは、街で暴れる竜の討伐を命じられた。
それに応じた祖先は、大怪我を負いながらも辛うじてその任を遂げたという。
しかし当時、誰も歯の立たなかった竜を討ち倒したその圧倒的な力を見た人々は、恐れ、戦き、妬み、迫害し、その力を欲した。
怪我をしていた祖先たちは、それを止める事も出来ずその理不尽な仕打ちに、街を出て、その国を捨てて、人を寄せ付けないように隠れ住んだ。
それがこの”閉ざされし里”だ、という。
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「その力の一端に、刀の存在があってね。その製造方法を守る目的もあるんだ。今でも世の中の剣はここの刀に劣るようだからね。こんなものが世に出れば、良くない事、争い事が起こらない訳がない」
だからこんな閉塞された歪な里ができたんだ、と自嘲気味に言う。
そして、そんな技術を絶やす事はしたくないとも……。
「ただね、血縁だけの世界で時を経ると、血が濃くなりすぎてね。そのうち奇形児が産まれるようになって、外の人を受け入れるようになった」
どこかで聞いたような、よくある話なのかも知れないが、それを500年も続けている里の人達。
里への出入りも、場所が特定出来ないように細心の注意を払っているという。
わざと違う方向へ進み、山を回り込み、似た場所を通り、行ったり来たりを繰り返して方向感覚を狂わせる。
ここに来た自分も、この場所が全く把握出来てない。
この地へ嫁いだ人も、外へ嫁いだ人でさえも同じだという。
極限られた人間だけが知る里。
知っていたとしても、辿り着ける者はほぼいないと言って良い。
そこまでして保たれる平和。
この世界の平和は、この里に掛かっていると言っても良い。
「そして、その祖先の故郷の名は……」
タカエがサークヤの顔色を伺う。
「ニッポン」




