0-14 錯覚
「おっ! マサにナオ、元気だったか。二人とも大きくなったなぁ」
「「えへへへ」」
「あらあら、お客さんなんだから、お行儀よくしなさい」
お茶を持って入って来たのは妙齢な女性。
「ああ、サークヤは初めてだったな。弟の嫁さんでテナと、その息子たちのマサとナオだ」
「初めまして、サークヤと言います。よろしくお願いします」
「あら、これはご丁寧に。テナです。よろしく」
お互いにお辞儀をしての挨拶をするのを見て、子供たちもぺコンと頭を下げる。
「よし! マサ、ナオ。他の家にテリオたちが客人を連れてきたと回ってこい。今夜は宴だ」
そうタリオが子供たちにお使いを命じた。
は~い、と声を揃えて勢いよく外へと飛び出していった。
「旅で疲れただろう。ゆっくりと休むが良い」
そう言ってタリオは部屋を出て行き、一方で3人が、えっ! っと驚きの表情を浮かべていた。
冠婚葬祭以外では、里の者を集めての宴は珍しい事だったからだ。
里には6家族、50人近くが住んでいた。
大家、薬家、紬家、修家、鍛家、酪家と呼ばれる6軒だ。
血縁ばかりらしい。
丁度、秋の収穫が終わったばかりだと言い、集落の女衆が食材を持ち込み、男衆は酒を持ち込む。
子供たちは果物等を、だ。
当然、台所は戦場、囲炉裏部屋は宴会場、座敷は机をどかして遊び場と化していた。
そしてシーナは台所、テリオとタークは当然のように男衆の中に入り込む。
サークヤは居所を失ってウロウロし、子供たちの中に居場所を求めた。
しかし、サークヤが部屋に入った途端、空気が凍りつく。
「「ひっ! ……ぴぎゃああああああああ!!!!!」」
里の大人たちしか知らない幼子たちには見知らぬサークヤが未知の生物、そう、鬼のように見えたようだ。
それこそ鬼のように喚き散らす幼子たちに、それなりに大きくなっている子たちがあやしに掛かり、そのどちらでもない子たちはサークヤに警戒感を露わにする。
そして、そんな子供たちの態度に、サークヤはどうしたらよいのか狼狽えるばかりであった。
「何やってんのよ、サークヤは! もう」
何事かと様子を見に来たシーナが子供たちを宥め、サークヤにため息をつく。
これでサークヤの居場所はなくなった。
男衆の中に行けば良いのにとシーナは思ったが、サークヤは下戸であった。
営業職で下戸は一部の営業職から何やってんの! と思われるだろうが、設備製造会社の営業では接待は必要なかったので、問題にはならなかった。
はあ、とため息を吐き、縁側で外を見る。
まだ日が沈む前だったので、村の様子がよく見えた。
田んぼには、刈り取った稲が縛られて吊るされていた。
空には、巣に帰って行くのであろう小鳥が数羽、家路を急ぐ。
じっと見ても、村の中にはちゃんと道があるのだが……聞いていた通り、村から出る道らしきものは無い。
こうやって実際に見ても不思議な光景だった。
入って来る者を拒み、出て行く者は離さない。
自分は此処へ閉じ込められたのでは? そんな気になる。
実際、誰かと一緒でないとどっちへ向かって良いのかすら分からない。
性質の悪い冗談……でもない、現実にこうして存在しているのだ。
異世界に来てしまったが為、行く宛てのない自分には体の良い牢のようにも感じ、ブルっと震えた。
何もしてないのに牢か……と自嘲していると、後ろから声を掛けられた。
「なんだ、姿が見えないと思ったら、こんな所にいたのか」
「テリオさん……」
「不思議なところだろう。逃がさないぞって言ってるような。そんな所が嫌で、俺は此処を出て旅をしているんだ」
「何となくですけど、分かります。今も、此処からもう出られないんじゃ……と思いました」
そうだろう、と頷くテリオは明るい顔でサークヤの背中を叩く。
「今回は此処で冬を越すつもりだ。春になったら、また旅をしよう!」
さあ食うぞと、サークヤを皆の集まる部屋へと誘うのだった。




