0-65 異国の食材
本日夜にもう一話投稿します。
「増えたっ!?」
テリオを連れて帰ったサークヤに向けたサミヤの第一声だ。
「「す、すみません...。」」
「ちょっとサ-クヤさん、この人がガブ呑みする人?」
「い、いえ...その人はまだ行方不明で...。」
「ちょっとぉ!!話が違うわよ!」
今ではオヤジさんの手駒にされているサークヤであるが、元々はサミヤの勤める飲み屋でガッツリ飲食してもらう約束だったのだ。
当てが外れるサミヤは頭を抱えるのだが、一方で...。
「人員確保!」
「はぁ?」
オヤジさんに捕まるテリオ。
「アンタもできるんだろ?」と作業場へ引き摺られていく。
「えっ!?何だ?どうなっているんだ??」
嗚呼哀れなりテリオ、オヤジさんの心ゆくまで付き合ってあげて欲しい。
「アンタもだ。」
「あれぇ?」
逃げられないと分かってるだろ、サークヤよ。
シャッシャッシャッシャ
作業場に鳴り響く擦る音が二つ。
テリオとサークヤが発する音である。
「なあ、サークヤ。何で俺、こんな事してんだ?」
「...何ででしょうね。」
そんな事分かりきっている、オヤジさんに捕まったからだ。
それ以上でもそれ以下でもないだろう。
ガン!ガン!ガン!
「お昼よ~!」
「よし、休憩だ。ちょっと見せて貰おうか、新人。」
「し、新人...。」
何か衝撃を受けたようだ、固まっているテリオ。
「ふむ、アンタもやり過ぎか...。」
「や、やり過ぎって...まだこれからだぞ?」
そう、テリオにとってはまだ仕上げに取り掛かる前だったのだが...。
「はあ?これ以上鋭くするってか?だから美術品じゃねぇんだぞ?」
「...。」
言葉を失うテリオと、その様子を見ていて溜息をつくサークヤだった。
「う、美味いっ!」
「...普通よ、普通。」
テリオに褒められてもそれ程嬉しくないサミヤ。
「この食材って、この前サークヤが仕留めた兎や猪だろ?こんなに美味くなるんだな。シーナの飯とは全然違う。」
「...シーナさんに怒られますよ?」
「ふんっ!冒険者が持っている調味料と、貿易都市で手に入る調味料、一緒にしてもらっちゃ困るわね。」
「だが、昨夜入った飲み屋の飯より美味いぞ?」
「ああ、飲み屋の中には酒が入るからって、料理には力入れてない店も多いからね。」
当たりハズレがあるのよ、と説明するサミヤの務める店は当たりなんだろうな、と思うサークヤだった。
午後からも当然のように刃研ぎを熟す二人へのご褒美は、サミヤの勤める飲み屋での飲食だ。
「ほぉ、これは美味い。昨日の店とは大違いだ。」
「おう。ありがとよ、兄ちゃん。」
カウンター越しに厨房にいた店主が味を褒めたテリオにお礼を言う。
「此処は当たりの店だと思うんですよ。食べた事のないメニューも多いし。」
「めにゅう?なんだそりゃ。品書きの事か?確かに多いな。これなんか隣国の食べ物じゃないか?」
「おお、そうだよ。貿易都市だから変わった食材も手に入るんだ。」
「どんどん注文してね、テリオさん!」
どうやら標的をサークヤから懐の温かそうなテリオに替えたらしいサミヤが席の後ろから声を掛ける。
「店長の作る料理はどれも美味いから!もちろん、置いてある酒も一級品ばかりよ。どんどん注文してねっ!」
流石サミヤ、営業顔は一級品だが、昼の顔を知っている二人には別人に見えた。
「変わるもんだな...街娘って怖いな...。」
「テリオさん!聞こえますよ!」
「私が何だって?」
「「ひっ!!」」
「店長!この美味い酒ってどこのだ?初めて飲む味だが。」
「なんだ、知らずに飲んでたのか。隣国のだよ。」
「通りで。知らない名前だったから注文したんだ。この街でしか飲めないのか?」
「まあな、この街でも並べてる所は少ない筈だ。」
「ふぅん、初めからこの店来てりゃ良かったな。タークも好きそうな味だし、あんな騒動にならなかったろうし。」
店長と話をするテリオは飲めない訳ではないので少々酒が入っていた。
「なんだ、やっぱりあんちゃんが昨日の喧嘩の一人か。いろいろ聞いてるぞ?」
「なんだよ、色々って...。」
「変わった服着た二人の男が、異国のならず者をちぎっては投げちぎっては投げ...そりゃもうすごかったって...な。」
「...あ~、結構大袈裟にされてんな。まぁ、噂なんてそんなもんか。」
今度は酒飲み同士、後ろのテーブル席の客とで談笑が始まるテリオは上機嫌のようだ。
「でも騒動はもう起こさないで下さいよ。また保安隊のお世話になるの嫌ですから。」
「ははは、分かってるよ。そんなに心配しなくても暴れないって。」
ジト目でホントに?とテリオを見やるサークヤ。
「まあなんだ、この街にも手を出しちゃいけねえ輩はいるからなぁ。あんちゃんも気を付けろ?いくら腕が立っても数で押し切られっぞ?」
なんでも、この街には大きな裏組織があるようで、金儲けの為なら法から外れた事もやるが一般人には手は出さないと言う。
「保安隊はそいつらを捕まえないのか?」
「でけぇ組織のわりに、なかなか尻尾を掴ませねえからな。手が出せずにいるんだわ。」
「へぇ、そんな人たちがいるんですか?丸でヤクザだな。」
「あん?やくざ?なんだそりゃ。まあ、普通にしてれば向こうからは手は出して来ねえからよっ。」
気を付けな、と言い残して帰って行く客もまた、噂の有名人と話せて上機嫌だった。
「さて、あなたたちが最後だけど、まだ呑んでってくれるの?」
「いや、まだ暫くはこの街にいるだろうからこの辺でお開きにするか。」
そう言って立ち上がるテリオに、金額的に満足だったのかニコニコ顔のサミヤ。
「まいどありっ!」
どうやらこの店の常連となりそうだ。




