第43話 突破口
【天】
「全然車が進まない……!」
奏のマネージャーに車を出してもらったが、渋滞にはまってしまい膠着状態が続いている。くそ……! 何で今日に限ってこんなに道が混んでいるんだ!?
「天、どうしよう? 走る?」
「走ったとしても、間に合わないな……」
俺がどうするか決めあぐねていると、後ろの方から聞き慣れない重低音がリズミカルに聞こえてくる。渋滞だからバイクに乗っている人もイライラして煽ってきているのだろうか。その重低音はどんどんと近づいてくる。あまりにも目立つ音だ。俺は後ろを振り向く。バイクは徐行する車たちの際を縫うようにして進んでいる。
「天ー! 奏ー! どこだ!? いたら返事しろ!」
「天! この声!」
俺は車の窓を開けて大声をあげた。車から手を振る俺を発見した虎はバイクを横につける。
「うわぁ……かっけぇバイク」
「話はあとだ! 時間がねぇ! 二人とも乗れ!」
虎に捲くし立てられ、奏と一緒にバイクへ乗る。虎と俺の間に奏を挟むような形で乗り合わせる。
「行くぜぇ」
渋滞をものともせず車の横をハイスピードで駆けていく。振り落とされないように、奏と一緒になって虎の体に抱き着く。
「蓮? 聞こえてるよな! このままだったらあと何分くらいで着く?」
『タイマーが残り10:21。安全ルートだと9分かかる』
「安全じゃねー方で行くぞ!」
『それならここの道を真っ直ぐ突っ切るだけだ』
バイクのスピードはさらに上がる。風圧がさらにかかり、俺は体勢を崩しそうになる。
「天、大丈夫!?」
「喋んじゃねーぞ。舌噛み切るぞ」
「あ、虎。ま、前! 前前前ッ!!」
通行止めの看板ッ! 前輪で看板をなぎ倒し、派手な音が鳴り響く。ドラマの撮影でもしているのだろうか? カメラや照明などのセットが道路上に設置されていた。数十人の人が、何事かとざわめき一斉にこちらを注視する。
「ぶつかる! ぶつかるって!」
ドラマのセットで使うものだろう階段が目の前にある。決して、バイクで駆け上るために置かれているものではない。が、それを無理やりバイクが昇っていく。尻にガタガタと振動が伝わる。その振動が、階段を上り切った後どうなるかを嫌でも教えてくる。
雲一つない、きれいな……空。俺はもう見てられなくなり、虎に抱き着いたまま目を閉じる。すると……。浮遊感。
「蓮。無駄な演出じゃねぇかこれ?」
『道路にごちゃごちゃ色々置いてあるなら、飛び越える方が速い』
「天ー! 浮いてるよ! 映画みたい!」
眼下では、いろんな人々が宙に浮いているバイクをあんぐりと口を開け見ていた。あまりにも非現実的な状態で俺の頭は情報を処理しきれないためか、世界がスローモーションで進んでいく。
死……? 走馬灯のようなものが見えたような気がした瞬間、急降下。
「うわああああああああああああ!」
ドンッ!!
バイクが大きく一度跳ねる。サスペンションが悲鳴を上げ、俺たちの体はシートから一瞬浮き――、すぐに重い振動が体中に響き渡る。バイクは走り続けている。俺は魂が抜けたように、いや、本当に魂が一瞬どこかに行った。数秒途方に暮れる。
「最高ッ! こんなの初めて!」
「奏って意外と度胸あるのな」
『僕たち幼馴染の中では一番好奇心旺盛だ』
この状況下でよくはしゃげるな……。
「なぁ」
「ん? 何!?」
風を切る音でよく聞こえなかったが虎が何か言おうとしているのが聞こえた。
「オレさ。天のこと最初は訳分かんねぇ変な奴って思ってた!」
「いきなり何だよ!」
「だってよ。オレが何回押し倒しても勝てっこねぇのに向かってきただろ? 嵐山の時だってそうだったじゃねぇか」
「そんなこともあったな」
「でもよ。天のそういうところ嫌いじゃねぇ。……だから、その、なんて言うか」
珍しく歯切れが悪い。何度か口に出そうとしてはしどろもどろになるを繰り返す。
「オレ、お前たちとこれからも一緒にいたい。だから、絶対AIを止めろ」
風に煽られ、なびく金色の髪。その隙間から見える耳がほのかに赤くなっている。
「……任せろ」
残り、7:07——。
ギャギャギャギャギャッ!
タイヤが悲鳴を上げる。バイクは車体を大きく傾けたまま滑り込み、アスファルトに黒いタイヤ痕を焼き付ける。そして、数秒の慣性を感じた後ついにバイクは止まった。
「おら! 早く降りろ!」
俺と奏は目を合わせ、互いに頷く。目の前にあるアイコーポを見てその大きさにたじろぎそうになる。見上げても頂上が見えない。
入口についたけど開かない。どうやら、生体認証を行わないと開かないようだ。
愛に電話して開けてもらうしかないか。俺はスマホを操作し、愛に連絡したが……。なかなか出ない。
ブオオオオオオオオオオッ……。
虎がバイクを運転している。どこへ行く気だ? スマホからは呼び出しコールだけが虚しく鳴り続ける。その音をかき消すように、虎のバイクのエンジン音がどんどん近づいてきた。
「天!! と、虎がっ!!」
エンジン音が急速に近づいてくる。振り返ると、虎が一直線にこちらへ向かっていた。
「ん? あ!? おいおいおい!!」
「天、奏! しゃがんで頭守ってろ!」
俺は奏に覆いかぶさるようにして床に倒れ込む。その瞬間、元居た俺の場所にバイクが流星のように通り過ぎる。入り口のガラスドアが爆ぜるような轟音を響かせ、粉々に砕け散る。そして、バイクは急ブレーキをアイコーポ内の床で行い見事に不法侵入を決めた。従業員の人たちが目を点にして虎を見つめている。
『天?! すごい音が聞こえたけど何してるの!』
俺が呆けているとようやく愛と通話がつながったようだった。
「虎が、バイクでアイコーポの入り口を滅茶苦茶にした」
『ええ?!』
“シンニュウシャ ハッケン。 シンニュウシャ ハッケン。 AI制圧モードへ移行“
『何やってんのよ! 警報音こっちまで聞こえてきてるわよ!』
重厚感のあるロボットたちが次々と現れ、虎を囲んでいる。それでも虎は、一歩も引かなかった。
「天! 今のうちに行こう!」
『今からそっちに行くから! これ以上問題起こさないでよね!』
虎の方に目線をやると、俺の方に向かって手を払うような動作をして、不敵な笑みを浮かべていた。
【虎】
『僕はこうなると分かってたから止めたぞ? ほらみろ、この有様だ』
「うるせぇ。時間がねぇんだからこれが一番手っ取り早いんだ」
オレの周りには抜け道が一切ないくらい、デカブツのロボットでひしめき合っていた。ロボットは電気が走っている棒のようなものを持っている。ビリビリと言わせながら重い機体を揺らせオレの方にゆっくりと近づいてきている。
「蓮。この状況から抜け出せれるか?」
『無理だな。いくら虎のフィジカルでも抜け道がないのであれば勝機は0%だ』
「あー? じゃあその抜け道を作ればいいんだな?」
オレは給油口を開きバイクのエンジンを吹かす。ハンドルを数回まわし、急発進。
『虎、お前何を……』
バイクから飛び降り、床に転がる。無人の暴走バイクは横倒しになり、火花を散らしながらロボットの群れへ滑っていく。デカブツの電撃棒がバイクへ触れた瞬間――。爆発音と熱風が同時に襲い掛かってくる。そして、ひしめき合っていたデカブツたちは連鎖的に爆発に巻き込まれていく。
「かっかっかっかっか! あー、うるせぇ花火だ!」
『虎……。一歩間違えたら死んでいたぞ』
「死なねーよ。ほら、残党処理すんぞ」
スプリンクラーが作動し辺りは水浸し。次は小型のドローンがオレを囲んでくる。数は……数えきれないくらい。オレ……いや、正確には蓮か。ポーチからメスを出し、構える。
「鬼ごっこの始まりだぜぇー?」




